第二章 ⑤

 めぐみは、先と同じく、しんけん調ちようになる。俺も彼女に合わせて、に言った。


「おう、どうぞ」

「おにーさんは、妹さんに、どうなってしいんですか?」

「どういう意味だ?」

「……本当に、学校に行かせる気があるのか? って意味です」

「────」

「だって今日、おにーさん、まるであたしから、妹さんを守ってるみたいでした」


 本当に、ぎりを学校に行かせる気があるのか──か。ふむ……


「ないといえば、ないな」

「あ、やっぱりですか」

「ああ。俺は、紗霧にから出てきてしいんだ。学校に行かせたいわけじゃない」


 この二つ……俺とめぐみの目的は、ているようでちがう。


「学校には……行かなくていいってことですか?」

「そりゃ、行った方がいいに決まってるだろ。でも、むりやり行かせても意味ないし──もうちょっとゆっくりでもいいんじゃないかとは思う」

「……きよういくなんですよ? 家にいたらえいえんに友達いないままなんですよ?」

「そうかもな。でも、おれはそう思うんだ」


 これは、エロマンガ先生のしようたいを知ったからこそ言える台詞せりふではあった。

 ちょっと前の俺だったら、ここまで言い切れなかったろう。

 当たり前の話だが、ほんてきにゃあ、学校ってのは行った方がいい。行くべきだ。


「なんつーかさぁ、うまくいえねーけど。学校って、行った方が、しようらいのためになったり、楽しかったりするから行くわけだろ? あと、みんな行ってるしな。おまえのいうとおり、義務教育でもあるし」


 俺なんかは、しようせつ書いたりすんのに、むちゃくちゃ役立つから行ってる部分もあるし。行かないと、がくはらってくれてる人に、失礼かなとも思うし。だから行ってるんだと思うんだけど。


