第一章 ③

 けいこうとうの光を浴びて、星くず☆うぃっちの笑顔えがおがキラキラきらめく。これほどまでにゴツいかい兵器を構えて笑顔を浮かべているのが、考えようによっては恐ろしい。


「ふーむ」


 んでさ……コレ、だれの?

 俺は我がこうさかに住まう人々の顔を、順番に頭に思い描く。……が、やはり、『星くず☆うぃっちメルル』とやらの所有者にふさわしい人物は一人ひとりもいなかった。

 当然、我が家のリビングで、このアニメが放映されていた覚えもない。


(このとき俺は、パソコンでDVDがちようできることを知らなかった)


 つーと……どうなるんだ? これは? どうしてコレは、あそこにあったんだ?

 俺がさくを継続しつつ、パカっとケースを開いたときだ。


「ブフッ……!?」


 さらなるしようげきが俺をおそった。このアニメ絵パッケージを見たときより、ずっと強烈なやつだ。

 けつろんから言えば、DVDケースの中には『星くず☆うぃっちメルル』のDVDは入っていなかった。代わりに違うDVDらしきものが収まっていた。

 ……よくあることだ。ミニコンポでCDを聞いたあとなんか、俺も一つ一つ『正しいケース』に収めるのがめんどうで、シャッフルしちまうことがあるからな。

 で、後でどのCDをどのケースに入れたのか分からなくなって、混乱したりする。

 たぶんコレの持ち主も、そんなふうにおうちやくして『星くず☆うぃっちメルル』のDVDケースの中に、違うDVDだかなんだかを入れてしまったのだろう。

 ああ、ああ、分かるぜ。よくある話さ。

 だが──だが……な……?

 入っているDVDのタイトルがどうして『妹と恋しよっ♪』なんだ? よりにもよって『誰』に『何』をそそのかしてんだよおまえ。

 しかもなんだこの『R18』という、あってはならないわくの表記は。


「…………落ち着け……!?」


 おれひたいに冷や汗をびっしりかいて、呼吸を乱した。

 やばかったっ。マジでやばかったっ。何がやばかったかって、さっきお袋とそうぐうしたシーン。

 コレ、中身見付かってたら自殺もんだろ、俺。まさかホントに俺をおとしいれるわなだったのか?

 この手のものはよく分からんが、本能がぎんぎんにけいてきを鳴らしている。なんだこのタイトルから発されているドス黒いオーラは……! 仮に表記がなくともタイトルだけで分かるよ! どう考えてもコレ、俺がもっとも持っていてはならないしろものだろうが……!


きようすけ──ちゃんと勉強やってるー?」

「ヒィィィィィィィィィィイィッ!?」


 俺はだんまつの絶叫を上げながらとんをひっかぶった。

 チラリと扉の方をうかがうと、ノックもなしに扉を開け放ったお袋は、息子むすこの狂態にぜんとしていた。


「……ごめん、なんか、いけないタイミングだった……?」

「気にするなお袋。ちょっとした発声練習だ。──つうかノックしてくれ、頼むから」

「うんごめん。次からはそうするから」


 明らかに作り笑いと分かる表情で言って、扉を閉めるお袋。

 いかん……ブツを隠し切れたのはいいが、絶対妙な誤解をされただろ……くそう。

 ……なんか今日きようさんざんだな、俺。……それというのもぜんぶ、こいつのせいだ。

 布団をひっ被ったまま、なぞのDVDケースを見つめる。


「ちくしょう……」


 こうなったら、意地でもコイツの持ち主を見つけ出してやらねば気が済まん。

 俺は八つ当たり気味の決意をやすのであった。

 ……しかし、余計に分からなくなってきやがったな。

 この妙ちきりんなDVDの持ち主のことが、だ。『星くず☆うぃっちメルル』とやらのDVDケースの中に、『妹と恋しよっ♪』と題されたあやしさ抜群のブツが入っていた事実。

