第三章 ③

『誰! げん稿こうならないわよ!』


 ……この台詞せりふだけで、こいつのイヤなにちじようかい見えてしまうな。

 せめてあいかくにんしてから言えよ。……俺はひようじようでこう返事をした。


「回覧板でーす」

『はあ? ……なんだ……そのへんに置いておきなさい』


 こいつ、りようこうなご近所付き合いをするつもりないだろ。てか、そもそもなんでこいつがここにいるのかもわからん。……うーん。


「山田さーん。ちょっとおうかがいしたいんですけど、なんではだかでピアノ弾いてたんですか?」

『な!』


 ぶちんっ! がたんっ! どんどんどん──ガチャ!


「こんの覗きぁ──っ!」


 本人がげんかんから飛び出してきた。はだかではなく、この前へんしゆうで見たのと同じような、ロリータ服を着ている。ほうきを振りかぶって走り寄ってきた彼女は、俺の顔をみとめるや、目をまん丸に見開いた。


「って、え!? 和泉いずみマサムネぇっ!?」

「ども」


 おれは半目で右手をげた。


「なにコレ! どういうことよ!」

「それはこっちの台詞せりふだ。なんでおまえがこんなとこで、はだかになってるんだよ」

「あ、あれは! あれは──」

「あれは?」

しゆよ!」


 どどーん。なんでこいつはいちいちカッコいいポーズを決めるのか。

 ……しゅ、趣味……?

 かなりどうようしていたようのエルフだったが、すぐにいつもの調ちようを取り戻し、むしろほこらしげに言う。


「おがりにぜんでピアノをいていると────しあわせな気持ちになるでしょう? てきな物語が浮かんでくるでしょう?」

「や、やったことないから……」

「ぜひやってみなさい! オススメよ!」


 もしかすると、あまり考えたくないが……さっきのアレがこいつなりの、ネタ出し方法だったり……するのだろうか? だとしたらあまりめられない……のかも。ずっとごとしていると頭おかしくなってくるのは、この仕事、よくあることだし。

 俺は、せいしんじようをきたしているどうぎようしやに、やさしくこう言った。


「今度からは、ちゃんとカーテン閉めてやれよ。外から丸見えいたい!」


 ほうきで顔をいてきやがった!


「あんたこそ! な、なんでこんなところでのぞきしているのよ! 完っっ全にだんしたわ! せんぷうの風でカーテンがめくれていたなんて……!」


 ばふっ! ばふっ! と、箒のさきで連続突きを放ってくるエルフ。その顔はになっている。しゆつきようへんたいかと思いきや、しゆうしんはあるらしい。


かいだっつうの! かいらんばんとどけにきたって言ったろ! 俺んちとなりなんだよ!」

「そ、そんなぐうぜん──」


 俺はごんいつさがり、和泉家のひようさつを指差した。エルフはそれをチラ見してから、


「──あったとして! 美少女のはだかをのぞくなんて最低ね!」

きで覗いたわけじゃねーよ! これには深いわけがあってだな……!」


 俺は、この家がゆうれいしきばれていること、白いドレスの幽霊やピアノの音が聞こえるといったかいげんしよううわさされていること……そして、さっきこの家からピアノの音が聞こえてきて、それを調べるためにかたなく覗いたこと──など、じようを話して聞かせた。


