第一章 魔術師は塔に降り立つ FAIR,_Occasionally_GIRL. ④

?」

「あるとして、」上条は無視して続けた。「お前がそんな連中にねらわれてる理由ってのは何なんだよ? その服装となんか関係あったりすんの?」


 上条の言ってるのは、インデックスの着ている純白のシルク地にきんしゆうという超豪華な修道服の事だ。日本語に変換すると『宗教がらみ?』と言いたい。


「……私は、禁書目録インデツクスだから」

「は?」

「私の持ってる、一〇万三〇〇〇冊の魔道書。きっと、それが連中の狙いだと思う」


 …………………………………………………………………………………………………………。


「……まーたまた、良く分からない話になってきたんですが」

「だから、何で説明していくたびにやる気が死んでくの? もしかして飽きっぽい人?」

「えっと、整理するけど。その『魔道書』ってのが何なのか良く分からないけど、とにかくそれって『本』なんだよな? 国語辞典みたいな」

「うん。エイボンの書、ソロモンの小さな鍵レメゲトン、ネームレス、しよくじんさいしよ、死者の書。代表的なのはこういうのだけど。死霊術書ネクロノミコンは有名すぎるから亜流、しよが多くてアテにならないかも」

「いや、本の中身はどうでも良いんだ」


 どうせラクガキだし、という言葉はぐっと飲み込んで、


「で、一〇万冊って──────どこに?」


 これだけは譲れない。一〇万冊なんて言ったら図書館一つ丸々レベルだ。


「なに、どっかの倉庫のカギでも持ってるって意味なのか?」

「ううん」インデックスはふるふると首を横に振って、「ちゃんと一〇万三〇〇〇冊、一冊残らず持ってきてるよ?」


 は? とかみじようまゆをひそめて、


「……バカには見えない本とか言うんじゃねーだろーな?」

「バカじゃなくても見えないよ。勝手に見られると意味がないもの」


 インデックスの言葉はひようひようとしていて、だか鹿にされた気分になる。上条は辺りを軽く見回す。魔道書、なんてカビ臭い本はやはり一冊もなく、床に散らばってるのはゲーム雑誌とマンガと部屋のすみにぶん投げた夏休みの宿題ぐらいだ。


「……、うわぁ」


 今まで我慢して聞いてきたが、これ以上は無理だと上条は絶句する。

 ひょっとしたら『だれかに追われている』というのも単なる妄想なんじゃないだろうかと上条は思う。ただの妄想で八階建ての屋上からジャンプして、一人で勝手に失敗してベランダに引っかかったとしたら。そんな人間にはもう付き合いきれない。


「……超能力は信じるのに、魔術は信じないなんて変な話」むすっと、インデックスは口をとがらせて、「そんなに超能力って素晴らしいの? ちょっと特別な力を持ってるからって、人を小馬鹿にして良いはずがないんだよ」


 ……。


「ま、そりゃそーだわな」上条は小さく息をつき、「そりゃそうだ。お前の言う通りだよ。こんな一発芸を持ってる程度で、誰かの上に立てるだなんて考え方は間違ってる」


 上条は自分の右手に視線を落とした。

 そこからは炎もかみなりも出ない。せんこうも爆音も起きないし、手首に変な模様が浮かぶ訳でもない。

 だが、それでも上条の右手はあらゆる『異能の力』を無力化させる。力の善悪は問わず、神話に出てくる神様の奇跡システムさえ、問答無用で。


「ま、この街に住んでる人間ってな能力チカラ持ってる事が一個の心の支えパーソナリテイになってっから、その辺は大目に見て欲しいかな。ってか、おれ能力者そーゆーのの一人なんだけど」

「そうだよバカ、ふん。頭の中いじくり回さなくったってスプーンぐらい手で曲げられるもん」

「……、」

「ふんふん。天然素材を捨てた合成着色男のどこが偉いってーのさー、ふん」

「……、ナメたプライドごと口を封じて構わねーか?」

「て、暴力テロには屈しないもん」ふん、と不機嫌な猫みたいなインデックス。「だ、大体、超能力だなんて言って、君には一体何ができるって言うの?」

「……、えっと。何がって言うか」


 かみじようはちょっと戸惑った。

 自分の幻想殺しイマジンブレイカーについて、だれかに説明する機会は滅多にない。しかも『異能の力』にしか反応しないという事は、まず『異能や超能力』について知っててもらわないと説明にならない。


