第一章 魔術師は塔に降り立つ FAIR,_Occasionally_GIRL. ③

 こういう時だけシスターさんっぽくにっこりキラキラ微笑ほほえみやがった。

 ギリギリと胃袋をぞうきん絞りされるような苦痛に襲われる上条をよそに、インデックスはグーで握ったハシでフライパンの中身をすくって口に運んでしまう。

 ぱくぱく。


「ほら、やっぱり不味くなんかない」

「……ぁ、そですか」


 もぐもぐ。


「あれだよね、さりげなく疲労回復のためにすっぱい味付けしてる所がにくいよね」

「げっ! すっぱ!?」


 がつがつ。


「うん、だけどすっぱいの平気。ありがとうね、何だか君、お兄さんみたいだね」


 にっこり笑顔だった。ほっぺたにモヤシがくっつくほどの純心な食いっぷりだった。


「……ぐ、……ぅ、ぅ、ぅぅぉぉおおおおおおおおぁぁぁあああああああああ!」


 グバァ!! と上条は音速でフライパンを取り上げる。ものすごく不満そうな顔をするインデックスに、地獄にはおれが一人で落ちると上条は心に誓う。


「君もおなかへってるの?」

「……、は?」

「そうじゃないなら、おあずけなんかしないで食べさせて欲しいかも」


 ちょっぴり上目遣いでハシの先をガジガジむインデックスを見て、上条は悟りを開いた。

 神様は言う、責任持ってお前が食え。

 不幸がどうのという問題ではなく、かんぺきに自業自得だった。


    3


 かみじようとうは、口の中いっぱいに熱した生ゴミを詰め込んでにっこり微笑ほほえんでいた。

 インデックスと名乗る少女は、むーっと文句を言いたそうな顔でビスケットをガジガジとんでいた。小さなビスケットを両手で持っているため、どこかリスみたいな感じがする。


「───で、追われてるって。お前一体ナニに追われてる訳?」


 はんから帰ってきた上条は、とりあえず一番のネックを聞いてみた。

 いくら何でも、出会って三〇分も経たない女の子に地獄の底までついていく、とまでは思えない。かと言って、このまま何もなかった事にするのは、おそらく無理だ。

 結局は偽善使いフオツクスワードだよな、と上条は思う。何の解決にならないって知っていても、とりあえず『何かをやった』というなぐさめが欲しいだけなのだ。


「うん……、」ちょっとのどが渇いたような声で、「何だろうね? 薔薇十字ローゼンクロイツ黄金夜明S∴M∴か。その手の集団だとは思うんだけど、名前までは分からないかも。……連中、名前に意味を見出すような人達じゃないから」

「連中?」


 上条は神妙に聞く。という事は、相手は集団で、組織だ。

 うん、と当の追われるインデックスの方がかえって冷静な風に、


「魔術結社だよ」


 …………………………………………………………………………………………………………。


「はぁ。まじゅつって……、はぁ なんじゃそりゃあ!! ありえねえっ!!」

「は、え、アレ? あ、あの、日本語がおかしかった、の? 魔術マジツクだよ、魔術結社マジツクキヤバル

「……、」英語で言われるとさらに分からなかった。「なに、なーに? それって得体の知れない新興宗教が『教祖サマを信じない人には天罰が下るのでせう』とか言ってお薬LSD飲ませて洗脳したりする危ない機関の事? いやいろんな意味で危険なんだが」

「……、そこはかとなく鹿にしてるね?」

「あー」

「……、そこはかとなく馬鹿にしてるね?」

「────。ゴメン、無理だ。魔術は無理だよ。おれ発火能力パイロキネシスとか透視能力クレアボヤンスとか色々『異能の力』は知ってるけど、魔術は無理だ」

「……?」


 インデックスは小さく首をかしげた。

 おそらく科学万能主義の常識人なら『世の中に不思議な事なんて何もないっ!』と否定されると思っていたんだろう。

 だけど、かみじようの右手には『異能の力』が宿っている。

 幻想殺しイマジンブレイカーと名乗る、それが常識の外にある『異能の力』であるならば、たとえ神話に出てくる神様の奇跡システムでさえも一撃で打ち消す事のできる力を。


学園都市こつちじゃ超能力なんて珍しくもねーんだ。人間の脳なんざじようみやくにエスペリン打って首に電極り付けて、イヤホンでリズム刻めばだれだって回線開いて『開発』できちまう。いつさいがつさいが科学で説明できちまうんじゃ誰だって認めて当然だろ?」

