第二章 ⑧

 ほう、俺は予定どおりへんしゆうへとおもむいた。うけつけでアポイントを取った後、エレベーターでちよくせつ編集部へと向かう。エレベーターが九階にとうちやくし、とびらが開く。すると、


「なんでダメなのよ!」


 言いあらそいをしている声が聞こえてきた。

 うおっ! なんだなんだ? エレベーターホールからろうのぞき見ると、神楽かぐらざかさんと、きんぱつの女の子が向き合って話していた。というかめていた。


「私が決めることではないからです」

ちなさい! このわたしが! オリコン一位のこのわたしが言ってるのよ!」


 やかましい女だな。

 めぐみの例から、女の子のとしはんだんが付きにくいのだが……紗霧よりも一つ二つ上くらいだろうか?

 俺は、自分より年下の女の子にはきようないので、そこんところかんちがいしないでしいのだが……とんでもなくうるわしい女の子だ。赤と白を多く使ったフリフリのロリータ服を着ている。っ白なはだと、金色のロングヘア。何故なぜか耳が長く、とがっている。

 ぐさがいちいち大げさで、えらそうだった。

 向き合う神楽かぐらざかさんもけてはいない。きたない大人代表ぜんとしたうでみポーズで、なまなガキを見くだしている。


「だから? そちらでかつこうしようするのは自由だと言ったでしょ? なんで私がしやするような真似まねをすると思うんですか?」

「…………フフッ、わがままね! やれやれ、かたない……特別にわたしの次シリーズ、あんたのところで書いたげる! それならいいでしょ!」

「え? ダメですけど?」

「えっ、なに? よく聞こえなかったわ。オリコン一位のわたしが、じようさいこうの美少女ラノベさつであるこのわたしが、うらり者のめいかぶってまで! このしゆつぱんしやで書いてあげてもいいと言ってるのよ? こんなかくじようけん、これをのがしたららいえいごうないわよ?」


