第三章 ①

 やまエルフとそうぐうし『あいつよりもおもしろしようせつを書いてやる!』といきいたあの日から、数日がっていた。今日は平日、おれは今日も今日とて、学校仕事のさんれんコンボで一日を終えるはらづもりだったのだが……。

 ピンポーン。

 ほうたくした俺が仕事に取りかかろうとしたところで、じやが入った。

 ちなみに俺は、電話ちやくしんおんと、スマホのメール着信音と、インターホンの音が、先にげた順にきらいである。ボツせんこくかもしれんと思うと、気が気でなくて、音を聞くたびビクッとなるのだ。……俺だけかもしれないが。


「はーい」


 ともあれ俺は、インターホンの音にやや気を悪くしながらも、げんかんへと向かった。

 ピンポンピンポンピンポンピンポン!


「こ、このウザいピンポンれんは……」


 開けるまでもなく、だれが来たのかわかった。


「いーずみちゃーん! あーそーぼーっ!」

「いーやーよー」


 ガチャ。俺は玄関とびらを開けながら、めぐみにそう言ってやった。

 そう。扉を開けた先にいたのは、セーラーふく姿すがたちやぱつ美少女、じんめぐみであった。

 めぐみはほおを、ぷぅ、とふくらませて、


「なーんでおにーさんが出てくるんですかぁ」

「なんの用だ?」


 めんどくさいので、さっさとほんだいに入る。


「なんの用って……新しいプランを持ってまた来るって言ったじゃないですか」


 確かにそう言ってたはいたが、思いのほかはええ。リアじゆうの行動力をあなどっていた。


「……プランの内容は?」


 どうせろくでもない内容なんだろ? たいせずに聞いてみた。

 めぐみは、ふふーんととくげにしようして、俺にきついてきた。


「おっと」


 かい


「なんでけるんですか!? あたしのあいさつのハグを!」


 他の男だったなら、ありがたく抱きつかれてデレデレしていたシーンかもしれない。

 俺にはかんがな。


「……いや、玄関で女の子と抱き合ってたとか、近所のうわさになったらずかしいし」


 めぐみは、やおら顔をせて、


「ちっ……このどうていが」

「……おい、いまとんでもないことつぶやかなかったか?」

「え? 気のせいじゃないですかぁ? それよりも、プランの内容ですけど」


 めぐみは、くるりとはいを向いて、


「みんなー」


 と、ばわった。

 ……え? みんな? みんなって──

 おれとうわくをよそに、もくぜんじようきようてんかいしていく。和泉いずみげんかんさきもんちゆうの後ろからズラリと現われたのは────


「「こんにちは」」「「ちーっす」」「「一年一組、クラスいちどうです!」」

「帰れ」


 俺はれいたんげた。


「「「えーっ!」」」


 声をそろえてびっくりする、ちゆうぼう×二十以上。

 どうやら俺のかいがいにもいやがる。


「『えーっ』じゃない! オイめぐみ……てめぇ何してくれてんだよ」

「なにって、プランBですよ? ほんとは学年全員で、和泉ちゃんちにおうえんしに行こう──って計画だったんですけどぉ。さすがにそれは無理だったので、クラス一同で来ちゃいました、えへ♪」


『来ちゃいました』じゃねぇよ……。ほんとこっちのそうぞうを悪い意味でえてくるやつだな。


「なに怒ってるんですか、おにーさん? こーやってクラスのみんなで集まって」


 めぐみ&中坊どもは、ぎりがある二階のまどめがけて、声を張り上げた。


「「和泉ちゃーん!」」「「早く学校きて────っ!」」「「和泉ちゃーん!」」

「「みんな、ってるよ─────────っ!」」


「ってやれば、和泉ちゃんだってちようかんげきして学校に──」

「行かないって! むしろとんかぶってんじゃうよ! マジでやめろ! おい、そこのおまえら、深くいきい込むんじゃない! これ以上ついげきするな! もう紗霧のライフはゼロなんだよ!」


