第二章 ④
「そう。ようするに、あたしのとなりじゃ、コレ、やりたくないんでしょ? だから、宿題。あとでノートパソコンと
「…………」
これ、断ったらまた、バカにしたとかなんとか言うんだろうな……。
「……わーったよ、やりゃあいいんだろ? やりゃあ……」
「そーゆうコト」
桐乃は得意げにマウスを
『──おにーいちゃんっ♡ ぜぇ~ったい、またあそんでネ? ばいばーい♪』
「へーいへい。ばいばーい……」
おまえは偉いよ。
俺の妹なんか、そんなふうに呼んでくれたこと、一度たりともないもん。
翌日の夕方、俺が冷たい飲み物を求めてリビングに入ると、桐乃と
ヤツは、例のごとく
まさしく姫。妹とはいえ、俺のような一般人は、話しかけることもままならないのである。
だからなんだっつーわけでもない。最近ちっとばかし話す
「…………」
俺は桐乃を遠目に眺めながら、グラスに注いだ麦茶を飲み干す。ふぅ、とひと
「──ねぇ」
「……な、なんすか?」
ぎぎぎ、
桐乃は雑誌に目を落としたまま、短く問うてくる。
「やった?」
「…………えーと。…………なんのことっすかね?」
質問の意図が分からないことをアピールすると、
「やってないんだ?」
「……え~~と……ね?」
な、なんで分かったんすか?
うおお……
「なんで? 宿題だって言ったよね、あたし? どうしてまだやってないの?」
なんで? なんで俺は、借りたエロゲーをやってないという理由で、妹に説教
俺の人生、いったいどうなっているの? ……つうかね! ぶっちゃけ、やるわきゃねーだろっちゅー話ですよ! なにが
「いやだって……な? ホラ、俺、初心者だし? 説明書見ても、やり方がよく分かんなくってさぁ」
俺は半ば涙目になりながらも、苦しい
すると桐乃は半ギレのままで、「それならそうと、さっさと言いなさいよ」と言い捨てた。
「はぁ……じゃあたしが
俺は妹に
「だ、だから……おまえのとなりじゃやりたくないっつっただろ、
「あーはいはい。ったく、わがままばっか言うんだから……とにかく来て」
クソ、なんで俺がこんなこと言われなくちゃいけねーんだ? それは俺の
階段を上り切り、例のごとく妹の部屋に連れ込まれる。
桐乃はパソコンをスタンバイから復帰させるや、こう言った。
「……仕方ないから、
「んなもんがあるなら最初から出せや!?」
「──全然分かってない。全年齢版と18禁版では同じタイトルでも、違うものなの」
この会話にちゃんと付き合ってあげる俺って偉いよな?
「はあ……でも全年齢版ってことはさ……単にエロいシーンカットしただけのモンじゃねえの?」
「そんなこと言ったら文章書いてる人にも、ファンにも失礼。二度と言わないで。……あたしは大抵18禁版でやったゲームがコンシューマとかで全年齢版になってリメイクされると、一応そっちもやってみるんだけどさ。よく『なーんか違うなー』って思うんだよねー。なんて言うの? どっか物足りないっていうか……あたしは
「ふーん」
サッパリ分からん。
「ヒロイン
んなこと、
「
「……じゃあなんで、いま全年齢版とやらを用意してんの、おまえ?」
「だーかーらー。自分がやり方分かんないって言ったんじゃん。ありがたく思いなさいよね、ちゃんとあたしが教えてあげるから」
ありがたくねえ──。
ちくしょう……。やっぱり、やんなくちゃならねーのかよ……コレ。
俺はマウスを構え、ゲーム画面に切り替わったディスプレイと向き合う。
例の
タイトルの下では『画面を、やさしいく、くりっくしてね♡』の文字が点滅中。
妙に口数が増えてきた
「じゃ、スタート。まず名前を入力して……ちょっと、なにデフォルトの名前で始めようとしてんの? 本名入れなさいよ本名」
「ほん……みょう……だと……? ……それは、なに? 絶対入力しないとダメなの?」
「は? 当たり前でしょ? 妹たちが自分の名前を呼んでくれるところが、キモなんだから。ホラ、さっさと、はい」
「クソッ、やりゃあいんだろ……やりゃあ……」
ヤケクソになる俺。初めての妹ゲーで本名プレイとか……ハードル
このあたりで『妹と恋しよっ♪(全年齢版)』とやらの基本システムについて、
ほんのさわりだけになることは
こほん……このゲームでプレイヤー・つまり俺は、主に画面下部のウィンドウに表示されるテキストを、マウスの左クリックでスクロールさせて読み進めていく。桐乃の説明によれば、
「ま、オーソドックスな
ということらしい。説明書をチラ見したところによると(たったいま取り上げられてしまったが)、基本となるプレイ画面はこのテキストウィンドウと、背景画像、そしてキャラクターの立ち絵の三つで構成されているようだ。
なお特殊なイベントシーンになると『イベントCG』と呼ばれる一枚絵が、『背景画像・立ち絵』に取って代わり、ゲームを盛り上げてくれるというシステム。
シンプルなシステムだし、
ふーん、ま、これくらいなら
名前入力を終え、ゲームをスタートさせると、まずは青空を背景に、主人公のモノローグが始まった。
俺の名前は、
……つまらん男だなー。いきなり自分で平凡とか……おいおい(苦笑)。
せっかく俺の名前を付けてやったんだから、もうちょっと気の利いたこと言えや。