第二章 ⑥

Q.まだ学生ですがりつしたいです。どうしたらいいですか。

A.小説を書け。


Q.のトラウマをいまだに引きっています。どうしたらいいですか。

A.小説を書け。


Q.仕事がうまくいきません。どうしたらいいですか。

A.小説を書け。


Q.ちよきんがなくて、しようらいが不安です。どうしたらいいですか。

A.小説を書け。


Q.妹となかくなりたいです。どうしたらいいですか。



A.しようせつを書け!



「よしッ!」


 もとよりりつするため、金をかせぐために、なんとしても売れる小説を書かねばならんのだ。この流れは、いつせきにちようってもんだろう。

 自然、おれこうたいてきごとないようへとうつっていく。


「さあて……神楽かぐらざかさんはどの話を選ぶかなっと」


 ぱしゃり。ぶねかり、熱いお湯を顔にかけながら、つぶやく。

 前回の打ち合わせでは、まだかくしよ(という名のかんせいげん稿こう)を、へんしゆうに読んでもらっていなかったので、軽いネタ出しめいたことしかしなかった。

 前回ていしゆつしたブツを読み終わりだい、神楽坂さんから連絡があるはずだ。

 どの作品を次回作にするのか。それとも提出した作品はすべてボツにするのか。

 三年さつをやっているが、この『返事ち』の時間は、いまだにハラハラする。

 しんじんしように小説を送って、返事を待つのと、何も変わらない。

 もっとも俺のたんとう編集は、提出物へのリアクションがかなり早いので、めぐまれている方なのだと思う。原稿を受け取ってから、三ヶ月も四ヶ月も返事をかえさない編集さんも、いるとかいないとか。そうぞうするだにおっかないので、ちようされたうわさにすぎないものと思いたい。

 で。

 返事待ち中の作家が何をするのかというと、ケースバイケースで、たとえば別の作品のプロットをったり、えいぎようかつどうをしたり、ライターのごとをしたり、別シリーズのしつぴつを進めたりする。

 俺は、新人賞をかくとくして、一シリーズをかんけつさせたという実績があるものの、いまのとりひきさき以外にコネがないし、コネを作るための知り合いもいないし、飛び込み営業持ち込みができるほどの社会性の持ち合わせもないという『されたらそく』な作家であるから、こういうときは、ひたすらネタ出しをするしかない。

 全部ボツだったとき、すぐさま『次』を提出できるように。

 提出した作品に『GO』が出たとき、すぐさま『次』を出せるように。

 山ほどのアイデアをのうないみ上げていく。

 前回の打ち合わせで、神楽坂さんが『毎週しんさくを持ってくるつもりか』なんておこっていたが、じようだんきに、そうするつもりまんまんだった。

 しかし──


「……うーん、今日は調ちよう悪いな」


 のぼせるまでのうしぼっても、アイデアがひらめかないときもある。

 どうにも『別のこと』を考えてしまって、気がる。


 ──兄さんのしんさく、と~ってもおもしろいわ! マジ泣きよ!

 ──ろくてきじゆうはんだって! 私のイラスト、たくさんの人に見てもらえるのね。

 ──きゃあ! アニメ化よ、兄さん!

 ──てき! 私のいたキャラたちが、テレビめんで動くなんて……!

 ──にゃ~ん! お兄ちゃぁ~ん、き好き大好きっ♡ ちゅっちゅっ♡


「フハハハハハハハ!」


 ざば、と、ぶねから飛び出す。


「うおおおおおおおおし! ネタ出しするぞおおおおおお!」


 バシャンバシャンバシャン! ぶるんぶるんブルルン!

 テンション上がって来たあ──! でもなんにも思いつかねええええええ!

 ごとが進まないときは、全力でておくのがじようせきなのだが、目がえまくって、とてもねむれそうにない。予定どおり、本屋に行くぜ!

 ネタ出しひつしようほうその一、に入る。

 そして、ネタ出し必勝法その二……

 おもしろい本を読む、だ!


