第二章 ⑤

 俺のネガティヴな感想をみ取ったのか、きりがタイミングよく解説を入れる。


「あのね、こういうゲームの主人公って、プレイヤーが感情移入しやすいように、たいてい平凡で地味な性格に設定されていることが多いの。あと、ほんぺんで成長する余地を残しておくために、最初はちょっとヘボくしておくんだって」

「ふーん」


 ……自分のことを言われているわけじゃねえはずなのに、妙に胸がズキズキと痛むのは、なんでなんだろうな。同姓同名だからなせいか、まるで他人とは思えん。

 よし、つまらん男と言ったのはてつかいしよう。よろしくな、京介。

 しっかし……この手の話題になると、途端とたんじようぜつになりやがんなぁこいつ。

 俺は桐乃の楽しげな解説を聞きながら、クリック、クリック、クリック、クリック…………

 平凡で地味なモノローグが終わり、画面が暗転。ちゅんちゅんすずめが鳴くエフェクト音。


 京介「ふぁ~~……よく寝たなぁ。昨日きのうは遅くまで勉強していたから、仕方ないかぁ」


 じやつかん台詞せりふが説明的な気もするが、そこはまあ気にしないでおこう。

 さて、ゲームテキストをそのまま表記していくのもなんだ、要約して説明するとだな。

 このゲームの本編は、主人公・京介が自分ので目を覚ますと、なんと妹のしおりが、同じとんの中で眠っていたというシーンからスタートするわけだ。


 京介「うわっ……し、しおり……?」


 がばぁっ。あわてて起き上がる。ぱちぱちとまばたき。

 きようすけ「びっくりしたぁ。……ったく、しおりのやつ、いつのまに……」


 ん? 妙に反応がうすいなコイツ。

 おいおい、もっと身の危険を感じろよ京介。寝ぼけてんのかおまえ──。朝起きたら、妹がいつしよに寝てたんだぞ? そこは絶叫してしかるべきだろうが?

 ちなみに、しおりとやらの見てくれは、黒髪ツインテールの気弱そうなチビガキである。

 この前、きりがお気に入りだとかしていたキャラクターだ。いまは髪をほどいて、ストレートにしている。


「ねぇ、ねぇ、すやすや無防備に眠ってるところ、どう? びっくりしたっしょ?」

「いや……どうだろう、な。……ふ、普通?」


 イベントCGを絶賛している桐乃に、おれあいまいに答えた。

 クリックしてテキストを進めようとすると──ぽこん、画面中央に新しくウィンドウが開く。


「お?」

「それがせんたくぶんね。要所要所で、主人公の行動をプレイヤーが選ぶわけ。で、その結果いかんによって妹たちの好感度が上下したり、その後のストーリーが変化したりすんの」

「ふーん? ……で、じゃあ、どれを選べばいいんだ? 三つくらいあるけど」

「は? そこは自分で決めなきゃゲームの意味ないじゃん。大丈夫だって、このゲーム、選択肢すっごくかくにんなのばっかだから」


 軽く言う桐乃。なるほど、それもそうだな。

 俺は主人公が取るべき行動を選択することにした。えーと……なになに?

 すやすや眠るしおりを、俺は……

 1.ぎゅっとやさしくめてあげた。


「却下だな」


 死ぬつもりか? 妹の寝込みを抱き締めるとか、狂気のだろ……。

 2.起こしてしまわぬよう、そっととんを抜け出した。


「ふむ……」


 なんな選択ではある。しかしな、京介? ここできっちりしつけておかないと、おまえ、後々なめられることになるぞ? ウチの妹はもう手遅れだけどさ、おまえは俺と同じてつを踏むんじゃない……。よってこれも却下。俺は三つめの選択肢を、迷いなくクリックした。


 3.もんどうようで、布団からり出した。

 ドゴッ!(画面が振動するエフェクト)


