第一章 ④
そういえば桐乃の門限は六時半だったか。その時刻が早いか遅いかはさておき、守ってはいるらしい。まあ見た目は高校生っぽくても、一応中学生だしな。
ちなみに
……かわいいじゃねえか。
だがこの妹様には、あまり
あっちは俺のことが嫌いみたいだし、それならお互いそばに寄らないようにすればいいだけの話である。ぐだぐだ言っても兄妹やめられるわけじゃなし。
それなりに折り合いつけてやってかないとな。
──とまあそういうわけで、桐乃が食卓に向かうのを階段途中で待っている俺。
「……ん?」
しかしどうも
……なにやってんだ、あいつ?
その場でジッとしているのもバカらしいので、俺は階段を下りていった。
リビングへの扉の前に立ち、ノブに手をかける。
「…………」
俺は、ふと首だけで振り返った。
「……なぁ。なにやってんの?」
「…………は?」
すげえ目で
……くそ。こうなることが分かってて、どうして俺はこいつに話しかけるかな……。
バカじゃねえの?
「チッ、なんでもねえよ」
舌打ちをして、俺はノブを強く回した。
食卓に、夕食のカレーと
テレビではニュースキャスターが、海外への
一方そのとなりでは、お袋が、ぽりぽり
妹は超無言。こいつは基本的に、家族には
ちなみに俺は、お袋と雰囲気がそっくりだとよく言われる。
そんな
俺は
もちろん例のDVDの持ち主を特定してやるための作戦である。
……といっても、そんなにたいそうなものじゃない。実にひねりのない、シンプルなものだ。
ようするに、あのまま推理を続けても
ずず、とアサリの味噌汁を飲み干してから、俺は
「俺、メシ
「あら、じゃあハーゲンダッツの新しいの買ってきてちょうだい。季節限定のやつね」
「ほいよ」
なんでもないお袋との会話を挟んでから、俺はしれっと切り出す。
「そういやさ。俺の友達が、最近女の子向けのアニメにはまってるらしいんだけど。えーと、
「なぁに、突然?」
俺のゆさぶりに、最初に反応してきたのも、お袋だった。まさか……。
「イヤ別に、
「やぁだー、そういうのって確かオタクっていうんでしょ? ほら、テレビとかでやってる……あんたはそういうふうになっちゃだめよー? ねぇお
お袋に話を振られた親父は、ほとんど表情を変えずに
「ああ。わざわざ自分から
ふぅん、やっぱそういう
とはいえ、ここで両親に
本音全開で
とすると……消去法で……残っているのは……?
「………………」
桐乃はきつく唇を
「……桐乃?」
妹の異常に気付いたお袋が軽く呼びかけると、
「……ごちそうさまっ」
ばん、と
バタンと強く扉を閉める。だんだんだんだんだん、と階段を駆け上がる音。
残された俺たちは
「……どうしたのかしら……あの子?」
「さ、さぁ……な」
きょとんとするお袋に、俺は適当に答えた。正直、俺にもよく分からなかったからだ。
……なにキレてんだ? あいつ……。いまのやり取りのどこに、桐乃が怒らなきゃならないポイントがあったってんだよ。もしもあいつが『犯人』で、俺のゆさぶりに気付いていたとしたなら、なおさらおかしい。
「……はぁ……」
だが……桐乃のあの態度は普通じゃない。……俺のゆさぶりに反応した……とも考えられる。
もちろんこんなもんで犯人を特定できるとは思わないし、まだまだ家族の中では
玄関で俺が拾った『星くず☆うぃっちメルル』とやらの持ち主は……
妹……なの……か?
「
親父の渋い声が、ずしりと食卓に
DVDの持ち主は桐乃。そう仮定してみると……
落としたのは夕方、
で、
それで夕飯の直前、玄関で探しものをしていたわけだ……。
補足しておくと、ケースの中身を入れ間違えたという俺の想像が正しいのなら、桐乃が持っていくはずだったのは『妹と恋しよっ♪』ではなく『星くず☆うぃっちメルル』の方だろう。
………いやまあ、アレを持っていかなきゃならん用事というのが何なのか、すでに俺の想像の
「…………うーむ」
まったく分からん。そもそもいまだに『桐乃と子供向けアニメ』という組み合わせが信じられない。なんかの間違いじゃないのか? だって桐乃だぜ? ……有り得ないだろ。
『桐乃犯人説』を立ち上げてみたはいいが、このときの俺の心情としては、半信半疑以下。
……まあ、とりあえず、ちょっと引っかけてみっかな。
「ごっそさん」