第一章 魔術師は塔に降り立つ FAIR,_Occasionally_GIRL. ⑬
ステイルの全身から嫌な汗が噴き出した。目の前の夏服を着た生き物が、人間のカタチをしているからこそ。その皮の中には、血や肉ではなくもっと得体の知れないドロドロした何かが詰まっているような気がして、ステイルは背骨が震えるかと思った。
「
ステイルの修道服の胸元が大きく
それはただの炎の塊ではなかった。
真紅に燃え盛る炎の中で、重油のような黒くドロドロしたモノが『
その名は『
必殺の意味を背負う炎の巨神は両手を広げ、それこそ砲弾のように上条当麻へ突き進み、
「邪魔だ」
ボン!! と。
上条当麻はステイル=マグヌスの最後の切り札を吹き飛ばした。まるで水風船を針で刺したように、炎の巨神を
「……、?」
その時。上条当麻が最後の一歩を踏み込まなかったのは、何か理屈があった訳ではない。
だが、最後の切り札を
ビュルン!! と粘性の液体が飛び跳ねる音が四方八方から響き渡る。
「な、──────ッ!?」
驚いて
あのまま一歩進んでいれば、間違いなく四方八方から襲いかかる炎の中へ取り込まれていた。
上条は目の前の光景に混乱しそうになる。上条の右手『
炎の中の重油はのたくり、カタチを変え、まるで両手で剣を持っているような形になる。
いや、それは剣ではない。人間でも
ソレは大きく両腕を振り上げると、ツルハシでも振り下ろすように上条の頭に襲いかかる。
「……っ!!」
上条はとっさに右手で受け止めた。元より上条は右手を除けば単なる高校生だ。目の前の攻撃を見切って避けるような戦闘スキルは持ち合わせない。
ガギン! と十字架と右手がぶつかり合う。
今度は『消える』事さえなかった。まるでゴムの塊でも握り締めているように、ともすれば上条の指の方が押し負かされそうになる。相手は両手で、こちらは右手しか使えない。ジリジリと。炎の十字架が上条の顔へと一ミリ一ミリ近づいてくる。
混乱する上条は、かろうじて気づく事ができた。この炎の塊『
右手を、封じられた。
たった一瞬でも手を離せば、おそらくその瞬間に『魔女狩りの王』に灰にされる。
「────ルーン」
と、上条
目の前の危機のせいで後ろを振り返る訳にはいかない。だが、
「───『神秘』『秘密』を指し示す二四の文字にして、ゲルマン民族により一世紀から使われる魔術言語で、古代英語のルーツとされます」
だが、上条はそれがインデックスの声だと分かっているのに、信じられなかった。
「な……、」
こんなにボロボロで、こんなに血まみれで、どうしてこんな冷静に話せるんだ?
「───『魔女狩りの王』を攻撃しても効果はありません。壁、床、天井。辺りに刻んだ『ルーンの刻印』を消さない限り、何度でも
押される右手の手首を左手で
そこには、確かに一人の少女が倒れていた。けれど、上条は『それ』をインデックスと呼ぶ事ができなかった。まるで機械のような、あまりにも感情の欠落した
一言一言、告げるたびに背中の傷から血が
そんな事にも全く気に留めない、まさしく魔術を説明するためだけの『
「お、まえ─────インデックス、だよな?」
「はい。私はイギリス清教内、第
魔道書図書館───禁書目録という生き方に、上条は自分を殺そうとする
「自己紹介が済みましたら、元のルーン魔術に説明を戻します。───それは簡単に言えば、夜の湖に映る月と同じ……いくら
そこまで『説明』されて、上条はようやく
ようは、これは『異能の力』の本体ではない、という事か? 写真とネガのように、どこかでこの炎の巨神を作っている『他の異能の力』を
この期に及んで、上条はまだインデックスの言葉を完全に信じられなかった。
どこまで行っても、魔術なんて存在しないという『常識』という言葉が胸にこびりつく。
しかし、『
「
ギョッとした。炎の巨神の向こうで、ステイルは右手に炎剣を生み出している。
「────
さらにもう一本。左手には青白く燃える
「────────────
力ある言葉と同時、左右から炎の巨神ごと引き裂くように、大ハサミのように二本の炎剣が水平に襲いかかる。『魔女狩りの王』に右手を封じられた上条はこれ以上防ぐ事ができない。
(ヤ、バ…………とりあえず、逃げ──────ッ!!)
上条
二本の炎剣と炎の巨神が激突し、一つの巨大な爆弾と化して大爆発を巻き起こした。