第一章 魔術師は塔に降り立つ FAIR,_Occasionally_GIRL. ⑫

 幻想殺しイマジンブレイカーはあらゆる『異能の力』を一撃で打ち消す事ができる。それは『災害級レベル5』と呼ばれる、核シェルターさえ一撃で破壊しかねない御坂美琴ビリビリおんな超電磁砲レールガンでさえも例外ではない。

 けれど、逆に言えば。

 上条はいまだ『超能力』以外の『異能の力』を見た事がない。

 つまり、試した事がない。

 

 


「────巨人に苦痛の贈り物をPurisazNaupizGebo


 顔をかばった両手の向こうで、魔術師は笑っていた。

 ステイル=マグヌスは笑いながら、しやくねつえんけんを横殴りに上条とうたたき付けた。

 それは触れた瞬間にカタチを失い、まるで火山のほんりゆうのように辺り構わずすべてを爆破した。


 熱波とせんこうと爆音と黒煙が吹き荒れる。


「やりすぎたか、な?」


 まさしく爆弾による爆破事件を前に、ステイルはぼりぼりと頭をいた。一応、辺り一帯の人の出入りはチェックしている。夏休み初日の男子寮という事でほとんどの住人は外に出払っていた。が、友達のいない引きこもりがいるとなると少しやつかいになる。

 眼前は黒煙と火炎のスクリーンに覆われている。

 だが、いちいち見なくても分かる。今の一撃はせつ三〇〇〇度の炎の地獄だ。人肉は二〇〇〇度以上の高熱では『焼ける』前に『溶ける』らしいから、あめ細工のようにひしゃげた金属の手すりと同じく、学生寮の壁に吐き捨てたガムのようにべっとりこびりついている事だろう。

 つくづく、あの少年をインデックスから引きがして正解だったとステイルは息を吐いた。あそこで傷だらけのインデックスを盾にされたら少し厄介な展開になっていただろう。

 ……しっかし、これではインデックスを回収できないな。

 ステイルはため息をつく。炎の壁を挟んで通路の向こうにいるインデックスの元まで歩いていく事はできない。通路の反対側に非常階段でもあれば良いが、回り道をしている間にインデックスが炎に巻かれてしまっては笑い話にもならない。

 ステイルはやれやれと首を振りながら、もう一度だけ煙の中を透かし見るように、言った。


「ご苦労様、お疲れ様、残念だったね。ま、そんな程度じゃ一〇〇〇回やっても勝てないって事だよ」


だれが、何回やっても勝てねえって?」


 ギクリ、と。炎の地獄の中から聞こえてきた声に、魔術師の動きが一瞬で凍結する。

 ごう! と辺り一面の火炎と黒煙が渦を巻いて吹き飛ばされた。

 まるで、火炎と黒煙の中央でいきなり現れた竜巻がすべてを吹き飛ばすように。

 かみじようとうはそこにいた。

 あめ細工のように金属の手すりはひしゃげ、床や壁のそうはめくれ上がり、蛍光灯は高熱で溶けてしたたり落ち───そんな炎としやくねつの地獄の中、傷一つなく少年はそこにたたずんでいた。


「……、ったく。そうだよ、何をビビってやがんだ────」


 上条は、本当につまらなそうに口の端をゆがめて一人でつぶやいた。


「────


 上条は正直、『魔術』なんて言われても何も理解できない。

 それがどんな仕組みで動いているものなのか、見えない所で一体何が起きているのか。上条はきっと一から十まで説明されたって半分も理解できないだろう。

 だけど、バカな上条でも一つだけ分かる事がある。


 しよせん、ただの『異能の力』だ。


 吹き飛ばされた真紅の火炎は、完全には消滅しない。

 まるで上条を取り囲むように、れいな円を描いてジリジリと燃え続けている、が。


「邪魔だ」


 一言。せつ三〇〇〇度の魔術の炎に上条の右手が触れた瞬間、全ての炎が同時に消し飛んだ。

 まるで、バースデーケーキに刺さったロウソクをまとめて吹き消すように。

 上条当麻は目の前の魔術師を見る。

 目の前の魔術師は、突然の『予想外』に対し、人間みたいにうろたえていた。

 いいや、は人間だった。

 ぶん殴れば痛みを感じるし、一個一〇〇円のカッターで切りつければ赤い血を流す、

 

 もう上条は、恐怖で足がすくんだり、緊張で体が固まったりはしない。

 いつものように、手足は動く。

 動く!


