第五章 ⑦

 おれどうようさつしたのか、そうくぎしてくれる。


たたかって……好きなキャラがいなくなっちゃうのは、かなしい」

「そうだな」


 エロマンガ先生も、どうで、死んだキャラをいたんで、おこっていたっけ。

 やさしいやつなのだ。


「いままでは、くの、ていこうあった。でも……初めて作品作りの話をして……いままでの私じゃ、だめだって思った。好きなものを上手うまく描けるだけじゃ、だめだって思ったの」


 紗霧……エロマンガ先生は、『どうるい』であるエルフと、まったく逆のことを言った。


「……すごく……くやしかった、から」


 紗霧は、そこで、ぎりり、としたくちびるんだ。

 よっぽどムカつくごとを思い出しているのだろう──かわいい顔して、おっかないプレッシャーを放っていやがる。


「……その、悔しかったことって……」

「ん」


 紗霧は、うらみのこもったまなしで、俺の顔を指さした。


「……やっぱ、俺か。……あんとき、へたくそって言った……アレだな」


 紗霧は「むむむ~」とがんこうするどくした。

 うわ。あれ、そんなに悔しかったんだ……。

 でも、そうだよな。俺だって『あのシーンがクソ』とか『あのキャラがきらい』とか、そういうことを言われたら、なにくそってはつぷんしてしまう。

 それで、いつしようけんめい練習して──書きたくなかった嫌いなシーンを、うまく書けるようになった、なんてエピソードは、俺にだって何度もある。


「私も、戦わなくちゃって思ったの。そうしたら、すんなり描けるようになった」

「戦う……?」

「そう」

だれとだ?」


 もんを言われて悔しくて、ふんしたのだから……戦うあいは、俺?