「……よくわかんない」

「当然なの! 当然なんだよ当然なんです三段活用!」

「……。じゃあ、魔術は? 魔術だって当然だよ?」


 むすっと。お前んのペットは駄ネコだとか言われたように、インデックスはふてくされた。


「えーっと。例えばジャンケンってあるだろ? ってか、ジャンケンって世界共通?」

「……、日本文化だと思うけど、知ってる」

「じゃあジャンケンを一〇回やって一〇回連続負けた。そこになんか理由があると思うか?」

「…………、む」

? けど、のが人間なのさ」上条はつまらなそうに、「自分がこんな連続で負けるはずがない。そこにはきっと見えない法則ルールがあるはずだ。そんな風に考える人間の頭ん中に、例えば『星占い』を混ぜたらどうなっちまう?」

「………………、巨蟹宮カニざのあなたはついてないから勝負はやめておけ、とか?」

「そ。ウチらの間じゃ、非現実オカルトの正体はソレなんだ。運とかツキとか、見えない歯車ルールを夢見る瞬間。ただの偶然なんてちっぽけな現実を、エライ必然と勘違いする心。それが、非現実オカルトさ」


 インデックスはしばらく不機嫌なネコみたいにむすーっとしていたが、


「……頭ごなしに否定するって訳でもないんだね」

「ああ。、カビ臭い昔話はダメなんだ。絵本に出てくる魔術師なんて信じられない。MP消費で死人が復活するってんなら誰も育脳かいはつなんかやんねーしな。まったくもって『科学ゲンジツ』と無関係な代物オカルトは、やっぱりおれでも信じらんねーよ」


 超能力なんて代物が『不思議』に見えてしまうのは、人間が単にバカだからで。

 本当は、やっぱり超能力さえ『科学』で説明できてしまうというのが、ここでの常識なのだ。


「……、けど。魔術はあるもん」


 むーっと口をとがらせながらインデックスは言う。おそらく、彼女にとっては心を支える柱のようなモノなんだろう、上条の『幻想殺し』と同じく。


「まぁ良いけど。で、何でソイツらがお前をねらってるって───」

「魔術はあるもん」

「……、」

「魔術はあるもん!」


 どうやら意地でも認めて欲しいみたいだった。


「じゃ、じゃあ魔術って何なんだよ。手から炎が出るのか、ウチPSY時間割りカリキユラム受けなくても出せんのかぁ? 何ならそこで一丁見せてくれよ。そしたら信じる事ができるかもしんないから」

「魔力がないから、私には使えないの」

「……、」


 カメラがあると気が散るのでスプーンを曲げられません、というダメ能力者を見た気がした。

 とはいえ、なんか複雑な気分であるのも事実だ。

 オカルトなんてない、魔術なんてありえないとか言っておきながら、実はかみじようは自分の右手に宿る『幻想殺しイマジンブレイカー』について何も知らない。それがどういう仕組みで、見えない所で何が働いているのか。能力開発においては世界最高峰である学園都市の『身体検査システムスキヤン』でさえ、上条の能力を見抜く事すらできずに『無能力レベル0』のらくいんを押しているのだ。

 科学的な時間割りで後付けされたのではなく、生まれた時から右手に宿るこの力。

 この世に『不思議なものオカルト』なんて存在しない、と言っておきながら、自分自身こそが常識ルールを無視した『非現実オカルト』な存在であるという事実。

 ……まぁ、だからと言って『世の中には不思議な事があるんだから、魔術だってあってもおかしくないよね♪』というハチャメチャ理論はやっぱり納得できないが。


「……魔術はあるもん」


 ハァ、と上条はため息をついた。


「じゃあ、魔術なんてモノがあるとして、」

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