 俺はひつに止めた。

 めぐみは、そうな顔をしながらも、なかを出す。


「みんな、すとーっぷ」


 その声で、あくりようじよれいするはんにやしんきようのごとき『和泉ちゃん、学校いこー』コールが止まる。


「どういうこと? おにーさん」

「おまえらほんと、なんもわかってねぇな! ぎやくこう百パーセントだよ! もう帰れ!」

「はぁい。みんな、かえってー」


「「さよならー」」


 ちゆうぼうどもが、ずらずらと帰っていく──前に。


「今日は、ありがとー。また明日学校でねー」

「へーい♪」「へーい♪」「またねー」「うぇーい♪」「うぇぇーい♪」


 ハイタッチしたり、手を振ったり……別れぎわまで、どくとくのリアじゆうくうかんを作り出していやがる。

 話は変わるが、この『うぇーい♪』という発声を、おれは『リア充の鳴き声』とんでいる。きわめてファジーな意味合いのことで、あいさつへんとうなど、にわたって使われるらしい。

 アフリカあたりのぞくが使うなぞけ声みたいなもんだろうか。


「おにーさんもばいばーい」

「ハイハイ、うぇーいうぇーい」


 俺はぼうみで、中坊どもとハイタッチを交わすのであった。

 なにこの謎のノリ? こいつら毎日こんなことやってんの? かいできんな……。

 中坊どもが、めぐみ以外全員帰っていったあと。


「ずいぶんとなおに帰したな」

「だっておにーさん、ほんとにおこってるみたいなんですモン」


 その察しのよさを、プランを考えるだんかいはつしてくれねぇかな。


「というか、おまえにも『帰れ』って言ったつもりだったんだが」

「すぐに帰りますよ。その前に、はい、コレ」


 めぐみがプリントのはさまった板をわたして来る。


かいらんばんです」

「回覧板? なんでおまえが持ってくんの?」

「門の前に置いてあったんですよ──なんで直接とどけに来ないんですかね」

「……あー、それは、あれだ」


 ……こいつに話していいもんかどうか、まよったが、これでうちに寄りつかなくなるなら、それはそれでかまわない。悪いヤツじゃないし……だいじようだろ。


「このあたりが、のろわれてるとかいううわさがあるからだな、たぶん」

「呪いですか?」


 きょとん、とめぐみは首をかしげる。


「不幸が続いてるってこと。うちもそうだし……おとなりさんも」


 おれりんをみやった。そこには、下町にはつかわしくない、れいな二階てのていたくがある。和泉いずみどうよう、二階にベランダが見える。


むかしえらい作家さんが住んでたんだけど、病気でくなっちまったんだってさ」


 かなり昔のことらしい。いまは、電気もガスも通っていないのはずだ。


「空き屋とは思えないくらい綺麗なもんだろ? ぞくの人がかんしてるんだと」


 その作家さんは『古めかしいようかん』と『白い服の少女』が出てくる作品を書いていた。

 名前を出せば、皆が知っているようなめいさくだ。だからこそのげきというか、なんというか。


な夜なピアノが鳴るとか、白いドレス姿すがたゆうれいが出るとか、悪いうわさが流れて……いまは幽霊しきなんて言われてる」


 親父おやじがここに家を建てたとき、すでにその噂は流れていた。親父もおふくろも、噂なんてまったく気にせず『安く買えてラッキー!』って思ったんだと。けつてきには、ああいうことになってしまったわけだが、俺はこのけんを『のろい』と関連づけるつもりはない。ちようじようげんしようなんぞ、そうさくの中だけでじゅうぶんだっつーの。


「昔からある、どこにでもあるたぐいの噂だったんだけどな。一年前の件で、さいねんしちゃってるわけよ」


 直接なんか言われるよーなことは、さすがにないけど。幽霊屋敷と和泉家は呪われし場所として、ごく一部のご近所様からこわがられちまっているようなのだ。

 そんなわけで、道をはさんだお向かいさんは、かいらんばんをまわすさい、俺に直接渡さず、うちのもんぜんに置いていく。


「なるほど、幽霊屋敷ですかぁ……白いドレスの幽霊……」

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影