第四章 ②

「話してなくてもどうるいだってわかるわよ。あの、平日の昼間っから、にいるし」

「そ、そうか……」


 ぎりのバカ! カーテンめとけっつったろ!

 あいつ、引きこもりのくせにベランダのカーテン開けるのって、いったいなんなんだ?

 道路側のカーテンとまどは、絶対開けないくせに……。

 しかし……ううむ。

 紗霧の引きこもりは、エルフにバレてしまったか。まぁ、エロマンガ先生と同一人物だということまでは気付かれていないようだけどな。


「おせっかいは、わたしじゃなくて、妹に焼いてあげたら?」

「あいつはいいんだよ、かわいいし、がんってるから。おまえはダメ、かわいくないし、頑張ってないから」

「え? わたしの方がかわいいでしょ」

「ぜんぜん?」


 くらべることさえおこがましい。


「くっ……! そ、それにあの娘、ひたすら絵ぇいてるだけじゃない! どう考えてもプロの世界で無双しているわたしの方が頑張っているでしょうが!」


 そうでもないんだけど……本当のことは言えないしな。


「とにかく」俺は話を戻す。「おまえはさっさと仕事しろ」

「だからー、やる気出ないって言ってるじゃない。人の話聞いてないの?」

「やる気はカンケーねーだろ。仕事ってのは毎日休まずするもんだ」

「えっ?」


 エルフは、ものすごおどろいたような声を出した。ゆうれいもくげきしたような顔でふるえている。


「あ、あんた……あんた……ま、まさか……ウソでしょ……? い、いい、いつも……そんなごとのやり方をしているの?」

「と、当然だろ? おれはボツが多いし、毎日書かないとやっていけな──」


「やる気がないのにげん稿こうを書くなぁああぁぁぁぁあぁあぁぁぁっ!」


 バチーン! エルフは、全力で俺にビンタをぶちかました。


「? ??」


 もちろん俺は、なんでなぐられたのか、さっぱりわからない。

 いたほおを押さえて、とうわくするばかりである。


おろか……あんたってやつは……どこまで愚かなの! すべてわかった……なぞけた……! そんなやり方をしているから、あんたの書くしようせつはつまらないのよ!」

「な、なんだと……?」

「やる気出ないときに書いた文章がおもしろいわけないでしょうが! なんでそんなこともわからないのよ! バカなの?」


 やま先生、マジギレである。よっぽど俺のぐさが気に食わなかったらしい。


「た、しようやる気なくても面白く書くのが、俺たちの仕事じゃないの?」

ちがうってばバァァァカ! 『やる気ないときに面白く』書いた文章より、やる気MAXファイヤーで書いた文章の方が、絶対面白いに決まってるでしょ!」

「そ、そりゃ……そうかもしれんけどなぁ」

「だったら! やる気MAXファイヤーのとき以外、死んでも原稿なんか書くなよ! じゃないと、実力以上の作品を完成させることはできないし! 書いてて楽しくないし! なんか、なんか……手ぇ抜いたみたいな気分になるでしょ!」

「………………………………」


 こいつの言い分も……わからなくは、ない。わからなくは、ないんだが……。


「おまえ……そんなやり方で、いままで仕事してきたのか?」


 よくやってこられたな──そういう意味で聞いたのに、返ってきたのは思いもよらないことだった。


「? わたし、仕事なんかしたことないけれど?」

「は? いや、売れっ子さつさまなんだろ?」

「もちろんそうよ。でも、それはしゆだもの」

「な……に?」


 エルフはソファから立ち上がり、ゆっくりとつくえの方へと歩く。

 ノートパソコン──自分の仕事どうに指をれさせて、言った。


「わたしは趣味でプロの作家をやっているの」

「…………」


 とつことが出てこない。るいけいはつこうすうおれの十倍の数字をたたき出すだいしようせつさまが……いま、なんて言った? ……しゆ、と、聞こえたが。


「もっとわかりやすく言うなら、遊びね、遊び。言葉のあやごとと言うことはあるけれど、わたしにとってずっと変わらず、小説を書くのは遊び。この世のなによりエキサイティングな、人生でいちばんハマったゲーム」


