第二章 ③
「まあね。スキンを変えて、かわいいランチャー使ってドレスアップしてあるんだ。基本でしょ、こんなの」
得意げに
……つーかこういうのを見せびらかしたがるのは、オタクも女子中学生も変わらんな。
「そんで? 俺にこれを見せて、どうしようってんだ?」
「あっきれた。……まだ分かんないの?」
分かるかよ。桐乃は、俺のすぐとなりから、
「……ゲームよ、ゲーム。これから
「はあ? ゲームって……俺とおまえが?
「……そ、そう」
さっぱり分からん。どうして俺が、別に仲いいわけでもねえ妹と二人で、並んでゲームをせにゃならんのだ。対戦にしろ何にしろ、気まずいだけだろうによ。
「自分で言ったんじゃん。できる
「いや、親にバレねえよう協力するっつったんだぞ? 俺は。だいたい人生
「ひ、必要なことなの! いいから、はいコレ持って──」
「お、おい……」
いきなりテンション高くなってきたなコイツ……。
冷めていて、投げやりで、斜に構えて……妙に反抗的で。
流行の服着て、流行の
それがイマドキの中学生が考える『イケてるあたし(死語か?)』像なのかもな。
その生き方が良いとか悪いとか、
でもさあ桐乃……おまえ、そういうのより、友達とゲームやったりしたいんじゃねーの?
「……なに見てんの? なんかむかつくんですけど」
「別に?」
やれやれ……。しょうがねえな、ちっとくらい付き合ってやっか──。
俺は内心で兄貴風を吹かせ、ゲーム画面に切り替わったディスプレイを見た。
ぴっろりん。
『いもーとめーかぁいーえっくす♪ ぼりゅーむふぉーっ!
──おかえりなさい、おにーちゃんっ。妹とぉ……恋しよっ♪』
「
キレていい。いま、俺は絶対キレていい。そもそもリビングのテレビじゃなくて、
『わかってるとおもうけどぉ──おにーちゃん? このゲームにとうじょうするいもーとは、みぃんな18さいいじょうなんだからねっ』
うるせえ、おまえもちょっと
俺はズキズキ痛むこめかみを押さえながら、桐乃に向き直った。
「お、おまえな……」
「なにいきなり
詰め寄った俺に、言葉の毒ナイフをぐさぐさ
「……おい、どうした?」
「……やっぱ、バカにしてんじゃん」
「は? 何が?」
「結局……口だけなんでしょ? やってもないうちから
「あ、あのなあ……そうじゃなくて……っ」
俺はマウス片手に頭をくしゃくしゃかきむしった。
「バカにするとかじゃなくて! おまえの前でコレをやるのが気まずいんだっての! 分かれよ! お茶の間でドラマ見てる最中、キスシーンになるどころの
「……なにそれ? なに言ってるか、ぜんぜん分かんないんだケド」
まさか……本気で分かってないのか? つうか、俺が変なこと言ってるのか?
いや、だってさあ。俺はディスプレイを指差して言う。
「俺もぜんぜん詳しくないが、恐らくコレは、仮想の妹と仲良くして、どうのこうのっつーゲームだろ? そんでもって男向きの18禁ゲームだろ? ってことはだ、当然の
そこまで言ったところで、桐乃が、怒った顔のままびくっと反応した。
「おまえ、俺と一緒にそういうシーン見てて、何とも思わねえの?」
「あっ……」
口を大きく開けた桐乃の顔は、『言われていま気付いた』とばかりに
「あ、あたしは、そういうの……
「むう……」
なるほど、問題点が見えてきたぜ。たぶんこいつ、『18禁だから』『そういうシーンがあるから』、こういうゲームをやってるわけじゃねーんだ。こいつが言う『妹が好き』ってのに、エッチなことしたいって意味は含まれてない。まあ、女だから当たり前なんだろうけど……。
とにかく、んなもんだから……
「ふ──、分かった
『画面を、やさしぃく、くりっくしてねっ♡』
「だからうるせえっての!? いいタイミングで話のコシを折るんじゃねえ!」
ディスプレイに突っ込み入れちゃったよ……どんだけ混乱してるんだ俺は。
いかん、落ち着かねば……
「……ちょっとぉ、しおりちゃんを
「おまえも現世に戻ってこい。それは絵だ」
「絵って言うな!」
しまった、不用意な発言だったか……。なんつー顔で
あーもう、ったく、なんだかな……。どうすりゃいいんだ。
俺は
「悪かった。よく知りもしねーで適当なこと言ったな、俺。別に、おまえのやってることを否定したり、バカにしたりするつもりはこれっぽっちもねーんだよ。それだけは
「…………」
唇を
「でもな、その、いきなりこのゲームはハードル高いと思うんだ。ホラ、俺、まだ十七歳だしさ。バカにするつもりは全然ないけど、無理なんだって。……いや、分かるよ? たぶんメチャクチャ
「………………いくじなし」
そんな
「はぁ」
盛大にため息をつかれた。ため息つきたいのは俺の方だ。
さらに
「じゃ、宿題ね?」
「しゅ、宿題だあ?」