「ってわけだ」

「……ふ、ふうん。そうなんだ。わかったわ! ということでなつとくしてあげる! だからあんたも、さっきのは忘れてちようだい!」


 エルフはほうきを投げ捨てる。まだ顔が赤い。こいつ、いつもこうふんしてんな。


りようかいだ」


 おれとしても、この気まずいじようきようけいぞくされるのはこまる。

 ふんを切り替えるべく、自然な調ちよううた。


「おまえこそ、なんでここにいるんだ?」

「アニメのきやくほんかいに参加するために、つい最近してきたの」

「そんなのあるのか」

「ほら、アニメのせいさくがいしやって、たいていとうきようにあるじゃない?」


 いや、しらねえけど。


「わたしみずから、毎週打ち合わせにかなくちゃいけないのよ。てきなアニメを作って、世界をきゆうさいするために……ね」

「なんか、大変そうだな」

「まあね~♪ でも、わたしはアニメ化作家だから、仕方ないのよ! アニメ化作家だから!」


 いかん、調ちようこかせてしまったか。

 アニメ化決まった作家って、ほんと口を開けばアニメアニメアニメアニメ……。

 浮かれやがって。


「アニメ化が決まってからぶつけんさがしを始めたから、そんじゆうたくを買い取る形になってしまったけれどね。ちなみに、アニメ化フェアのいんぜいを当て込んで、キャッシュいつかつで、そう……アニメ化キャッシュ一括でこうにゆうしたのよ!」

「い、一括で家買ったの!?」


 親父おやじがローンでひーひー言ってたってのに……これがアニメ化の力か!


「そう! アニメ化キャ~ッシュ一括よ! 当然でしょう! アニメ化作家なんだから!」


 エルフはニヤニヤと調子こいた調ちようで、


「くふふふ……十四さいでぇ、ないいつて買っちゃうってやばいっすか?」


 くそ! ぶっ殺したい!


「ビッグなわたしだからこそできるぎようよね! それと、我がぼくたちが、わたしの本をたくさん買ってくれたからかしら? くふふ、いい子たちでしょう? うらやましいでしょう?」

「羨ましいよ! でもなあ、俺のどくしやたちだって、おまえよりは少ないかもしれないけど、毎回毎回、見つけにくいたなから、俺の本をちゃんと見つけて買ってくれてるんだぞ! にゆうしてる本屋さんだって少ないのにだ! いつもファンレターを書いてくれてる子だっているんだぞ! おまえのファンにけてないんだぞ! めんなよ!」


 悪いがこればかりは熱く反論させてもらう!


「……そこまでおこることないじゃない。悪かったわよ」

「わかればいい」

「ふん、うちの子たちの方がずっとちゆうせい高いけどね」


 忠誠度て。こいつはどくしやをなんだと思っているんだ。


「……ちなみにここ、ゆうれい出るらしいぞ」


 くやまぎれのひとことを放ってはみたものの、エルフはまるでこたえなかった。


「はっ、幽霊なんているわけないでしょ! もしもほんとにいたら、しようせつのネタにしてやるわ!」


 たくましいやつだ。さすが売れっ子さつさまだと言っておこう。


「そ・れ・よ・り・も!」


 エルフはその場で、おどるようにまわった。バッ、と、かたで家を指し、


「どう! この、天才美少女ラノベ作家、やまエルフ様のきよじようは! めたたえてもいいのよ!」


 どうって言われても……前からとなりにあるしなぁ……。


「まぁ、れいな家だよな」

「そうでしょう! クリスタルパレスとんでちようだい!」


 たくにラストダンジョンみたいな名前をつけてやがった。

 さすが売れっ子作家様のかんせいひとあじちがうぜ。

 エルフは、ちらっ、ちらっ、となにか言いたげにこちらを見ながら、


和泉いずみマサムネ。どーしてもっていうなら…………が居城、クリスタルパレスに足をみ入れるえいあたえてあげてもいいわよ?」


 ちがいなく、どうぎようしやしんきよまんしたいだけじゃねーか。


「おまえんちか……しようじききようはあるな」


 作者本人に対しては、こうかんがガンガン下がっていっているが、俺は山田エルフ先生のファンなのである。どんな家に住んでいるのか、どんなところで仕事をしているのか、見てみたい。

 それに、ひょっとしたら……売れっ子作家の家を見ることによって、何か『売れるためのみつ』みたいなもの……そのヒントくらいはつかめるかもしれない。


「そうでしょう? そうでしょう? くふふふ……オリコン一位の売れっ子作家様が住む居城に、興味あるでしょう?」

「わかったわかった」


 こいつがどういうやつなのか、段々と理解してきた。

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影