 京介「おい、勝手に人の布団入ってくんじゃねーよ! さっさと起きろバカが!」


 よし! 適切な行動だ。それでこそ兄。ふん、なかなかいいゲームじゃねえか。さてお次は、


「しおりちゃんになんてことすんのよッ!?」


 ドゴッ! 現実の妹からはんげきがきた。問答無用でり飛ばされ、おれごとひっくり返る。


「ってぇな!? いきなりなにすんだ!?」


 起き上がるなり文句を言った俺を、きりはものすげぎようそうった。


「なにすんだはこっちの台詞せりふ!? なんで最初のせんたくが『問答無用で、とんから蹴り出した』になるワケ!? 信っっじらんないっ、どういう思考回路してんの!?」

「いや……その……まずは妹に、なめられねーよーにと……ね?」

「はぁ? なんか言ったいま?」

「なんでもないっす」


 弱っ! 俺、弱っ……。ったく、こっちの妹はえーな、反撃の糸口さえ見付からん。

 きようあくに育っちまったら、もう手遅れなんだよなあ……。

 俺は蹴っ飛ばされたわきばらを押さえながら、内心でなげくのであった。

 に座り直す俺。マウスをつかみ、ゲーム再開。クリックしてきようすけの台詞をスクロールさせると、突然、もの悲しいBGMに切り替わった。


 しおり「ご、ごめんね……ごめんね京介おにいちゃん……ひくっ……わ、わたし……ゆうべ……ひとりじゃねむれなくって……それで……そのぉ……」


 京介「はぁ? なんか言った?」


 しおり「ひぅ……な、なんでもないよう…………え、えへへ! おはよ、おにーちゃんっ」


 しおりは、俺が蹴っ飛ばしてやったわきばらを押さえながら、それでもけな微笑ほほえむのであった。


「いやな野郎だな、この主人公」

「自分の選択の結果でしょっ!? つか、こんなシナリオあったんだ! こんな選択肢絶対選ばないから初めて知ったんだけど! ……あーもぅっ……かわいそうじゃん、しおりちゃん」


 ゲーム開始早々ひどい扱いを受けているヒロインをあわれむ桐乃。

 でもおまえ、たったいま、俺に似たような台詞言ってたよね?

 けんめいな俺は内心の疑問を口には出さず、健気にもゲームを続けるのであった。

 ゲーム開始早々、朝っぱらからいやな空気になってしまったこうさか。選択肢ぶんによってぼうくんと化した主人公・京介は、しおりをから追い出すと、制服に着替えて食卓へと向かう。

 そこでは、主人公をしたう六人の妹たちが待っていて──


「なぁ桐乃? こいつら似てないにもほどがあるだろ。どう見ても血ぃつながってないじゃん」

「しょうがないでしょ。ヒロインごとに描いている人が違うんだから」


 すいな質問をしておいてなんだが、それは最悪の回答じゃないか? まあいいや、とにかく突っ込んじゃいかんところなんだろう。

 おれはマウスを左クリック。全ヒロインがせいぞろいする食事イベントがスタートする。

 ぴっろりん。画面が食卓をかんする視点に切り替わった。妹たちの顔面をかたどったアイコンがあちこちに散在し、てかてか点滅としゆうしゆくり返している。がんめん上部には、まるっこいフォントで『おにいちゃんは、だれとお話したいのぉ~』との表記。


「お? またなんか画面変わったぞ?」

「それはイベントせんたく画面。話したい妹のアイコンをクリックすると、その妹との会話イベントが発生すんの。で、そこでもやっぱり選択があって、それによって好感度が上下するってわけ」

「ふーん。ところでさっきから言ってる『好感度』ってなに?」

「妹が兄をどれだけ好きかってのを、数値化したパラメータ。これが一定数値以上じゃないと見られないイベントとかあんの。もちろん個別エンディングもそう。だから基本的には、攻略したい妹とのイベントをいっぱい見て、好感度を上げていくのがクリアのコツ。ちなみに複数の妹の好感度をたくさん上げておくと、バレンタインとかで特殊イベントが発生しやすくなるから絶対押さえておくべきね」


 さっきからこいつ、説明にねつ入りすぎ。べらべらべらべらとよ……そんなに楽しいのか。


「そ、そうか……ところで聞くけど、おまえの俺への好感度はいくつ?」

「……聞きたい?」

「いやいい」

刊行シリーズ

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(17) 加奈子ifの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(16) 黒猫if 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(15) 黒猫if 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(13) あやせif 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(12)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(10)の書影
アニメ『俺の妹』がこんなに丸裸なわけがないの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(9)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(8)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(7)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(6)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(5)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(4)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがないの書影