第三章 ②
それこそお
無地のシャツにジーンズなんつー格好の俺とは、なるほど釣り合うまい。
でもな……。もう遅いから言わないけど。おまえ……
「よし。ンじゃこっからは
「え? あ……うん。分かった」
「心細そうな顔すんなって。ちゃんと見ててやっから」
「──そ、そんな顔してない。バカじゃん、さっさと行けば?」
「へーへー。──じゃあな」
俺は軽く片手を挙げて、妹に背を向けた。
……
この辺はさすがに
……はー、祭りみてーだ。
それでも俺は、そう思った。
俺は感心しつつ、肩にかけたバッグから、プリントアウトした地図を取り出して眺める。
……あ、道こっちじゃねえや。ぜんぜん逆じゃん。
俺は一旦、引き返すために振り返ったのだが、そこには依然として桐乃が立っている。
俺は横断歩道をわたり、ブックタワーの入口付近で立ち止まった。
……えーと、こっちでいいんだよな?
俺はそのまま、道路沿いに直進した。地図に従って数分歩くと、周囲の町並みが、
「と、ここか」
俺は足を止め、ロッジ風の建物を見上げる。カフェ『プリティガーデン』の
からん、かららん──
「「お帰りなさいませ! ご主人様!」」
エプロンドレスのメイドさんたちが、声を
俺は見なかったことにして扉を閉めた。
「……………………ど、どどど、どういう……ことだ……?」
両手で扉を固く押えつけながら、
周りが普通の町並みだからって、ここがアキバだっつーことを忘れてた……。
──メイド
ようやく脳が状況を理解し、遅ればせながら脳内で突っ込みが言語化された。
すうはあと深呼吸し、恐る恐る、再び扉を開ける。
からん、かららん──
「「お帰りなさいませ! ご主人様!」」
さっきと同じ光景が、再び展開された。……クソ、やっぱり幻じゃなかったようだぜ……。
俺を出迎えるために、ぱたぱたとかわいらしい挙動で、メイドさんが寄ってくる。
白いふりふりのエプロン姿。やたらと短いスカートと、長いソックスを
とにかくかわいさ重視の
内心帰りたくてしょうがなくなっていた俺ではあったが、先に行ってスタンバってると約束しちまった以上、ここで引き返すわけにはいかない。覚悟を決めて一歩を踏み出す。
「一名様でございますか、ご主人様?」
「は、はあ……」
「はぁい、それでは、こちらへどうぞ~♪」
メイドさんに連れられ、俺は
「こちらのお席でよろしいですかぁ?」
「ええ、あ、ども」
俺はメイドさんに
どのメイドさんも結構かわいい顔をしているし。
「こちらがメニューです♪ ご主人様。──呼び方のオーダーはございますかぁ?」
「え? な、なんすかそれ?」
「はい♪ わたくしどもがぁ、ご主人様のことをどう呼ぶか、決めてくださいっ。ちなみにメニューは『ご主人様』『
……メイド
もう笑うしかねえ。なるようになれだ。
「……いやその、なんでもいいっす」
「そうですかぁ? じゃあ、『おにぃちゃん』って呼ぶね? おにぃちゃん♪」
と、いきなり態度が
「なにか言った? おにぃちゃん?」
「いえいえ!」
おっかねえな。心読まれたかと思ったわ。俺が手の甲で
まだ昼飯食ってないからなー……なんかハラにたまるもんを……と……。
「…………?」
俺は
ん……まぁなんだ、とりあえず数例を挙げてみよう。
♡らんちっ♡
メイドさんのらぶらぶオムライス(ケチャップorオタフク) 900円
いもうとの手作りカレー(ぱるぷんて味 べぎらごん味 ざらき味)1000円
ツンデレ委員長の特製ラーメン 800円
♡どりんくっ♡
スピリット・オブ・サイヤン 300円 超神水 300円 神精樹ジュース 300円
──どうだ、よく分からんだろう。ランチは食い物の名前がくっついてるからまだいいが、ドリンクにいたっては何が出てくるのかまったく想像がつかねえ。どうしろと?
仕方ないのでメイドさんに聞いてみた。
「すんません、この……すぴりっと……おぶ……さいやんってなんすか?」
「はい♪ そちらは野菜ジュースですよっ、おにーいちゃんっ」
じゃあ野菜ジュースって書けや。──とはもちろん言わない。そういうモンなんだろうし。
ちなみに『超神水=サイダー』、『神精樹ジュース=フルーツミックスジュース』らしい。
「ご注文はお決まりですか? おにぃちゃん」
「いえまだっす……すんません」
情けないことに、
「ちなみにわたしのオススメはぁ。──いもうとの手作りカレーでぇす。わたしの手作りなんだよっ、おにぃちゃん♡」
「じゃ、じゃあそれで」
クソ。このアマ、さりげなく一番高いのを選びやがって……いや、流される
「オーダー入りましたぁ♪ いもうとの手作りカレー・ざらき味よろしくでぇっす♪」
しかもザラキ味かよ。とりわけヤバそうなのじゃねーか。くっ……もうどうにでもなれ。
まぁ、さすがに
「はぁ……やれやれ」