「───────、な」


 その一方で、ステイルは目の前の理解不能な現象に危うく一歩後ろへ下がる所だった。

 周囲の状況を見れば、先の一撃が不発だったとは考えられない。だとすれば、あの少年は生身の体でせつ三〇〇〇度を受け止めるほどの強度があるのか? いや、それはもう人間ではない。

 かみじようとうはステイルの混乱など気にも留めない。

 熱を帯びる右手を岩のように強く握り締めながら、ゆらりとステイルの元へ、一歩


「チッ!!」


 ステイルは右手を水平に振るう。生み出されるえんけんを同じように、勢い良くたたきつける。

 爆発が起きた。火炎と黒煙がき散らされた。

 けれど、火炎と黒煙が吹き飛ばされた後には、やはり上条当麻は同じようにたたずんでいる。

 ……、まさか。魔術を─────?

 ステイルは口の中でつぶやいたが、即座に否定する。こんな魔術はおろか降誕祭クリスマス交尾デートの日としか感じないようなとぼけた国に魔術師なんているはずがない。

 それに、───それに、魔力を持たないインデックスが『魔術師』と手を組めば、そもそも『逃げ出す』必要はどこにもない。それほどまでにインデックスの記憶は危険なのだ。

 一〇万三〇〇〇冊の魔道書とは、単に核ミサイルを持つのとは訳が違う。

 生き物は必ず死ぬ、上から落としたリンゴは下に落ちる、1+1=2……。そんな、世界としては当たり前で、変えようのない『ルール』そのものを破壊し、組み替え、生み出す事ができる。1+1は3になり、下から落としたリンゴは上に落ち、死んだ生き物が必ず生き返る。

 魔術師達は、その名を魔神と呼ぶ。

 魔界の神ではなく、魔術を極めて神の領域にまで辿たどり着いた魔術師、という意味の。

 魔神。

 しかし、目の前の少年からは『魔力』を感じられない。

 魔術師ならば、一目で見れば分かる。あれには魔術師という『同じ世界のにおい』がしない。

 ならば、


「!!」


 ぶるっと。全身に走る震えをごまかすように、さらに炎剣を生み出し上条へたたきつける。

 今度は爆発さえ起きなかった。

 上条が羽虫でも振り払うように右手で炎剣を叩いた瞬間、ガラスが砕けるように炎剣が粉々に砕け散り、虚空へ溶けるように消えてしまった。

 摂氏三〇〇〇度の炎の剣を、何の魔術強化も施していない生身の右手で、叩き砕いた。


「──────、ぁ」


 唐突に。本当に唐突に、ステイル=マグヌスの脳裏に何かが浮かぶ。

 インデックスの修道服『歩く教会』は法王級ぜつたいで、その結界の力はロンドンの大聖堂に匹敵する。アレを破壊するには伝説にあるセントジョージのドラゴンでも現れない限り絶対に不可能だ。

 しかし、現にかんざきられたインデックスの『歩く教会』は完膚なきまで破壊されていた。

 一体、だれが? 全体、どうやって?


「………………………………………………………………………………………………………、」


 かみじようとうはもうステイルの目の前まで歩いてきている。

 あと一歩踏み込んだだけで、殴りかかれるほど近くまで。


「────世界MT構築WOる五TF元素FT一つO偉大IIGOIIO炎よF

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