「………………」


 紗霧は首を振り、しかし答えを言わなかった。

 おれの妹の『てき』は、俺じゃなくて──他のだれかであるようだ。

 ぎりはさらにタブレットを俺のがんぜんき付けてくる。


「まだある。これも、見て」

「こ、今度はなんだ」


 次いであらわれたのは、女の子のイラストだ。俺の作品のキャラじゃない、初めて見るデザインだった。


「色をつけると、こんな感じ」

「…………」

「こっちはかみがたちがうバージョン」

「………………」

「どう?」


 なにが『どう?』なのか──これはもう、ひとでわかった。


「おまえ……きよにゆうキャラ、けるようになったのか」

「……かろうじて、見せられるレベルにはなった」


 つん、とあごをしゃくる紗霧。

 完全になつとくのいくデキではない、という言い方だった。

 練習したのだろう。……巨乳キャラを描けないって、そんな話もしたっけな。


「ほら、がすとこんな感じ」


 紗霧が指をスライドさせると、めんが切り替わり、女の子の服が脱げた。

 じようはんしんはだかの、すさまじくえろいイラストだ。


「………………」

「なに?」

「や、なんでも……」


 きな女の子に、さくのえっちなイラストを見せられるって、考えてみればとんでもないシチュエーションだよな。やましい考えだとわかっちゃいても、ドキドキしてしまう。


かんそうは?」

「……すげーえろくて、いいと思います」


 けいになってしまった。


「……ん」


 紗霧は、ふたたびあのしようを浮かべる。

 ……いかんな。エルフがけいなことを教えてくれたせいで──しきしてしまう。

 俺たちは、兄妹なのに。

 そうか……紗霧は、半月の間、ずっとこれを描いていたのか。

 考えていると、急にペンネームを呼ばれた。


「! お、おう……なんだ?」


 ぎりは、おれの目をじっと見ながら言った。


「これでわかった? あなたのしんさくから私をおろすなんて、ありえないって」

「ん?」


 俺は、いつしゆん、言われた意味がわからずこうちよくし──


「ハァ!? おまえをおろすって……なんだそりゃ! だれが言ったんだ! そんな話!」


 かいしたしゆんかんばくはつした。こればかりは妹のはつげんでも、ありえないものだったから。

 そしたら、紗霧もかんじようてきになって言い返してきた。


「だって……かくごとしてた。変な女の子と、こそこそ会ってた。いつしよにパソコンをのぞき込んで……」


 エルフが、エロマンガ先生のしようたいさぐろうとしていたときのアレか。


「兄さんが、ごと以外であんなれいな子と知り合えるわけない」


 けいがんだけど、もうちょっと言いようあんだろ。


「それに……あの女の子と会うようになってからでしょ……兄さんが、すごくやる気になったの」


 ああ──それは、そうだったな。


「だから……あの人が……新しいイラストレーターさんなんだろうな、って……私に言えない理由って、それでしょ?」


 しゅん、と、ぜんしんで落ち込む紗霧。その姿すがたを見て、つくづく思った──俺はアホだ。

 紗霧は、ふたたび顔を上げ──ヘッドセットがいらないくらいの大声を上げる。


「それで、ず~っとにこもって練習してたの! 前にもん言われたところを直して……私の実力を兄さんにみとめさせるためのイラストをいてたの!」

「!」


 それは、かくしんく発言だった。この半月……紗霧が『かずの』に引きこもって、ろくに食事も取らず、俺からの声をし続けたしんの理由は──


和泉いずみ先生が、妹をヒロインにするって、〝きゆうきよくのラノベ〟をつくってみせるって……うれしかったから! 絶対私がイラスト描きたいって、思ったから……!」


 最後に会ったときと、まったくぎやく台詞ぜりふだった。

 紗霧は、ヘッドセットを投げ捨ててさけんだ。


「ぜったい、ぜったい負けるもんかっ! 和泉先生を、あんなやつにわたさないっ!」


 ──しようだ! 俺のあいぼうを、おまえには渡さん!

 本当にアホだ。おれは、俺たちは……。とんでもないすれちがいをしていた。

 ──ったく、最初から言えってのよ──

 エルフの台詞せりふがリフレインする。まったくもってそのとおりだ。返すこともない。

 ぎりのことをめられない。

そうあに』の振りをして、バレバレのうそをついたのは、俺が先なんだから。

 ──兄貴ってのは、妹にこいなんてしない──

 自分の心にふたをして、こいごころをひたかくしにして、ひとれしたあいしがっていた──『家族』になろうとした。それがいいって、そうしようって、思ったんだ。


「それは、俺の台詞だ」

「えっ?」

「ぜんぶかんちがいだ! 俺が会ってたあいつは……おとなりやまさんのしようたいは──売れっ子しようせつの山田エルフ先生なんだよ!」

「えっ……」紗霧は目を丸くしておどろく。「山田エルフ先生って……あの?」

「そう、あの山田エルフ先生だ。あいつは……」なに言いよどんでんだ。言え!「あいつは、エロマンガ先生の大ファンで、いつしよごとがしたいんだとさ! それで、俺にけんをふっかけてきてたんだ。エロマンガ先生をけて、小説勝負をすることになってた」

「な、なにそれ……そんなの、聞いてない」

「当たり前だ。言ってねーし。言いたくなかったんだよ──俺より売れっ子作家と一緒に仕事したいって、言われるかもって、びびったから。言えなかった」


 口に出してみると、マジでダッセーな。


「は、はあぁっ!? ありえないっ! 兄さんって、ほんとばか!」

「自分でもそう思うよ。結局言わなくちゃならねーんだから、最初から言っとけよってな」

「そうじゃなくて! ……そういうところが……!」

「あんだよ」

「もういい! 小説勝負って、どうやって勝ち負けを決めるつもりだったの?」

かんせいしたげん稿こうを、エロマンガ先生に読みくらべてもらって決めるつもりだった」

「じゃあ……さっき兄さんが言ってた原稿っていうのが、それ?」

「そうだ」

「山田エルフ先生の原稿も……あるの?」

「ない」

「……な、なんで?」

「もう、やっつけた」


 とくげに、言う。……読ませたらあっちがかつはつきようして負けをみとめただけで、どうも勝ったわけじゃないらしい──というのが本当のところなのだが。

 妹の前なんだ。ちょっとくらいかっこ付けさせてくれよ。


「やっつけた……って…………」


 おれまんを聞いたぎりは、まず目を見開いておどろき、


「……すごい」


 そう言って、くったくなく笑ってくれた。

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影