第三章 ④

 俺はためいききつつ、幽霊しきあらためクリスタルパレスへと入っていくのであった。


 クリスタルパレスとかいう大げさな名前とはうらはらに、わりとつうおくだった。りはほぼと同じで、入ってすぐに階段がある。ゆうれいしきのイメージを引きっているせいもあるのだろうが、やや暗いような気がした。


こうえいに思いなさい! あんたが我がしろの、ひとりめのきやくよ!」

「……そ、そうなのか」


 おれがひとりめ? あるのか、そんなこと……。

 なんか……こいつもとくしゆじようかかえていそうだな。


「おじやします」


 くつぎ、いつみ出すと、ぎしりとゆかが音を立てた。


「………………」

「どうしたの? こっちよ?」

「お、おう。……この家、だいじようなのか? ギシギシいってね?」

「失礼ね。だいな作家が住んでいたでんせつていたくで、たいきゆうせいにも問題はない──って、どうさんが言ってたわ。それに、このおもむきのあるところがいいのよ」


 不動産屋にてきとうなこと言われて、ぼったくられてるんじゃねーの?

 おまえが気に入ってるなら、いいけどさ──と、なつとくしかけたしゆんかん

 ぎぃぃぃぃ~~~~~。


「ひいっ」


 俺は、びくっと肩をふるわせてしまう。青ざめた顔でつぶやいた。


「…………なにいまの? ポルターガイスト?」

りよ、家鳴り。フフッ、おくびようね──和泉いずみマサムネ」


 ……思うに、こいつのふくそうがまた、このシチュエーションのきようぞうふくしているんだよな。

 俺が通されたのは、ようふうのリビングルームだった。かなり広く、軽く十じよう以上はありそうだ。えきしようテレビとテレビ台があり、テレビ台の中には、ゲームソフトやハード、アニメのBDなどが収まっている。フローリングに、赤いがらものじゆうたんかれていて、その上にガラスのローテーブルが置かれていた。その上にはノートパソコン。そのわきには白い


「ここでごとしてるのか?」

だんは二階の仕事部屋で書いているわ。ずっと同じ場所で仕事をしているときてくるから、ここで書くときもあるけれど」

「へえ」


 それがこいつなりの気分てんかんなんだろう。


てきとうすわってちようだい

「…………」


 俺はローテーブルの脇にあぐらをかいて座った。さすがに一つしかない座椅子を使う気にはなれない。こしを下ろすや、おれせんは、に入ったときから気になっていたある場所にき付けられる。

 ──ピアノである。それとせんぷう


「…………」

「あ、あんた、ピアノ見てなにそうぞうしているのよ!」


 お茶を持って来たエルフがる。


「してねえよ! もう忘れたっつうの! むしかえすな、しきじようめ!」


 がちゃん! エルフは、おぼんをローテーブルにたたき付けるように置く。


「自分で言っておいてなんだけど、そうかんたんに忘れられるわけないでしょ! このわたしの、せいなるぜんを!」


 聖なる全裸ってなんだよ。


「そういえば、おまえって初めて会ったときから全裸全裸やかましいよな──全裸きようの全裸しんでもあがめてるわけ?」

さつにしては、なかなかまとね」


 いやで言ったのに、的を射てしまったか……。


「そう! 全裸こそ、神が人に与えたもっとも自然なふく! 全裸以上にてきふくそうなどありはしないのよ!」


 全裸教の教えは、想像以上にしよく悪かった。


「ああ……だからおまえの作品、ヒロインが次々に全裸になっていくんだ……?」

「ええ! 素敵でしょ! どくしやおおよろこびよ!」


 ばんっ! 俺はローテーブルをブッ叩いた。


「な、なによ……?」


 エルフがびくっとかたふるわせる。俺はこう言ってやった。


「おまえ……おまえ……! ラブコメってもんを、まったくわかってないよ!」

「あんたなにさま!? わたしの作品、あんたの百倍売れてるんですけど!」


 ブチキレるエルフ。

 いくらなんでも百倍はりすぎだろ。せいぜい十倍くらいじゃねーの?

