第一章 ⑤

 メシを食い終わった俺は、食卓をあとにした。いつたん自分のに戻り、さいを持ち出す。

 妹の部屋の前で、わざとらしく言う。


「さぁて。コンビニいくか」


 ……俺に役者の才能はねえな。まあいい。どうせくいくとも思っちゃいない。こんなのはあくまで引っかかったら逆にびっくりのきようみてえなもんだ。

 だんだんだんだんと、あえて音を出しながら階段を下りる。バタンと勢いよく扉を閉める。

 家を出て、ひとまずコンビニへのみちのりを歩いていく。角を曲がったところでコンビニへは向かわず、違う道を通って家の裏手へと回り込む。

 何をするつもりかって? いや、『犯人』の立場で考えてみたのさ。もしも桐乃が犯人だとしたら、たぶんヤツはもう、俺が例のブツを拾ったことに気が付いている。

 で、だ。俺が桐乃の立場だったら、どうするか。

 一番望ましいのは、なんとか俺に気付かれないようブツを回収して、あとは知らん顔している──これしかない。

 さっきの桐乃は、明らかにようがおかしかった。冷静さを失っていた。だとすると──俺が外出したスキに、我慢できなくなってブツを捜し始めるかもしれない。んでまあ、引っかかる可能性は低いが、かんたんわなを張ってみたわけだ。


「いや、さすがにねえだろ……まさか……な?」


 つぶやきながら、俺は裏手の勝手口からに入り、足音を忍ばせて階段を上っていく。

 そして、勢いよく自室の扉を開け放った。

 ギィッ!


「……………………………………おい…………何やってんだ?」

「……っ……!?」


 ええええええ!? う、うそだろ? マジでいやがったよ……こいつ。

 ど、どんだけテンパってんだ、おまえ?

 の中心でつんいになっていたきりは、ビクッと青ざめた顔で振り向いた。

 おびえたような顔。けれども相変わらずのゴミを見るようなせんが、おれの胸にぐさぐさ刺さる。


「……何やってんだ? って聞いたんだが?」

「………………なんだって、いいでしょ」


 こちらにケツを向けたまま、みつくようにつぶやく桐乃。きんちようのせいか、息が荒い。


「……よくねえだろ? 人の部屋に勝手に入って、さがしして……おまえが同じことされたら、どう思うよ?」


 しかもおまえが手を突っ込んでいたのは、よりにもよって俺のエロ本の隠し場所じゃねえか。

 口には出せぬ怒りも相まって、俺は冷然と言ってやった。


「………………」


 桐乃は無言で視線をそらす。怒りのためか、顔がこうちようし始めている。それから、ゆっくりと無言で立ち上がり、こちらに向かって歩いてきた。


「どいて」

「やだね。俺の質問に答えろよ。──ここで何やってたんだ?」

「どいて!」

「……分かってんだよ。おまえが探してるのはコレだろう?」


 きんきよでメンチ切ってきた妹に、内心非常にビビリつつ、俺はおもむろに、腹に隠していた『星くず☆うぃっちメルル』のDVDケースを取り出して見せる。桐乃の反応はげきてきだった。


「それ……!?」

「おっと」


 ものすごけんまくで手を伸ばしてきたが、俺はそれをぎわよくかい

 ハッタリの余裕をがんめんり付け、とんとんケースの背でてのひらたたく。


「ふーん。やっぱコレ、おまえのだったんだな?」

「……そんなわけないでしょ」


 これ以上ないくらいげんな声。おいおい、台詞せりふと行動が一致してねえぞ?


「違うのか? これ、夕方玄関で拾ったんだが。俺とぶつかったときに、おまえが落としたんじゃねえの?」

「絶対違う。……あたしのじゃない。そ、……そんな……子供っぽいアニメなんか……あたしが見るわけない……でしょ」


 断じて認めるつもりがないらしい。らちが明かねえな、これ。


「コレを探してたんじゃないなら、じゃあおまえ、おれで何やってたんだよ?」

「……それは……それは!」

「それは? なんだよ?」


 俺がうながすと、きりは再びだんまりを決め込む。


「………………………………」


 ぶるぶる肩を悔しそうにふるわせて、唇をみしめ、うつむいてしまう。

 俺の追及に、桐乃が強いくつじよくを感じているのは明らかだった。

 そりゃまあ、例えば俺にしてみりゃ、大嫌いな相手に『なぁおい、このエロ本、おまえのなんだろ? ヒヒッ』とか言われてるようなもんだからな。そりゃメチャクチャ悔しいし、死にたくなるほど恥ずかしいだろうよ。


