第一章 魔術師は塔に降り立つ FAIR,_Occasionally_GIRL. ⑦
ふうん、とインデックスは
「ひゃい!? あ、あれ? 頭のフードがなくなってる!?」
「何だよ
「ひゃい?」
上条は『毛布の中で着替えてる時に落っことした』と言ってるつもりだったが、インデックスは『清掃ロボットにびっくりして後ろへコケた時に落とした』と勘違いしたようだ。あちこち通路の床を見ながら、しばらく頭に「?」を浮かべていたが、
「あっ、そうか! あの電動
何か勘違いしたまま通路の角へ消えた清掃ロボットをダッシュで追い掛けて行ってしまった。
「……、あー。何だかなぁ」
上条はインデックスのフードが残された部屋のドアを見てから、通路の先を見た。もうインデックスの姿はどこにもない。別れも涙もあったもんではない。
なんていうか、ああいう姿を見ているとアイツ世界が滅んでもなんだかんだで生き残りそうだよなぁ、などと何の根拠もなく思ってしまうのだった。
5
「はーい。それじゃ先生プリント作ってきたのでまずは配るですー。それを見ながら今日は補習の授業を進めますよー?」
もうこのクラスになって一学期
一年七組の担任、
「おしゃべりは
「ってかそれ目隠しでポーカーしろってアレでしょう先生! ありゃ
「はいー。けれど上条ちゃんは
うわぁ、と上条はリーマン教師の営業スマイルに絶句する。
「……むう。あれやね。
と、隣に座っていた青髪ピアスの学級委員(男)が訳の分からない事を言ってくる。
「……おまいはあの楽しそうに黒板に背伸びしてる先生の背中に悪意は感じられんのか?」
「…なに? ええやん可愛い先生にテストの赤点なじられんのも。あんなお子様に言葉で責められるなんてカミやん経験値高いでー?」
「…ロリコンの上にMかテメェ! まったく救いようがねーな!!」
「あっはーッ! ロリ『が』好きとちゃうでーっ! ロリ『も』好きなんやでーっ!!」
雑食!? と上条が叫ぼうとした所で、
「はーいそこっ! それ以上一言でもしゃべりやがったらコロンブスの卵ですよー?」
コロンブスの卵っていうのは文字通り、逆さにした生卵を、何の支えもなく机の上に立ててみろって事だと思う。
上条と青髪ピアスは呼吸も忘れて教卓の
「おーけーですかー?」
にっこり笑顔が超
小萌先生は『可愛い』と言うと喜ぶくせに『小さい』と呼ぶと激怒するのだった。
とはいえ、小萌先生は生徒から低く見られる事をあんまり気にするタイプにも見えない。それは学園都市の中では仕方がない部分もある。ただでさえ、ここは人口の八割以上が『学生』という
先生というのは学生を『開発』する人間であって、先生そのものは何の能力も持たない。体育教師や生活指導などは
「……、なぁカミやん?」
「あんだよ?」
「
「テメェだけだ
「エセ…… え、ええええええエセ言うな! ボクはホンマに大阪人やねんな!」
「黙れ米どころ出身。イライラしてんだから無駄にツッコミいれさせんなよ」
「こ、こここ米どころ違いますよ! あ。あ、あーっ! タコヤキ
「無理矢理な関西属性やめろ! テメェ役作りのためにタコヤキおかずに
「いや何言うてん。いくら大阪人でもタコヤキオンリーで食卓を彩る訳ないやろ」
「……、」
「ないやろ? ないと思う──いや待ち。けど……でも、ない───けど、あれ? どっち?」
「メッキ
はぁ、とため息をついて
こんな無駄な補習なら、やっぱりインデックスの
確かにインデックスの着ていた修道服『歩く教会』は上条の右手に反応したけど(否、反応だなんて生ぬるい表現ではなかったが)、だからと言って『魔術』そのものを信じた訳ではない。おそらくインデックスの言ってた事は十中八九ウソっぱちだし、仮にウソをついてないつもりでも、実は単なる自然現象が
それでも、
(……逃がした魚はデカかったかなぁ)
上条はため息をついた。こんなエアコンもない蒸し
「……、」
上条はインデックスが部屋の中に忘れていったフードを思い出す。
結局、返さなかった。返せなかった、ではないと思う。たとえインデックスの姿が見えなくなっても、本気で探せばすぐ見つかっただろうし、見つからなかったとしたら今も彼女を探してフード片手に街中を走り回っているはずである。
今になって思えば、なんだかんだで
あの白い少女が、あんなにも
何か繫がりを残しておかないと、そのまま幻のように消えてしまいそうで、
(……、なんだ)
ちょっと詩人な
なんだかんだ言った所で、あのベランダに引っかかっていた少女は嫌いではなかったのだ。もう二度と
「……あーくそ」
舌打ちする。後からこんなに気になってくるならやっぱり引き止めておけばよかった。
そういえば、彼女の言っていた『一〇万三〇〇〇冊の魔道書』というのは何だったんだろう?
インデックスを
大量の本を押し込んだ倉庫のカギとか地図、とかそういうモノのたとえではなく。