第四章 ⑧
胸を
ムカつきの正体は自分でも分からんが、俺はいま、めちゃくちゃ俺らしくないことをしている。だからこんなに、苦しいのか? イライラしてんのか?
「わけ分かんねーよ……バカじゃねえの?」
ガラじゃあねえ……ほんっとガラじゃあねえ。ああっ、くそっ……くそくそくそっ!
もう、いい。とりあえず考えんのやめた──バカらしい。
「知るかよ……」
まるで妹から借りたゲームの主人公みたいに、
ゲームと異なるのは、妹の、俺への好感度がマイナスに振り切れているところと。
あのシスコン野郎と違って、俺が妹のことを、大っキレ──だってことだよ。
やってることは同じだけどな!
ゲームの高坂京介は、
息を切らして夕日を見上げた主人公の前に、タイミングよく、妹が現われるのだ。
ま、それはあくまでゲームの話。
この現実において、俺が妹を見付けた場面は、そんな
夕方の駅前商店街。俺が、ゲーセンの
「あ」
どっかで見たよーな茶髪娘が、八つ当たりみてえな
ぶっ
「………アイタタタ……」
つい、
このバカ。こっちが必死で捜してやってるってのに……こめかみ痛くなってきた。
ま、現実ってのはこんなもんだよな。そーそードラマチックな展開にゃあならねーって。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ねッ! みんな死ねぇっ!」
なーんかボソボソ言ってんなーと思ったら、この
俺は、妙に脱力した気分で、ゲームに絶賛八つ当たり中の
背後から、軽く後頭部をひっぱたいてやる。
「こら、おめーが死ね」
「っ
ブンッ! 桐乃は振り向きざまにバチを振り回した。またしても
「ぐあ……っ」
「…………なんだ……アンタか……」
てめぇ……っ。相手
だが、振り向いた桐乃の態度は、死ね死ね言ってた人間と同一人物とはまるで思えないものだった。
「……なにしにきたの」
「なにしにって……オメーが飛び出していっちまうから……捜しに来てやったんじゃねえか」
「………………キモ。……なにそれ? ゲームと現実……ごっちゃにしないでよね」
あたしはアンタなんかに
三次元の妹なんぞ、マジでいらねーとな。
クソ生意気な妹を持つ兄貴
本当、俺は、こいつを見付けてどうするつもりだったんだか。もう思い出せねーよ。
にしてもコイツ、見事にふて腐れてやがんな。鼻声になってるじゃん。
「うっせえよ。それよかオマエ、俺に
「……は? なんでそんなことしなくちゃなんないワケ?」
「あのあと大変だったんだかんな?
「……な、え……」
「………………ちゃんと止めたんでしょうね」
てめえ、なんで俺が止めるのが当たり前みたいな言い草なんだよ。俺は、おまえの兄貴であって、下僕じゃねえんだからな? おい、分かってんのか、ああ?
「も、もちろん止めたっス……
「よし」
よくやったワンころ。そんな感じの『よし』だった。半分自業自得とはいえ、俺の
「……とりあえず、場所変える。ここ、目立つし」
俺たちは近くのスタバへと場所を変えた。
初夏とはいえ、そろそろ暗くなってくる時間。
私服姿の俺と桐乃は、小さな丸テーブルを挟んで腰掛け、コーヒーを飲んでいる。
客入りはそこそこといったところで、大学生ふうの
そんな中。俺たちは、周りからどう見えているのだろう。
さっきから俺たちひとっことも
桐乃は怒りのオーラを
「なぁ……桐乃」
「……なによ」
「おまえ、どうすんだ。これから?」
桐乃はムスっとした顔でコーヒーを一口飲み、こう
「……分かんない」
だろうな。家に帰ったら、
実際、桐乃はそう口にした。「……どうしたらいいと思う?」と。
妹の口からその
俺は、自分でも、頼れる兄貴なんかじゃないと思う。そんな俺に頼らざるを得ないほど、こいつは悩んで、追い詰められているってわけだ。あんときと同じさ。
だからここで俺は『知ったことか』とは、言わない。たとえ思っていても。
一つ残らず捨てろ。そう言われたことは、まだ伏せておくか。親父の台詞は、ウチじゃあ絶対だ。大事なコレクションが死亡
ふん、ここでキレられても
「その前に
「……なに?」
「おまえ、
親父の言い草からすっと、捨てろとは言われてねえはずだよな……。
これは現在、桐乃が置かれている立場をよりハッキリさせるための問いだったのだが。
「……お、おい……桐乃……?」
桐乃の思いもよらない反応に、
「……っ……っ……!?」
片手で胸を押さえ、もう片手はテーブルの上で
かわいい顔はぐちゃめちゃだ。俺はすぐに目を
悔しくて。悔しくて。悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて──
そんなやりきれない気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
あのときリビングで何があったのか。何を話したのか。依然として俺には分からない。
だが、桐乃がこんなふうになってしまうだけの何かがあったのだろうとは察した。
「…………たの」
俺が死ぬほどビビりながら「な、なに?」と問い返すと、桐乃はテーブルを
ガンッ!