第一章 ⑤
メシを食い終わった俺は、食卓をあとにした。
妹の部屋の前で、わざとらしく言う。
「さぁて。コンビニいくか」
……俺に役者の才能はねえな。まあいい。どうせ
だんだんだんだんと、あえて音を出しながら階段を下りる。バタンと勢いよく扉を閉める。
家を出て、ひとまずコンビニへの
何をするつもりかって? いや、『犯人』の立場で考えてみたのさ。もしも桐乃が犯人だとしたら、たぶんヤツはもう、俺が例のブツを拾ったことに気が付いている。
で、だ。俺が桐乃の立場だったら、どうするか。
一番望ましいのは、なんとか俺に気付かれないようブツを回収して、あとは知らん顔している──これしかない。
さっきの桐乃は、明らかに
「いや、さすがにねえだろ……まさか……な?」
そして、勢いよく自室の扉を開け放った。
ギィッ!
「……………………………………おい…………何やってんだ?」
「……っ……!?」
ええええええ!? う、
ど、どんだけテンパってんだ、おまえ?
「……何やってんだ? って聞いたんだが?」
「………………なんだって、いいでしょ」
こちらにケツを向けたまま、
「……よくねえだろ? 人の部屋に勝手に入って、
しかもおまえが手を突っ込んでいたのは、よりにもよって俺のエロ本の隠し場所じゃねえか。
口には出せぬ怒りも相まって、俺は冷然と言ってやった。
「………………」
桐乃は無言で視線をそらす。怒りのためか、顔が
「どいて」
「やだね。俺の質問に答えろよ。──ここで何やってたんだ?」
「どいて!」
「……分かってんだよ。おまえが探してるのはコレだろう?」
「それ……!?」
「おっと」
もの
ハッタリの余裕を
「ふーん。やっぱコレ、おまえのだったんだな?」
「……そんなわけないでしょ」
これ以上ないくらい
「違うのか? これ、夕方玄関で拾ったんだが。俺とぶつかったときに、おまえが落としたんじゃねえの?」
「絶対違う。……あたしのじゃない。そ、……そんな……子供っぽいアニメなんか……あたしが見るわけない……でしょ」
断じて認めるつもりがないらしい。
「コレを探してたんじゃないなら、じゃあおまえ、
「……それは……それは!」
「それは? なんだよ?」
俺が
「………………………………」
ぶるぶる肩を悔しそうに
俺の追及に、桐乃が強い
そりゃまあ、例えば俺にしてみりゃ、大嫌いな相手に『なぁおい、このエロ本、おまえのなんだろ? ヒヒッ』とか言われてるようなもんだからな。そりゃメチャクチャ悔しいし、死にたくなるほど恥ずかしいだろうよ。
「……………っ……………」
親の
……ちくしょう。なんで妹に、憎しみの込められた目で
クソ……だんだんバカらしくなってきたぞ……。俺はこんなやつのことなんざ、どうでもいいってのに。なんでこんな気まずい
やめだやめだ! やってられるか!
「ほらよ」
俺は投げやりに、DVDケースを妹の胸に押しつけた。桐乃は、
「大事なもんなんだろ? 返すから、ちゃんと受け取れ」
「だ、だから、あたしのじゃ……」
「じゃあ代わりに捨てといてくれ」
「は?」
何を言われたのか分からない──そんな顔で俺を見上げる桐乃。
なんだそのツラ? 俺は別に、妹
「悪かったな、俺の
そこまで妥協してやって、ようやく桐乃は、
「………………ん……べ、別に……いいけどさ」
と、ブツを受け取ってくれた。俺が
「ふぅ……」
ったく、ありえねえ! 妹とこんなに口利いたの、何年ぶりだよ? 俺。
超疲れたァ──俺はベッドにどさりと座り込んで、天を
ところがそこで、とっくに行っちまったと思っていた妹から、声がかかった。
「……ね、ねえ?」
「あ?」
まだいたのかコイツ。
俺が
俺は妙に
「………………やっぱ。……おかしいと、思う?」
「なにが?」
「だから……その、あくまで例えばの話。……こ、こういうの。あたしが持ってたら……おかしいかって聞いてんのっ……」
…………ちっ。
「別に? おかしくないんじゃねえ?」
心の中で舌打ちして、そう
「……そう、思う? ………………ほんとに?」
「ああ。おまえがどんな
だって俺、カンケーねえし。
「ほんとにほんと?」
「しつけえな、本当だって。信じろよ」
内心超投げやりに言った
「…………そっか。……ふぅん」