第三章 ⑥
このこのっと
しかしなるほど、さっき沙織が猛ダッシュしたのはそれか。
……やっぱりな。だんだんこの沙織とやらの考えが分かってきたぜ……
おそらくこの二次会は、コミュニティの管理人である沙織が『さっきのオフ会であぶれちゃってたやつらを誘って、ちゃんと楽しんでもらおう』という
だから
──『先ほど
もしかすると、『なんで
だとすっと……はは……見かけどおり、度量のでかいやつじゃねえの。
「ちゅー……」
まだ
こいつは全然気付いてないみたいだが……〝黒猫〟は気付いているみたいだな。
初対面でいきなり
まぁ……ありがたい反面、相手の
黒猫の心中は複雑だろう。実のところ、俺だってちっとは複雑な気分さ。
でもさぁおまえら、俺が管理人だったら、わざわざあぶれたやつらに声なんてかけねーぞ?
初めていった会合の空気に
だから俺はこう思う。この変な格好しているデカ女は、いいやつなんだって。
「ところで管理人さんなどと他人
「その図体で〝沙織〟だなんて、よくもまあ名乗れたものね、図々しい」
このゴスロリ、相手から無礼講って言葉が出た
「やや、そんなことを言われたのは初めてですなあ」
「それはそうでしょう。あなたがネット上で演じてた『
「何年前のキモオタだよって感じ」
ボソッ。借りてきた猫のように
「お、おまえら!?
いや
せっかくあぶれちゃったおまえらを
特に桐乃!
そっぽ向いてコーラ飲んでいんじゃねえ!
ところがボロクソ言われたとうの
「まあまあ、
「アンタのことは、すげえいい
どんだけ毒舌に耐性があんだよ。
俺が
「──とまぁ、打ち解けてきたところで。皆のもの、改めて自己紹介というのはいかがかっ?」
「いまのやり取りで『打ち解けてきた』と判断するのは正直どうかと思うが……」
悪くない提案ではあるよな。しかし沙織の発言で、場はしんと静まり返ってしまう。
「…………」
いや、おまえら一言くらい反応しようぜ? 気まずいだろうが。
仕方なく俺は、率先してこう
「いいんじゃねえか? なあ」
「…………」
やっぱり返事がこない。どうやら黒猫と桐乃は、
黒猫は、どう見てもこういうのはガラじゃなさそうだし……桐乃はさっきの失敗が
部外者が口挟むのは、あんまよくねーんだけど……やむをえん。俺は、こう提案した。
「じゃあ、自己紹介する人に順番で『質問』をしていく形式にするってのはどうだ? その方が話しやすいだろ。あ、もちろんパスありな? で、どんどんローテーションしていくわけ」
「ふむ、ナイスアイデア、さすが京介氏。──ではさっそく、黒猫氏への質問タイムからいきましょうぞ!」
「……勝手に仕切ってくれるわね」
ジロリと
すると黒猫は、ホットコーヒーに「ふぅ……」と息を吹きかけ、ゆっくりと一口飲んでから、どうでもいいかのようにこう
「まぁいいわ。……で、もう名乗ったはずだけれど。私はあと、何を話せばいいのかしら?」
「ええと、ではさっそく。
てっきり『一番聞きやすいこと』を尋ねるかと思ったのだが、沙織はそうしなかった。
「『最近、一番あせった
「……自己紹介のための質問ではないの? どうして、そんなバラエティ番組のゲストへの質問みたいな……」
まったく同感だ。このでかぶつの発言は、さっぱり読めん……。しかし黒猫は「まあいいわ」とさらりと流した。まあいいのか、えらいクールっすね。
そんなふうにして、会話の流れは、だんだんとスムーズに流れ始めた。
「ふん、『最近、一番あせった瞬間は?』だったわね……それなら……」
黒猫はしばし無表情で思案していたが、やがて
「ニコニコ動画に
ニコニコうんたらとやらは知らんが、アンタが見た目に反してまったくクールじゃないのはよく分かった。あと
「ははは黒猫氏は意外とオチャメさんですなあ。妹さんがいらっしゃる?」
「ええ。
そうだろうよ。ちょうどいまの俺みたいな感じだろ? スゲー気持ち分かるわ。
で、それからしばらく黒猫の妹についての会話がかわされていたんだが、その間、
と、沙織がいいタイミングで桐乃に話を振ってくれた。
「次は、きりりん氏の番ですな。黒猫氏への質問をどうぞ!」
「え、あ、あたし? ……え、えーとぉ」
いきなり沙織に指差され、目をぱちくりさせる桐乃。
「と、特に……ない……かな? ……パスで」