 ものすごい差があるのは事実だが、


「は、だからどうした。売れてりゃえらいのかよ」

「もちろん偉いに決まってるわ! うりあげとは、作家のせんとうりよくよ!」


 はっきり言いやがった。


「その考え方はきじゃねーな。つーか、はだかなんてある意味一番ドキドキしない服装だろ。ぱんつ丸出しがパンチラよりもえろくないのと同じ理由でさあ」

「そっちこそわかっていないわね! だからこそわたしのぶんさいとイラストレーターのうでの見せどころなんでしょうが! だいたい男どくしやなんて、あんたが言うほどけつぺきじゃないし! 男なんて、エロの力の前にはりよくよ!」


 げんそうてきな見てくれで、ぞくぶつ丸出しの台詞せりふきやがって。

 ファンに向かってそういうこと言うなよ。


「そんなことねえって!」


 少なくともおれは、エロいシーンが多いからおまえの本のファンやってるわけじゃない。

 それに、男の子ってのは、きな女の子のはだかだからこそ見たいんじゃないの?

 バンバンがしていいわけじゃないと思うよ、俺は。


「バーカ! わたしのぼくたちにはちゃーんとウケてるんだから、そんなことありますぅ~~~~~~~~~~~~~~」

「そんなことありません~~~~~! おまえの作品のいつかんで、メインヒロインをはつとうじようした直後にぜんにしやがったのは、いまでもクソだと思ってますぅ~~~~~~」

「はあああ!? きゆうきよくにエロくてえるめいシーンじゃない! 森のおきてで、せいたいを見られたらていそうささげなくてはいけないというメインヒロインのせつていを、さいだいげんかすてんかいだったでしょうが! ──はっ! で、でも、わたしの貞操はあげないからね!」

「いらねええええええええええええええええええええよ!」


 ほんとウゼーなこの女。自分のしようせつの設定と、げんじつこんどうするんじゃない!


「な……んですってぇ~~! このちよう美少女ラノベさつさまに対してなんて口を……! オリコン一位のわたしに、なんて口をいてくれるのよ!」

「オリコン一位オリコン一位うるせーんだよ。他のランキングではワ●ピースにかんぱいしてたし、今週のオリコンでソードアート・オンラインに抜かれたんだから、もう一位じゃないだろ?」

「ぬぐッ……!?」


 いたいところをかれたとばかりに、むねを押さえるエルフ。

 あせひたいり付けながらも、強がった調ちようで、


「……フフ……れきめ……少しは成長したようね……。まぐれとはいえ、オリコンでわたしにくろぼしをつけるとは……まぐれとはいえ……さすがはわたしがみとめた小説家よ……」


 なんでてめーがかわはら礫先生のしよう気取りよ。今週十四位くらいのくせに。


「まっ! 『』が始まれば、ブルーレイが一〇〇万枚くらい売れて、原作も部数が三百倍くらいになって、ソードアート・オンライン程度相手にもならないんだけどね! 近い将来、わたしがでんげきぶんをぶっ倒す前の……そう、中ボスみたいなものかしら」


 は、早くこいつを黙らせないと……。

 ハラハラと見守っていると、エルフはさらに調ちようこいたことをほざきはじめた。


「そして、ワ●ピース……さすがはがライバル……ぎりぎりのせきはいだったわ。今回は大人しくけをみとめましょう。……ぎりぎりの惜敗だったけれどね……」

「おまえふうにいうと、ワン●ースのせんとうりよくは現時点で三〇〇〇〇〇〇〇〇だぞ」

「………………」


 エルフはちんもくした。


「……あ……ああ……あ……」


 さおな顔色でガタガタふるえている。このあつとうてきせんりよくに、せんたもてるわけがない。

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影