 俺の予想が当たっているのだとすれば、コレの持ち主は、『星くず☆うぃっちメルル』と『妹と恋しよっ♪』の両方を所有しているということになるよな。

 そしてくつばこの裏なんて場所に落ちていたことをかんがみるに、所有者は、我が家に住んでいる俺・妹・お袋・おや──以上四人の中にいる可能性が高いわけだ……。

 もちろん家族以外の人間が、この家にまったく出入りしていないわけじゃないから、『部外者説』を完全に否定するわけにもいかない。

 だがなあ……だれがわざわざ俺んに『妹と恋しよっ♪』IN『星くず☆うぃっちメルル』を持ち込んで、靴箱の裏に落としていくっていうんだ? 状況がまったく想像できねえよ。


「むう……」


 とにかくだ。『部外者犯人説』は現状、考えるだけな気がするので、ひとまず容疑者は家族内に絞って考えてみることにする。

 おれ・妹・お袋・おや……この中に『犯人』がいるとして。きやつかんてきに考えて、一番アヤシイのは、だれだ……? 『星くず☆うぃっちメルル』。そして『妹と恋しよっ♪(18禁)』といったアイテムを、家族の中で一番持っていそうなやつは……?


「俺だから困る」


 いやいや、いや。もちろん俺じゃあないぜ。いまのはあくまで、家族の中で一番そういうのを持ってそうなヤツは誰か、という意味だ。自分で言っててかなしくなってきたけども。

 とにかくアレは俺のじゃない。だってアニメとかきようねえし。そういう話をしているやつらはクラスにもいるが、俺とはあまり接点がない。

 しかしそりゃ、家族の誰にしたって同じなんだよな……。

 分かり切ったけつろんに、俺は頭を抱えて悩んでしまった。

 だって。まずお袋はないだろ? そんで親父は心底メカおんだから、DVDプレイヤーが使えるとは思えないし、あの堅物のごくどうヅラが、アニメて喜んでいる光景なんざ考えたくもねえ。でもって妹は──一番最初に除外すべき人物だ。五年くらい前ならアニメとか観ていた気がするけど、最近は流行のドラマやら音楽番組くらいしか観てないんじゃねえかな。

 子供向けのアニメDVDなんざきりしゆとはかけはなれている。

 いくらなんでもアイツが『星くず☆うぃっちメルル』を、DVD買ってまで観ている光景なんてまったく想像できない。『妹と恋しよっ♪』に至っては、口に出すのもおぞましいといったところだろう。だって桐乃だぜ? イマドキの女子中学生。今日きようだって、合コンにでもでかけたに違いないってのに──。


「はぁ……参った。さっぱり分からん」


 俺の推理は、完全にあんしように乗り上げてしまった。やっぱり家族の中にゃ犯人はいないのかとも思うが、疑うはんを部外者にまで拡大しちまうと、今度は容疑者が多すぎてらちが明かない。

 だめだこりゃ。とりあえず俺にたんていの才能はねえようだ。

 さーて、どうするよ俺。もう……めんどうくせえし、やめておくか?

 いや……やっぱ、どうしても気になる。ぜってー犯人を見付けてやる。

 自分でもなんだが、このとき俺は珍しくせつきよくてきになっていた。普段ふだんの俺なら、ここで追及を打ち切って、夕飯まで昼寝でもしていただろう。そして、もしもそうしていたなら、これまでと同じへいおんな生活が、これからも続いていたに違いない。

 だが、そうはならなかった。俺が俺の意思で、この件について追及をやめないと決めたからだ。むろんこの時点では知るよしもなかったが、良くも悪くも俺は、このとき自分で自分の運命をかくていさせてしまったのだろう。

 この件で、おれは、超特大のらいを踏み付けることになる──。


 の夕食は午後七時ジャスト。おやが帰宅するのが、いつもこのくらいの時間だからだ。このときに食卓についていないと、もんどうようで飯抜きにされる。

 現在六時四十五分。頭をぼりぼりかきながらを出た俺は、階段を下りていく。が、途中で足を止める。眼下、玄関のあたりにきりの姿を発見したからだ。

 ……ああ、帰ってきてたのか。

刊行シリーズ

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(17) 加奈子ifの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(16) 黒猫if 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(15) 黒猫if 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(13) あやせif 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(12)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(10)の書影
アニメ『俺の妹』がこんなに丸裸なわけがないの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(9)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(8)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(7)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(6)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(5)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(4)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがないの書影