 何故なぜか、俺ののうには、はしゃいで絵をぎり姿すがたが浮かび上がる。


「わたしと同じゲームで遊んでるのに、手を抜くなんてゆるさないわ。つまらない真似まねはやめてちようだい


 こいつ……。なんだろ……これ……なんか、しように、むかつくんだが。

 ひどくしずかに、はらわたがえくりかえっているかんかく

 いままでもたいせつあいぼうけてしようしていたわけで、じゆうぶんすぎるほどに俺は燃えていた。

 けど……まさか、その上があるとはな。

 すげえ。さすが売れっ子作家さまの仕事場だ。アニメ化マネーで買った家だ。

 この家に、来てよかった。らしいしゆうかくがあった。みにくいしつだと笑わば笑え。


じようとうだこのクソエルフめ。勝ってやるぞ」


 俺は、宿しゆくてきに向かって、言ってやった。


「こっちは仕事でやってるんだよ。遊びでやってるやつなんかに、けてたまるか」

「遊びでやってるわたしが、仕事でやってるやつなんかに負けるわけないでしょう?」


 こいつにだけは絶対に負けたくない。

 かならず勝つ!


 こうして俺は、エルフと、今度こそ完全にてきたいした。

 のだが──……そのよくじつの夜。

 ピピピピピ!


「はい、和泉いずみですが」

『わたしよ! あんた、なんで今日は来なかったの?』


 さっそく、敵対したはずの相手から、親しげな電話がかってきたのである。

 しつではかどらない仕事をしていた俺は、思いっきり、けんにシワを寄せてしまった。

 それでもかろうじて返事をする。


「いや(おまえをやっつけるための)仕事がいそがしかったし……学校もあったし」

『ふうん、そうだったの。じゃあ、トーゼン、明日は来るわよね?』

「なんだ当然って。当然いかねえよ、明日も、明後日あさつても」

『えっ……な、なんで?』


 エルフのとうわくした声が聞こえてきた。……コイツ……なんでって……。


「……わからねぇの?」

『わ、わからないわ。教えなさい。……わ、わたし……あんたに何かしたかしら?』


 ……いやとかじゃなくて、ほんとにわかってねーな、こいつ。不安そうな声出しやがって。


「や……だからさ、おれたちっててきどうじゃん?」


 敵の家に行くわけねえだろう──と、続けようとしたら、


『ん? ちがうけど?』

「はっ?」

『えっ?』


 ? ?? と、電話しにクエスチョンマークを発生させる俺たち。


『別に、あんたはわたしの敵じゃないでしょ?』

「いや、いやいや、敵だろ? もともとエロマンガ先生をけてしようする敵同士だったし──その後ちょっとなれ合っちゃってたとこもあったけど、昨日きのう、おたがいの仕事についてのスタンスの違いで言い合いになったことで、あらためて決別したじゃねーか」


 俺にそこまで言わせて、ようやくエルフは、今日、俺が家に来なかった理由に思いいたったらしい。


『ああ、ああ、あれね。気にしなくていいってば、そんなの。どうせわたしが勝つし』

「!? か……ッ」


 かん……たん、に言いやがって~~~~~~~~~~~~~~~~~~!

 ああそうかい。話がみ合ってない理由がようやくわかったぜ。こいつは俺を、敵だと思っていないんだ。勝って当然のあいだから、勝負とすら思っちゃいない。

 だから敵対している俺に、『なんで今日は来なかったの?』なんて台詞せりふてんねんで出てくる。


「おまえのそういうところが、ほんとむかつくわ。絶対泣かせてやっかんな」

『がんばってちようだいおうえんしてるわ。で、ほんだいだけど──明日は来るわよね?』

「あのさぁ。なんでやま先生は、そうしつように俺を家に呼びたがるわけ?」

『!? な、な、なな、なに言ってるのよ! ばっかじゃないの! 別にあんたなんか、家に呼びたがってなんかないし!』

「はいはい、そんなテンプレツンデレキャラみたいなえんしなくてもいいから」

『っ……あんたのそういうところ、ほんとむかつくわ。いつか泣かせてあげるから、楽しみにしていなさい』

「がんばれ、応援してるぜ。それで……ボツ続きでしゆってて、クソいそがしい俺が、わざわざ敵の家に行かなくちゃいけない理由はなに?」

「………………」


 電話しに、しょんぼりとした空気がつたわってくる。

 ……ちょっと言いぎたな。てきとはいえ……年下の女の子に言うことじゃなかった。

 あやまろうかと口を開いたところで、エルフから回答が来た。


『……あんた、前に、わたしがごとしているところを見たいって言ってたでしょ? さんこうにしたい──とか、なんとか』

「……おう」

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影