第四章 ①

 あれから半月ほどがち、五月になっていた。

 ボツ続きでなやんでいるおれは、てきであるエルフのごとに、ちょくちょくやってきていた。

 その理由は三つある。

 売れっ子作家の仕事ぶりが、しんさくさんこうになるかもという理由。

 てきじようさつという理由。

 そしてなにより、となりに住んでいる売れっ子作家さまのことが、気になってかたがないからだ。

 もちろんきとかきらいとか、そういうんじゃない。

 そういうんじゃなくて……

 やまエルフの仕事ぶりが、あまりにも俺のそうぞうえていたんだよ。


「お・ま・え、なぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 今日も今日とて、エルフの仕事場に、俺の声がとどろいた。


「いいげん仕事しろよ!」

「えー、やる気でなーい」


 こうにゆうしたばかりのソファにころがり、だるそうな声を出すエルフ。

 今日も学校が終わった後で、エルフの家──クリスタルパレスをたずねたのだ。

 そうしたら、このザマである。この売れっ子作家さまは、ちっとも仕事をしないのであった。

 ワープロソフトをどうしているところを、一度たりとも見たことがない。

 だらけぎだろ。ここにファンがいるってことを忘れているんじゃあるまいな。

 俺、こいつのしんかん、めちゃくちゃ楽しみにしてるんだぜ? あこがれのてんじようびとだった作家先生が、目の前でこんなありさまになっていたら、放っておけるわきゃねーだろうが。


「やる気出ないやる気出ないって、毎日ずーっとそればっかじゃねーか。俺、ここでおまえがおおぐちたたいてるとこと、遊んでるとこと、だらけてるとこしか見たことねーぞ。そんなんでげん稿こうりにうのか?」

「さあ?」

「さあ、じゃねーよ。アニメ化決まったシリーズの新刊も、俺としようするための新作も、どっちもやらなきゃいけねーんだろ? 両方げつまつ締め切りなんだろ? そろそろやばいんじゃないのか?」

たんとうへんしゆうはそーゆってるけど、わたし、別に月末までにやるとは言ってないしー。そんなスケジュールをきよした覚えはないしぃー。ていうか、まだひとも書いてないしー、このままじゃ間に合わないんじゃないかしらー」


 ぴこぴこけいたいゲームをやりながら、まるで他人ひとごとのように言う。

 へらへらっと笑って、


「えへへ、でもだいじよう大丈夫~♪ 作家につたえられる締め切りなんて、やすみたいなものなんだから。まだまだ引っ張れる引っ張れる。それに……それに、よ? そもそもわたしのようなてんさいに、りなんてすいなモノがはたしてひつようなのかしら? ──いな! 断じて否! が心は自由であってこそ、そうぞうつばさをはためかせる……」

「ばっかじゃねーの」


 ……お、おかしいな。この前は、かっこいいやつだと思ったのだが……。

 やっぱりゴミじゃねーか。あの感動は、おれの気のまよいだったのだろうか。

 どうしてこいつは、げつまつに締め切りが二つもせまっているってのに、へらへら平気でゲームとかやってられんの? 信じらんねえ。モンハンやってんじゃねーよ。


「おい、おい、やま先生よう……きゆうきよくのラノベをつくるんじゃなかったのか?」

「創るわよ、かならず。そのために、いまはりよくじゆうてんしているの。けつさくを創るため、えいをやしなっているの。けいな口出しはやめてちようだい


 毎回この調ちようだ。無限に言いわけり出してきやがる。こいつのたんとうへんしゆうさんも、ろうしているんだろーよ。


「そんなことより、マサムネ、協力プレイしましょう。ゲーム機ならもうひとつあるから」

「しねえよ」

「じゃあ、お茶でも用意して頂戴。気がかないわね」

なにさまだてめえ!」


 りつけてやったのに、うつせになっていたエルフは、それでもゲームめんから目をはなさない。


「うるさいわねー。あんた、それでもわたしの下僕フアンなの?」

「たしかに俺はおまえのファンだけど、ぼくじゃねーんだよ」

「それにしたって、一人暮らしの美少女のめんどうを見てあげるのは、おやくそくでしょう? そのくらいのしようもないのかしら?」

「そーゆーのはな『とらドラ!』のりゆうさんとかにたのめ。げんじつにあんないいやつがいてたまるか。それに──」


 俺は、エルフのごとを見回した。

 あれほどあったダンボールは別の場所に移されており、さっぱりしている。フローリングも家具も、少々増えた仕事道具も、ぴかぴかにみがき上げられていて、たとえ本の中から竜児さんがやってきたとしても、やってもらうことはなさそうだ。