 俺は風呂から出て、すぐにえてえきまえへと向かった。

 目的地は『たかさご書店』。


とうちやく、と」


 ついこのあいだしんかんを買ったばかりだから、特別しい本があるわけではないのだが、おれはわりと毎日本屋に顔を出している。

 なんとなく、本屋に足が向いてしまうのだ。この気持ち、わかるやつがいるだろうか?


「なーんか、面白そうな本ねーかな」


 ぶらぶらと店内をやかしてまわる。たかさご書店は、マンガやしようせつについては、アニメせんもんてん顔負けのしなぞろえで、てんいんのおすすめコーナーなんかもある。今日も手作りPOPで色どられたたなに、ともす作品がしようかいぶんとともにめんちんされていた。

 ちなみに『面陳』ってのは、棚に、ひようが見えるような形でちんれつすることで、スペースを取ってしまう代わりに目立つから、他の作品よりも手に取られやすい。

 本屋さんのほんひつさつわざその一、らしい。


「へー、これがおもしろいのか」


 おれとものオススメ本に顔を近づけて、ながめる。智恵のセレクトは『いまの人気作品』だけではなく、自分ではつくつした『あまり知られていないけど面白い本』をかならぜてくるから、読む本さがしにはとても役立つ。


『いま人気のある本』って、いまさらオススメされても『知ってる』『もう読んだよ』ってなっちゃうんだよね。アニメ化で人気ばくはつした作品なんかだとさらにコレがけんちよで、きだった作品がものすごちまたさわがれていると、なんとなくモヤモヤした気分になったりする。

 ふ、ふんっ……おれの方がもっと前から知っているんですケド? 調ちように乗らないでよねっ! みたいな。


「さすが智恵……どれもどく作品ばっかりじゃないか」


 俺は、面白いにちがいない未読本の山を、たからものを見る目で眺めるのであった。

 じつてんに足を運ぶ、大きなメリットの一つがこれだ。

 あいしようのいい(しゆの合う)しよてんいんがいるお店は、俺にとって、とてもあるものだった。

 本きの中には、『行きつけの本屋さん』なんてものがある人だっているだろう。

 もう一つ。これは、作家にとってのあるあるネタなのだが──


「……俺の本、売れてるかな」


 ついつい、本屋に足を運んで、ちよの売れ行きやお店でのあつかいについて、かくにんしてしまう。

 しゆつぱんしやごと名前順でならんでいるたなから、和泉いずみマサムネのちよさくを探すと『てんせいぎんろう』シリーズだけが全巻そろっていた。他のシリーズは古いこともあって、いつさつもない。


「全巻揃っている……だと……」


 青ざめる俺。前回来たときも、全巻揃っていたからだ。つまり……

 …………売れたけど、じゆうされただけだよな? 一冊も売れてないわけじゃないよな?

 はんだんがつくわけもない。考えるだけである。

 ちなみに……『自分の本が、お店の棚にすうかんだけ残っているけど、全体的にはゴソッとなくなっている』のが、一番わかりやすくうれしい。

 全巻棚からなくなってると、てつきよされたのかと思ってハラハラしちゃうからな。


「……ふむ」


 俺はがおで、自著を棚から取り出し、ひらみされているアニメ化作品の上にならべ始めた。


「おまえらはもうじゆうぶん売れてるんだから、これ以上目立なくていいだろ。そのせきは俺の本にゆずれよ」


『平積み』というのは、ひようを上にして並べる一番目立つちんれつ方法のこと。

 人気作や新作だけがそんざいすることをゆるされるとくとうせきみたいなもんだ。


「……ふふ、これで俺の本が目立つぜ」


 つぶやいたしゆんかん

 ぱかーんっ、と、こうとうに軽いしようげき


「あいって」

「こーらっ! なーにやってんのさ!」


 振り向くと、そこにはエプロン姿すがたともがハタキをかまえていた。むーっとしたくちびるを押し上げて、ハタキでかたをトントンたたいている。

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影