「えっとな、この右手。あ、ちなみにおれのは合成着色ドーピングじゃなくて天然素材うまれたときからなんだけど」

「うん」

「この右手で触ると……それが異能の力なら、原爆級の火炎の塊だろうが戦略級の超電磁砲レールガンだろうが、神の奇跡システムだって打ち消せます、はい」

「えー?」

「……つかテメェ何だその幸運を呼ぶミラクルストーンの通販見てるみてーな反応は?」

「だってー、神様の名前も知らない人にー、神様の奇跡だって打ち消せますとか言われてもー」


 驚くべき事にインデックスは小指で耳の穴をほじって鼻で笑いやがった。


「……くっ。む、ムカつく。こんな、魔法はあるけどアナタには見せられませんなんて言うインチキ魔法少女に鹿にされた事がここまでムカつくとは……、」


 と、上条とうタマシイのつぶやきにインデックスもカチンときたみたいで、


「い、インチキじゃないもん! ちゃんと魔術はあるんだもん!」

「じゃあなんか見せてみろやハロウィン野郎! ソイツを右手でぶち抜きゃ俺の幻想殺しイマジンブレイカーも信じるしかねーんだろ、このファンタジー頭!」

「いいもん、見せる!」むきーっ! という感じでインデックスは両手を振り上げ、「これっ! この服! これは『歩く教会』っていう極上の防御結界なんだからっ!」


 インデックスが両手を広げて強調しているのは、例のティーカップみたいな修道服だ。


「何だよ『歩く教会』って、もう意味分かんねーよ! さっきっから聞いてりゃ禁書目録インデツクスだの防御結界だの訳の分からない専門用語をぶち込みやがって、この不親切野郎! 『説明』ってな何も分からない人に向かってみ砕いて教えるモノなんだ、そこんトコ分かってんのか!」

「なっ……ちっとも理解しようと思わない人が言う台詞せりふ!?」インデックスはぶんぶんと両手を振り回して、「だったら論より証拠! ほら、台所にある包丁で私のおなかを刺してみる!!」

「じゃあ刺してみる! ……って何だよそれ、きっかけはさいな事でしたってオチか?」

「あ、信じてないね」インデックスはハァハァと肩を上下させ、「これは『教会』として必要最低限な要素だけ詰め込んだ『服のカタチをした教会』なんだから。布地の織り方、糸のい方、しゆうの飾り方まで……すべてが計算されてるの。包丁ぐらいじゃ傷一つつかないんだよ?」

「つかないんだよって……あのな。じゃあハイぐっさり刺してみますなんて言う鹿いるか。の少年犯罪だぞそれ」

「とことん馬鹿にして……。これはトリノせいがい──神様殺しロンギヌスやりに貫かれた聖人を包み込んだ布地を正確にコピーしたモノだから、強度は法王級ぜつたいなんだよ? うん、君達で言うなら核シェルターって感じかな。物理・魔術を問わず全ての攻撃を受け流し、吸収しちゃうんだから。……さっき、背中を撃たれてベランダに引っかかったって言ったけど、『歩く教会』がなかったら風穴が空いてたところだったんだよ。そこんとこ分かってる?」


 うるせーばか。

 一気にインデックスに対する好感度ゲージが下がったかみじようは、ジト目で彼女の服を見る。


「……、ふぅん。てか、つまりアレだ。それが本っっっ当に『異能の力』だってんなら、おれの右手が触れただけでじん、って訳だな?」

「君のチカラが本っっっ当な・ら・ね? うっふっふーん」


 上等だゴルァ!! と上条はインデックスの肩をがっちりつかんでみる。

 と、確かに雲を摑むような──柔らかいスポンジに衝撃を吸収されるような変な感覚がした。


「て、…………あれ?」

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