「──おまえだって、あいさかたいってガラじゃねーだろ。だんだらけているようにしか見えないのに、どうしてこんなに部屋がれいなんだ? そうしゆだったりするのか?」

「まぁね。それに人が来たとき、部屋がきたなかったらカッコ悪いでしょ」

「ふうん」


 俺のために掃除してっていてくれた、ということ……なのか?

 初めてここに入れてもらった日から、みようかんげいされているような気がするな。いつの間にか、呼び方もれ馴れしくなってやがるし。

 毎回毎回、クソ長いまんばなしを聞いてやっているからか? わからん。


「にしても……」


 あらためて見てみれば、そうをしたばかりって感じだ。おれの通う高校は、すぐ近くにあるし、今日はたくしたはずなのだが……。

 エルフは、自分が通っている中学校から帰宅して、それから俺が来るまでに、掃除するヒマなんてあったのか? 気になったので、本人に聞いてみることにした。


「そういや、おまえってどこ中よ? もしかして、俺の妹と同じ学校じゃねーの?」

「行ってないわ」

「は?」

「行くわけないでしょ、学校なんて、このわたしが」


 エルフはこちらに顔を向けず、ソファにうつせにころがったままで言う。

 なんと、こいつも学校行ってないけい女子だったとは。いや、て、ということは、だ。


「……しようそつ?」

「しょッ……小卒ってゆーな!」


 ことのナイフが背中にさったのか、エルフはゲームを中断して、ガバッと起き上がった。ひらひらのミニスカートから、白いあしがのびている。わりのロリータファッション。今日はずいぶんとすずしげだ。


「あ、あああ、あんた! ……言うにことかいて、とんでもないぼうげんを口にしてくれたわね! だ、だだだ、だれが小卒よ!」

「おまえだおまえ。だって中学行ってないんだろ? このままだといずれそうなるぞ」

「……ぐぬ」

「いや、いや、やま先生、小卒はやばいよ! 俺、他のしよくぎようのことはしんねーけど、作家で小卒はまじやばいって!」

「そ、そう?」

「そうだって! 作家って、FF5の〝すっぴん〟みたいなもんだぜ。すべての職業ジヨブのアビリティが使える最強のていへんしよくじゃん!」

「ちょッ、最後のひとこと!」


 エルフがこうしてきたが、かまわず続ける。


「小卒とかめちゃくちゃもったいねえって! 中学生になれんのは人生でいまだけなんだぜ! 行けよ! 学校! どこでもいいから!」

「だから小卒小卒うるさいのよ! 行くひつようないっつってんでしょ! わたし、ベストセラー作家なのよ!」

「! そ、そういえば……」


 おれがくぜんと目を見開く。


「お、おおお、俺はいままで、しようそつにボロけしていたのか……?」


 なんということだ……こんなことが……。

 思いのほかショックがでかい。とても一人でかかえ込めるじつじゃない。

 早稲わせとかとうだいとか出てるこうがくれき作家のみなさまがたに、ぜひとも教えて差し上げねば……。


『おいコーコーセーくん。大学くらい、いいとこいっとけよ?』だの『社会けいけんない作家とか、実によくないよぉ~』だの、ゴチャゴチャうるせーせんぱいがたに、ぜひとも、小卒にそうされてどんな気持ち? って言って差し上げたい。くやしがるぞう。


「なに悪いカオしてるのよ」とエルフが口をはさんできた。


「だいたいね──わたしが小卒なら、あんたの妹だって小卒でしょうが」

「……おまえに、妹のこと話したっけ?」

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影