 どんだけひよう高いんだよこいつ。


「はぁ~……そろそろ帰ってくれませんかね──あっ!」


 神楽坂さんの目が、かくれてのぞき見ていた俺をロックオンした。

 やべっ。


和泉いずみ先生! おちしてましたよ!」


 ちよううれしそうに俺をばわる。


「さ! 来て来て! そんなとこに隠れてないで、こっち来てください!」


 ……明らかに俺のそんざいを利用して、このガキをぱらおうとしていやがるな。

 わかっていても、出て行くしかないのがくやしい。


「いまわたしが話してるのよ。り込まないでちようだい


 きんぱつちよう美少女が、こうまんちきに俺をにらむ。


「割り込むなって言われても……」


 あんなに強く呼ばれて、するわけにもいかんだろ。

 俺はこのじようきようげんきようである、神楽坂さんを睨む。


「……あの、どういう状況なんです?」

「というか、こいつだれ?」


 俺と金髪むすめが、同時に神楽坂さんにうた。すると神楽坂さんは、俺のしつもんには答えず、俺と金髪娘を、順番に手で示し。


「こちらは和泉マサムネ先生。で、こちらはやまエルフ先生です」

「「え!?」」


 おどろきの声が重なる。俺と金髪娘は、おたがいの顔を指差した。


「こいつが、和泉マサムネ!?」

「こいつが、やまエルフ先生!? あの売れっ子の!?」


 山田エルフ先生というのは、『フルドライブぶん』というおれとは別レーベルにしよぞくする売れっ子作家だ。かくいう俺も大ファンで、先日サイン本を買ったばかりだ。

 最近、彼女の作品は、本屋で『アニメ化決定』のおびとともにひらみされているので、その名前を目にするかいは多かったのだが……。


「こんなに若い女の子だったのか……」


 絶対キモオタだと思ってたよ。ハーレム&ちょっぴりエッチなさくふうてきに。


「あんただって人のこと言えないじゃない。へえ、わたし以外にも、こんなに若いラノベさつがいたんだ」

「うちのエースがもっと若いらしいけどな──……そんなことより」

「なによ?」


 俺は彼女のぜんしんながめ、それからとがった耳を見つめて言った。


「本当に……エルフ?」

「なわけないでしょ!」


 もちろん、わかっちゃいるのだが、きやしやで白い彼女の見た目は、ファンタジーに登場するエルフそのものである。


「ま、美しいわたしをエルフとちがえちゃうのはもないわ。『ゆび物語』の世界から飛び出してきたみたいだって、そう思ったんでしょ?」

「そ、そうだな」

「そうでしょう、そうでしょう。フッ、よく言われるわ」


 本人には言えないが、りようじよくけいのエロゲーから飛び出してきたみたいだって思った。


「で……その……山田エルフ先生が、なんでうちのへんしゆうに?」


 ある意味、てきみたいなもんじゃないの?


「くふふっ、よくぞ聞いてくれたわね!」


 俺のいを受けたエルフは、マンガだったら集中線が入りそうな見くだしポーズで言った。


「わたしのかいさくのイラスト、エロマンガ先生にいてもらうから!」

「えっ?」


 ……いま、なんてった、こいつ。


「くふふふ、あのイラストレーター、前からすっっっごく気に入ってたのよ! あんなにえっちなイラストを描くのが上手うまいやつ、初めて見たもの! さすがエロマンガなんてわいなペンネームを名乗っているだけのことはあるわ!」


 やっぱり卑猥なペンネームだと思っちゃうよな。エロマンガ島から取ってるらしいよ? 本人いわく。ほんとかどうか知らんけど。


「わたし、作家やイラストレーターに『先生』なんてにんぎようけいしようはつけないんだけれど、エロマンガ先生だけは、さいだいげんけいひようしてエロマンガ先生と呼ばせてもらうわ! エロのかみ──エロかみさまと呼んであがめたいくらいよ」


 そんなび方したら、ジョイパッドでなぐられるぞ。


「いままでコンビを組んでたてんさいしようじよイラストレーター、アルミちゃんもちようこうふんするぜんいてくれるけれど──残念ながらエロマンガ先生にはかなわないわね! わたしは、エロマンガ先生のイラストにベタれよ! あいしていると言ってもいい! 名前からしてちがいなく描いてる本人はキモオタだろうけれど────このさい、どんなブ男でも……たとえオークでもかまわないわ!」


 ……エロマンガ先生、あいわらずひどいイメージをいだかれているな。

 バッ! エルフはかつこうよく、みぎうでを横にいで、


「あの人に、ともわたしのしようせつのイラストを描いてもらいたいのよ! あの人に、あのえっちなふでで、かいさいこうの全裸を描いてもらいたいのよ! それにわたしのぶんさいくわわれば、まさにおにかなぼう! いまだかつてだれも見たことのないきゆうきよくのラノベがかんせいするわ!」


 どどーん!

 あまりにもしんまんまんに言うものだから、かくにもわくわくしてきてしまったぜ。


「フフ……和泉いずみマサムネ。どうやら、わたしの目標がすごすぎて、こともないようね?」


 まぁ……な。しようじき、その〝究極のラノベ〟とやらを読んでみたい。



 だが、よく考えなくても、こいつの言っていることは、おれにとってひどくまずいのだ。


「そう──それでね。たんとうへんしゆうたのんで、ごとらいメールを送ってあげたんだけど! ちっとも返事がかえってこないのよ! このわたしが、オリコン一位であるこのわたしが依頼したっていうのに! ない! きっと──和泉いずみマサムネ! あんたのしんさくの仕事をやってるからにちがいないとわたしはみたわ!」


 ぎり……仕事依頼への返事、してないのか。

 それを聞いて、ホッとしたのもつかの間。


「ってわけで、やまエルフ大先生のイラストをくように、あんたたちからもせつとくしなさい」

「ちょ!」


 なに言ってんだこのアマ!

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影