「『学校に行かなきゃいけない理由』なんて、あたりまえすぎて、考えるかいはなかなかねーよな。あんまり上手うまつたえられん」


 ただ、こう思うのだ。


「学校行っても楽しくなかったり、将来のためにならなかったり……そいつにとってのしあわせにつながらないやつだって、いるだろ」


 世界には、色んなやつがいて、色んなかんがあるんだから。

 俺の書いた本読んで、おもしろいって言うやつもいれば、つまんねーってキレるやつもいるように。


「………………」

「学校行ってなくたって、将来のためにがんってて、色んなことを学んで、毎日楽しくやってて、幸せに生きようとしてるやつだって、いるだろ」

和泉いずみさんが、そうだと?」

「ああ」


 俺はうなずいた。……こいつになら、少しだけ言ってもかまわないだろう。


「あいつは、ぎりは……に引きこもってなにやってんのかと思ってたら……俺にないしよで、すげーことやってたんだ」

「すごいこと?」

「ああ、もしかしたら、学校で勉強するよりも、すごいこと」

くわしい内容は……」

「すまん、教えられない。……ただ」

「ただ?」

「……これから話すのは、紗霧には知られたくないことなんだけど……みつにしてくれるか?」

「わかりました。ちかいます。絶対に、


 めぐみは、しんけんな顔で言った。ウソをいている顔ではなかった。

 おれうなずいて、ほんしんを語り始めた。


「俺さあ、ちょっと前まで、早く金をかせげるようになって、りつして……『引きこもりの妹をやしなってやろう』なんて、考えてたんだ」

「ごりつです」


 俺は首を振った。


「とんだ思い上がりだったよ。だってあいつは、俺なんかよりも、ずっとすごいやつだったんだから」


 下手へたしたら俺、妹にねんしゆうでもけているかもしれない。


「……さっき、おまえ『家にいたらえいえんに友達ができない』『友達がいないなら、ネットもパソコンも意味がない』って、言ったな」

「はい、言いました。それが?」

「これは当然、たとえばの話だけど……もしもおまえが死んだら……何人が泣くかな」

「うーん、そうですねぇ」


 めぐみは、あごに指を当てて、しばし考え込んだ。


「五百人くらい? ですかね?」


 ぱねぇ。めぐみさん、ハンパねぇ。これがリアじゆうか……おそろしい……。


「そ、そうか。ご、五百人ね……ゴホン」


 俺はせきばらいをしてからこう言った。


ぎりの勝ちだな」

「…………」


 めぐみは目を丸くしている。


「え、それって」

ことどおりの意味だ。あいつには、そのくらいたくさんの友達──とべるかどうかはわからないけれど、大切に思ってくれている人たちがいる。俺だっている」

「あたしもいますよ」

「じゃあ、おまえもいる。どーだ、俺の妹は、すげえだろ?」


 俺はむねって、まんした。


「たとえ学校に行ってなくても、から出てこなくても、あいつは自慢の妹だ。すごいやつだ。兄として、ほこらしいよ。けちゃいらんねえって、思う。今度はあいつに、みとめられたいって、思う。……だから、いつかは学校に行ってしいけど──むりやり行かせようとは、思わない」


 俺の話は、以上だ。

 めぐみは、ゆっくりと頷いた。


「そですか。おにーさんは、和泉いずみちゃんのこと、そーゆーふうに思ってるんだ」


 気のせいかもしれないが、だれかに言い聞かせるような言い方だった。


「おう、やくそくどおり、みつにしてくれよ」

「わかってますって、。もし約束をやぶったら、あたしにえっちなおしおきをしてもいいですよ?」

「言ってろ」


 にやりと笑っためぐみに、おれしようで返事をする。

 こいつとも、少しだけ通じ合えたような気がした。


「じゃ、帰ります」

「おう、今日はありがとな。ぎりのために」

「いえいえ──また来ますよ。あたし、あきらめたわけじゃありませんから。和泉ちゃんが、すすんで学校に来たくなるような……そんなプランを考えてきます」

「……たいしないでってるよ」


 げんなりと言うと、めぐみは「あはは」と明るく笑った。

 彼女は、


「アドレスこうかんしましょうよ。どうめいの、あかしに♪」


 いつしよに、和泉ちゃんを引きり出しましょう──

 めぐみは、ストラップに指をっ込んで、くるくると回す。


「はいよ。よろしくな、めぐみ」

「えへへー。よろしくお願いします、おにーさん」


 どん! と、てんじようが、れた気がした。


 めぐみが帰ったあと、俺は妹のようを見に行ったのだが、まったく返事をしてくれなかった。知ったばかりの妹の電話番号にかけてみても、つながらない。


「……くそう……」


 ……あのとき、めぐみに何か言われたのか、とか。なんでドンドンやってたんだ、とか。

 すげー音したけどしてないか? とか……色々話したいことがあったし、しんぱいでもあったのだけど。


「……こたえてくれない、か」


 れたものではあるが、やはりつらい。


かたねえ」


 俺はとうしよの予定どおり、に入ってから出かけることにした。

 しようせつのネタ出しは、さつさんごとに色々やり方があるのだろうが、俺にとっては風呂に入りながらが一番だ。熱いぶねかたまでかり、ひたすらに考え込む。

 そうすると、といいアイデアがひらめくのだ。

 さんゆるすなら、一日に何度だって、ぶねかりたいくらいである。

 さすがにおがもったいないし、一日一回しか入らないけれど。

 おれが出かけたらぎりも入るだろうから、今日は昼間から、ぜいたくにも湯を張った。

 ごと以外にも、考えるべき大事なことがあったからだ。


「俺の妹は、俺のたんとうイラストレーターだった」


 熱い湯にかたまで浸かり、つぶやく。


に引きこもっている妹とは、いままでずっとせつてんがなかった。部屋から出てきてしいと願っても、もっとなかくならなくちゃとあせっても、そのきっかけすらつかめないでいた。……けど」


 そう。けど、だ。


「いまは……そうじゃない」


 妹の引きこもりこくふくのための、そして紗霧と仲良くなるための、とっかかりを見つけたのだ。

 俺の妹は、いつしよに本を作る、仕事なかなのだから。


「……やることは、決まってるよな」


 かんたんすぎて、口に出すまでもない。


 ──おもしろしようせつを、書くこと。


 実のところ、さつなやみの九わりは、これで解決することができる。

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影