第三章 ⑤

「きりりん氏、ところでこちらの男性は? かんちがいでなければ、さきほど店内でお見かけしたような気が──ああなるほど」


 おり一人ひとりで勝手にとくしんして、


「彼氏でござるな?」

「「違ぁ──う!?」」


 同時にはんろんする俺&桐乃。よりにもよってなんつー勘違いしてやがる!?


「はて、違うとおっしゃる? いや失敬──しかしせつしや、そちらの彼氏は先ほど、店内でずーっときりりん氏をぎようしていたようにお見受けしましたぞ? てっきりアレは愛のまなざしであろうと得心しておったのですが」

「なわけないじゃん!? やめてよも──っ! 想像しただけでキモっ!?」


 むっかつくなこの妹様はよ……否定するにしたって、ほかにもっと言いようがあるだろ。

 そう思いながら俺は補足する。


「俺はこうさかきようすけってもんで、こいつのれっきとした兄だっての。勘違いすんな」

「ほほう。なるほどなるほど、きりりん氏の……似てない兄妹ですな」


 ほっとけや。

 ふむふむとうなずいた沙織は、俺に向かって軽くしやくをした。


「それでは改めて。すでにぞんであろうかと思いますが、わがはいは〝沙織・バジーナ〟と名乗っておるものでござる。〝沙織〟とお呼びくだされ。ニン」

「……こりゃどーもごていねいに……」


 ニンて。ほんっと、いかにもオタクっぽいなあんた! あと一人称変わってんぞ?

 心の中で突っ込みつつ、俺は会釈を返した。


「ではでは、京介氏──京介氏とお呼びしても構いませんな──京介氏もごいつしよにどうです?」

「どうですて……その二次会とやらのことか?」

「もちろん! いかがかっ?」


 うお、いきなり顔近づけんなって。びっくりするだろが。

 俺がひるんで一歩さがると、代わりに桐乃が口を開いた。ちょっぴり不安そうな調ちようで、


「えっと、それって……他にもたくさん人が来るの?」


 つまり行きたくねーんだな、こいつ。理由は分かるよ。行ったってまたものにされるんじゃあおもしろくねーもんな。

 桐乃の場合、他んトコじゃちやほやされてばかりいたもんだから、余計にきっついんだろう。

 しかし沙織は「いやいや」とおおな身振りで首を振った。片手の指を四本立てて言う。


「きりりん氏ときようすけ氏を合わせて四人です。先ほどせつしやがあんまりお話できなかった方と、もっと仲良くなりたいと思っておさそいした次第で。ですからまぁ、二次会といってもささやかなものですな。マックとかでちょっとおしやべりでもして、それからいつしよに買い物でもどうかなと」

「ふ、ふーん……」


 しようさいを聞いたきりは、明らかに心動かされたようで、考え込み始めた。

 そういうことなら自分がものにされることもないだろうし、行ってもいっかなー。

 桐乃の考えは、おおかたそんなところだろう。

 ──チャンスじゃん、悩むことないだろ?

