第三章 ③
メニューを選ぶだけで疲労しつつある俺であったが、とにもかくにも一息ついた。
ぎしっと
と、そこで扉が開き、団体客が姿を現わした。
からん、かららん──
「「お帰りなさいませ! ご主人様!」」
おっ、来たな。俺はバッグから野球帽を取り出し、
そしてさりげない
ぞろぞろっと、女の子の集団が入ってくる。
コスプレらしき
──うおっ、
心の声とはいえ、あまりにも失礼な物言いだと思うかも知れない。だがな、アレを見てもそれが言えるかな? 俺は集団の先頭に立って入ってきた女の子? を注視した。
ええと……まずね? でかいんだわ。超でかい。とにかくでかい。
頭にバンダナ巻いて、ぐるぐる
おまけにそのリュックに、丸めたポスターを
……ようするに……テレビとかに出てくる『典型的なオタク像』そのものの格好をした、スパーモデルみてーな体格をした女の子? だ。
やべー、ビックリしすぎて
はー、
だいぶ頭が混乱してきたので、
そんな俺の
「
……とんでもねえ
顔色ひとつ変えないメイドさんからはプロの
「はぁいっ。お名前うかがってもよろしいですかぁ?」
「
ブッ──!? 俺は盛大に水を
「……がはっ……げほごほげほっ……!?」
「きゃっ! だ、大丈夫ですかおにいちゃん!?」
メイドさんに背中をさすってもらいながら、俺はもだえ苦しんだ。やっべ気管に入った……!?「げはげはごほッ……!?」クソッ、
これだけは……これだけは突っ込んでおかねば、死んでも死に切れねえ……。
ハンドルネーム〝沙織〟さんってコイツかよ!? しかもバジーナて、日本人だろアンタ!?
っあ──そうだよなあ! コミュニティの名前からしてアレだったもんなあ!
まぁね? ネット上の人格と実物が一致しないのなんざ珍しくねーって、そんくらいは俺でも分かるよ。でもな、いくらなんでもこりゃあ
想像どおりの、
アンタは斜め下にぶっ飛びすぎですから! 俺の十七年の
おそろしくタチの悪い出オチじゃねーか。なんてこった。この俺が、話したこともねえ初対面の相手に、こんな死ぬ気で突っ込んでしまうとは……。
「……ごほっ……はぁ……はぁ……ども、すんません、お
「いえいえ~。じゃ、代わりのお水、お持ちしますねっ♪ でもでもおにーちゃん? 次、やったら怒っちゃうゾ♡」
こつん。俺の頭を軽くゲンコツでつっつくメイドさん。突然のハプニングにも、メイドさんは
「くっ…………いやっ、ほんと申しわけない……」
俺は涙目で赤面した。しかもいまの
ちらほらいる男性客たちから『貴様、うまくやりやがって……』という
いやいや! ワザとじゃないっすよ!? ああっ、居づらくなっちゃったよ
チラッ。再び入口付近に視線を向けると、
俺が目線だけで訴えると、
「…………ふんっ」
アイコンタクトが通じたのかどうなのか、
……しっかしアイツ……めちゃくちゃ浮いちまってんなぁ。
それもそのはずで『オタクっ
そんな中に、気合ばりばりでコーディネイト決めてきたティーン誌モデル様(茶髪)が混じってんだもんな──そりゃあ浮くって。
そこで、入口付近に
「たいへんお待たせいたしましたぁ~。それでは、お席にご案内いたしま~す♪」
メイドさんに
桐乃たちが通されたのは店の
およそ十人のオタクっ娘は幾つかのグループに自然と分かれ、お
「…………………………」
……き、桐乃のやつ、孤立しちゃってるじゃねえか……。
これは切ねえ────
「あの……」
そんな具合に桐乃が恐る恐る話しかけても、二言三言話しただけで、会話が止まってしまう。
お互いに相手を
俺は舌打ちをした。
だよな……こうなるんじゃねーかって……
桐乃はいつも『下郎め、寄るでない』みたいな姫様オーラをびりびり放出している。
もちろん学校では、それでもいいんだろう。クラスにゃ
でもって桐乃は、クラスで一番華のあるグループで、さらに中心的な存在として
トゲのある姫様オーラは、同属性のヤツらを
だけど、いまここでは、そうじゃない。
狼がどんなに必死に話しかけようが、羊の方はビビリまくった上で『なんでコイツが、あたしたちの群れに混じっているの?』──と、なっちまう。
「~~~~っ」