「……………っ……………」


 親のかたきを見るひとみで、桐乃は無言の敵意をビシバシぶつけてくる。

 ……ちくしょう。なんで妹に、憎しみの込められた目でにらみ付けられなくちゃならんのだ。

 クソ……だんだんバカらしくなってきたぞ……。俺はこんなやつのことなんざ、どうでもいいってのに。なんでこんな気まずいしなくちゃなんねえわけ?

 やめだやめだ! やってられるか!


「ほらよ」


 俺は投げやりに、DVDケースを妹の胸に押しつけた。桐乃は、ひとみぞうを宿したままで俺を見上げてきた。


「大事なもんなんだろ? 返すから、ちゃんと受け取れ」

「だ、だから、あたしのじゃ……」

「じゃあ代わりに捨てといてくれ」

「は?」


 何を言われたのか分からない──そんな顔で俺を見上げる桐乃。

 なんだそのツラ? 俺は別に、妹いじめて楽しもうと思ってたわけじゃねえんだよ。このDVDがだれのなのか気になってただけで、そりゃもう分かったんだ。これ以上おまえとぐだぐだやってられるか。──そんな内心はおくびにも出さず、俺は空気を読んだ台詞せりふを言う。


「悪かったな、俺のかんちがいだった。コレがおまえのもんじゃないってのは、よく分かったよ。だれのなんだかしらないが、俺が持っててもしょうがねえ。あやまりついでに頼むわ。コレ、おまえが捨てといてくれねえかな、俺の代わりに」


 そこまで妥協してやって、ようやく桐乃は、


「………………ん……べ、別に……いいけどさ」


 と、ブツを受け取ってくれた。俺がわきにどいて、部屋の出入口を開けてやると、桐乃は俺と入れ替わりでを出て行く。おれはそのまま部屋の奥へと進む。


「ふぅ……」


 ったく、ありえねえ! 妹とこんなに口利いたの、何年ぶりだよ? 俺。

 超疲れたァ──俺はベッドにどさりと座り込んで、天をあおぐ。

 ところがそこで、とっくに行っちまったと思っていた妹から、声がかかった。


「……ね、ねえ?」

「あ?」


 まだいたのかコイツ。めんどうくせえな、さっさと行っちまえよ。

 俺がせんを向けると、妹は、チラチラうかがうような感じでこちらを見ていた。普段ふだんのこいつなら絶対に見せないしゆしような表情だ。……な、なんだ……? ……どうしたってんだ?

 俺は妙にむなさわぎを覚えながら、「なんだよ?」と言葉をうながす。


「………………やっぱ。……おかしいと、思う?」

「なにが?」

「だから……その、あくまで例えばの話。……こ、こういうの。あたしが持ってたら……おかしいかって聞いてんのっ……」


 …………ちっ。


「別に? おかしくないんじゃねえ?」


 心の中で舌打ちして、そうこたえた。さっさとこいつを追い払いたかったし、そう応えないと、またキレそうだったからだ。……ったく、なんでまだけんごしなんだよ。……俺はおまえのきようをおもんぱかって、ことを荒立てないようブツを返してやったんじゃねえか。そもそもおまえがドジ踏んだのが原因だろ……俺にかんしやこそすれ、さかうらみするってのはどうなんだよ。


「……そう、思う? ………………ほんとに?」

「ああ。おまえがどんなしゆ持ってようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ」


 だって俺、カンケーねえし。


「ほんとにほんと?」

「しつけえな、本当だって。信じろよ」


 内心超投げやりに言った台詞せりふだったのだが、どうやらきりは俺の言葉に満足したらしい。


「…………そっか。……ふぅん」

刊行シリーズ

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(17) 加奈子ifの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(16) 黒猫if 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(15) 黒猫if 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(13) あやせif 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(12)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(10)の書影
アニメ『俺の妹』がこんなに丸裸なわけがないの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(9)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(8)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(7)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(6)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(5)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(4)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがないの書影