 おれはそう思ったので、桐乃の行動をうながすべく、おりに向かってこう言った。


「俺は構わないけど。こいつがいいって言うならな」

「ふむ、いかがですか? きりりん氏」

「うーん」


 桐乃はさらに考えるそぶりを見せ、さんざんもつたいぶったぐさをしてから、ほおを染めた。


「わ、分かった。そんなに言うなら……行ってあげてもいいケド」


 その台詞せりふが、あまりにも子供っぽかったもんだから、俺は笑いをこらえるのが大変だった。

 一見同年代にしか見えない妹ではあるが、たまにこういう年相応のところを見せられると、かわいいもんだと微笑ほほえましくなる。


「ああ、よかった! では、お二人ふたりとも、参りましょうぞっ! もうおひとかたは、すでにマックでお待ちいただいておりますので──」


 背中のポスターをビームサーベルのように抜きはなって、先を指し示す沙織。

 やたらとでっかい、オタクファッションの女の子。変テコ調ちようの、コミュニティの管理人。

 正直、なんにも考えてない変なヤツにしか見えないんだけど……もしかしたら。

 にオタクどものリーダーやって、したわれているわけじゃねーのかもしれないな。


 その考えは、二次会に参加する『最後の一人ひとり』と会って、かくしんに変わることになる。

 いま俺たちが座っているのは、プリティガーデンから一番近くにあるマックの二階、角のソファー席。テーブルを二つくっつけて、四人がけにしてある。

 俺と桐乃が並んで座り、俺の対面に沙織、桐乃の対面に最後の一人という席配置。各席の前にはドリンクが置いてある。俺、桐乃、沙織の三人は、一階でドリンクを買ってから二階へと上り──ほんの数秒前、この『最後の一人』と対面した、という場面だ。

 ちなみに四人がそろってからまだだれも、一言も喋っていない。

 ……しっかし、沙織とは別の意味で、すげえ格好だな。

 俺は『最後の一人』の姿を見るや、目を見張ってしまった。

 ……そういやこの人、顔はろくに見なかったけど……桐乃とは反対側のすみっこの席で、ぽつんとけいたいいじくってたヤツじゃん。

 ジッとうつむいているから顔は見えないが、めちゃくちゃれいな黒髪の持ち主だ。

 でもってコレは……コスプレってやつなんだろうな……。

 彼女が着ている服は、これまた真っ黒のドレスだった。バラの花びらみたいなのがヒラヒラたくさんくっついていて、やたらと豪勢な感じがする。このまま普通にとうかいに出られそうだ。


「ずっと気になってはいたけど……近くで見たらすっご……すいぎんとうみたいじゃん……」


 というのがきりの感想。でもさー桐乃、これはこれでおまえとは違う意味で浮くよなぁ?

 何のコスプレかしんねーけどよ、こりゃどう見ても気合過多だろ……。本格的すぎ。

 全員が席に着くのをかくにんしてから、おりおれたちを紹介してくれた。


「こちらのお二人ふたりは、きりりん氏と──特別ゲストで、その兄上様のきようすけ氏です。そして、こちらはがコミュニティのメンバーで──」

「……ハンドルネーム〝黒猫〟よ」


 最後の一人は、そこで初めて顔を上げ、ぼそっと自己紹介をした。

 無感情な、たんたんとしたしやべかただ。


「えっと……きりりんです。よ、よろしくね」


 桐乃がきんちようしたようで言った。じやつかん似合わない喋り方だが、オフ会の間中、こいつはこんな感じだった。


こうさか京介だ。飛び入り参加ですまない」


 次いで俺が、妹にならって自己紹介すると、陰気な声で返事がきた。


「……そうね。とりあえず、よろしく」


 率直に言うが、黒髪のゴスロリ女はどえらい美人だった。

 といっても桐乃とはだいぶタイプが違う。

 前髪をそろえた長い黒髪。真っ白な肌。切れ長のひとみ。左目の下に泣きぼくろ。

 ドレス姿の女を、こう表現するのはどうかと思うが、どこかゆうれいじみた和風美人である。

 赤いカラーコンタクトをめているのは、コスプレのいつかんだろう。

 見るからに性格がキツそうで、陰気で──いまにもくろほうとか使いそうな雰囲気。美人ではあるが、桐乃のようなはなやかさはまるでなく、マイナスベクトルの黒いオーラが全身からゆらゆら立ち上っている感じ。


「……面子メンツが揃ったようだからさっそく聞くけれど。……私をこんなところに誘って、管理人さんはなんのつもりなのかしら?」

「はっはっは──先ほども申し上げたではありませんか、せつしやが二次会におさそいしたかったのだと。いやぁしかし危なかったですな! 拙者の話が終わったしゆんかん、スタスタ帰ってしまわれるものですから、あわてて追い掛けてしまいましたぞ! まったく、あれでは誘うひまもないではありませんか!」

刊行シリーズ

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(17) 加奈子ifの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(16) 黒猫if 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(15) 黒猫if 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(13) あやせif 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(12)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(10)の書影
アニメ『俺の妹』がこんなに丸裸なわけがないの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(9)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(8)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(7)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(6)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(5)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(4)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがないの書影