第四章 ②
プイっとそっぽを向いてしまう。
「……なんで怒ってんだ? 珍しい」
「ふーんだ。きょうちゃんが、ニブいだけだもん」
ぷりぷりお怒りになりながら、眼鏡をごしごし
眼鏡をかけてから、改めて問うてくる。
「……それより、なに見てたの?」
「ああ。ホレ、あっち」
俺が指差した方角を、麻奈実は向いた。そこはちょっとした広場になっていて、よくガキどもがサッカーやら草野球やらして遊んでいる場所だ。いまはワゴンが二台止まっている。
で──
「あれって……なにやってるの? どらまか何かの、
「たぶんな。でもドラマじゃねーだろ。ほら、あれってテレビカメラじゃなくね? フラッシュたいてるしよ──ありゃあ、写真
歩道から、
「ふぁっしょん雑誌の撮影……かな?」
「ちなみにおまえ、そういうの読んでんの?」
「あはは……あんまり。洋服買うときは、お店で店員さんとお話ししながら決めるし……」
だよな。ま、ともあれ俺も、アレはファッション雑誌の撮影だと思う。
夕暮れを背景にした写真を撮っているらしい。なにやら
当たり前の話だが、モデルってのも、やっぱり
「うわー……見て見てきょうちゃん。あの子、すっごいかわい~」
「あー……そーね。かわいーね」
「あれれ? 反応うすい?」
あのなあ……別に俺たち付き合ってるわけじゃねーけどさ。一応、女の子を連れてるときに、俺は『うおっ、あの
おまえだってイヤじゃねえの? ……イヤじゃないんだろうな、たぶん。自分が若い女だという
「あ、ほら、あの茶髪の
大はしゃぎしちゃってまあ……。別に有名な芸能人ってわけでもねーのによ。
ほんとミーハーなやつ。
ふん。『おまえの方がかわいいよ』とでも、よっぽど言ってやろうかと思ったね。
どんな顔すっかな? 俺は意地の悪い
ふーん。あの茶髪の娘、
脚は長げーわ、背はすらっと高いわ、でもって顔も──
「
「ええ──っ!?」
俺と麻奈実は、ビックリ
「え、ええと……桐乃……ちゃんって……妹さんだよね? きょうちゃんの……」
「……ああ、まあ、そのようだな……たぶん」
「え、えぇ……た、たぶんてなにっ?」
いやっ、俺も
そういや言ってたなアイツ……あたしモデルやってるのとか、何とか……。
疑っていたわけじゃねーけど、ピンとこなかったんだよな。こうして直接見るまではさ。
──本当だったのか。
俺は改めて、まじまじと茶髪のモデルを見つめた。
「………へえ」
どうやら俺は、妹への認識を改めなけりゃならないようだ。
あいつのことを、ずいぶんとなめていた。あなどっていた。
俺は、モデルっつったって、しょせん中学生のガキのお遊びみたいなもんだと思っていたんだな。おだてられて、
だが──
いま桐乃は、写真を撮られているモデルを眺めながら、見たこともないくらい真剣な顔で話し込んでいる。その間も、メイクさんが手早く服の乱れを
フラッシュ浴びているモデルの周りは、
おそらく出番を待っているんだろう桐乃の周りは、ぴりぴりと空気が張りつめていた。
「…………はぁ。……なんか、すごいねー」
「……そう──だな」
そうじゃなかった。俺はチラっと見ただけだ、偉そうなことは言えねーけどさ。決して少なくないカネもらって、写真
「……ほんと、すごいや。……住んでる世界が違うっていうか……」
「ああ」
そんなに何度も言われなくたって、知ってるよ。あいつは
くそ、何でかしらんが、イラつく。
「どうせ俺とは似てねーよ。昔っからアイツは、見てくれだけはいいからな」
「そんなに
「は? なに言ってんのオマエ?」
ダセぇ。ちょっと八つ当たりっぽい
「うちの弟、妹さんと同じ学年なの。学校は違うけど。でね、この前、共同テストっていうのがあったんだって。それで──県の
「
「だからぁ、きょうちゃんの、妹さん。
「ま、マジで!? え? 学内じゃなくて──県? 県っつったいま?」
「そう。県で、四番とか、五番とか。詳しい順位はうろ覚えなんだけど──そうなんだって」
あいつ、そんなに成績よかったのかよ!? ぜんぜん知らなかった──って、まあ、いままで自分の妹に関心なんざなかったし、ほとんど
知らなくて当たり前なんだろうけど……にしても
同級生のコギャルどもときゃらきゃら遊んで。あんなに真剣に、モデル活動やって。
何時間も語れるほど子供向けのアニメに
でもって、ばっちり勉強もやってたって?
は──……正直、びびったわ。
俺の妹は、思っていたよりもずーっと……とんでもないヤツだったのかもしれん。
数日が
なんかいいことでもあったのかね?
「どうしたお袋──ずいぶんとご
「あら