第三章 ⑨

 それからしばらくして。マックを出た俺たちは、おりが予定を立てたとおり、あきばらで軽く買い物をした。この事件(あえて事件という単語を使わせてもらう!)については、非常に長くなるし、思い出したくもないのでかつあいする。というかさ! 分かんだろ!? この面子メンツでアキバ巡りなんてしたら、どんなことになるのかくらい! ちょっと想像してみてくれよ!

 ……した? したな? OK、その想像に、おれこうむる被害を150%ほど上乗せすると、おそらくかなり事実に近いモンができあがるはずだ。

 ったく……よくぞ逃げ出さなかったもんだぜ。われながら偉いと思うよ。

 ちなみにきりと黒猫は、その間中も、ずーっと口汚くののしり合っていた。しかも大体オタクネタが絡んでくんだよな。アニメから始まって、ゲームやら、漫画やら──カップリングがどーたらこーたら、作画がうんたら、DVDの値段がうんぬん──よくもまーぞうごんのネタが尽きねえもんだと感心しちまったよ。

 夕方になって、二次会を解散した直後のいまだってそうだ。あの二人ふたりは一応別れのあいさつもすませたってのに、依然としてけんけんごうごうじやがんVSほう少女をやっている。


「ふふふ、きりりん氏と黒猫氏は、すっかり意気投合したようですなあ」

「アンタには、どうしてアレがそう見えるんだ? 眼鏡めがねの度が合ってないんじゃねえの?」


 と、口では言ったが……分かってるよ。

 桐乃と黒猫のくちげんを眺めながら、俺は、口の端をほんの少しだけ持ち上げた。

 よかったな、桐乃。そんなバカでかい声で、えんりよなしにしゆの話ができるやつ、見付かったじゃん。おまえは絶対、『そんなことない』って否定すんだろうけどよ──

 それって友達っていうんだぜ?


「……さて」


 俺とおりは、アニオタどもの抗争に巻き込まれないよう、ちょっとはなれて立っている。

 あきばらワシントンホテルわきの歩道。横断歩道がすぐ目の前にある。

 ──こいつには桐乃の兄貴として、言っておかなきゃならん台詞せりふがあるよな。

 俺はできるだけの誠意を込めて、沙織に頭を下げた。


「ありがとうな」

「……はて? お礼を言われるようなことを、何かいたしましたかな?」


 ?マークを頭上に浮かべ、口元をωこんなふうにして首をかしげる沙織。

 こいつめ、分かってるクセによ。だが、これ以上言葉を重ねても、すいになるだけだ。

 言うべきことは言った。俺の気持ちは伝わったと、信じるしかない。俺は微笑した。


「アンタ、やっぱいいやつだよ。桐乃も、俺も、運がよかったと思うぜ」

「……なんのことだか分かりませぬが──ふふ、せつしやはそれほどできた人間ではござらんよ? 拙者はいつも、自分がやりたいと思うことを自分勝手にやっているだけに過ぎませぬゆえ。……それでもそう思われるのであれば、それはおそらく、きようすけ氏自身が『いいやつ』であるからでありましょう。他人はかがみというではありませんか?」


 そこまで言って、沙織は背のポスターを、ビームサーベルのように抜きはなった。

 夕日を受けてきらめくポスター。突き付けられたをすがめ見ながら、俺は肩をすくめる。


「ふん、勝手に言ってろ」

「そういたしましょう」


 おりは、にかーっとんで、おれに背を向けた。きっと素顔のこいつは、よっぽど表情豊かな女なんだろう。そう思わせるに足る、りよくてきな笑みだった。

 ぐるぐる眼鏡めがねにバンダナ巻いて。チェックのシャツはズボンにイン。

 とんだキモオタファッションだ。ダサいにもほどがあるって格好さ。

 沙織は、ぶん、とサーベルを横に振って、背中のリュックにする。


「では、また、いずれ必ずお会いしましょうぞ──ニン」


 信号が青に変わる。黄昏たそがれに染まるあきばら駅。

 さっそうと歩み去っていく大きな背中は、だれはばかることもなく、堂々としたもんだった。

 俺も負けずに胸を張って、きりのもとへと歩いていく。

刊行シリーズ

俺の妹がこんなに可愛いわけがない(17) 加奈子ifの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(16) 黒猫if 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(15) 黒猫if 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(14) あやせif 下の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(13) あやせif 上の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(12)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(11)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(10)の書影
アニメ『俺の妹』がこんなに丸裸なわけがないの書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(9)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(8)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(7)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(6)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(5)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(4)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(3)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2)の書影
俺の妹がこんなに可愛いわけがないの書影