第一章 魔術師は塔に降り立つ FAIR,_Occasionally_GIRL. ⑭
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炎と煙が晴れてみれば、辺り一面は地獄だった。
金属の手すりは
少年の姿はどこにもなかった。
だが、階下の通路を走り去る足音が一つ、ステイルの耳に届いた。
「……、『
ささやくと、辺り一面の炎は人のカタチを取り戻し、手すりを越えて足音を追う。
内心で、ステイルは驚いていた。何の事はない。爆発の直前、ステイルの両手剣が炎の巨神を切り裂いた一瞬を突いて、
落下した上条は一階下の手すりに
「だけど、まぁ」
ステイルはそっと
「だけど、それが何だ」ステイルは余裕の表情で、「君にはできないよ。この建物に刻んだルーンを完全に消滅させるなんて、君には絶対に無理だ」
「死ぬ! ホントに死ぬ! ホントに死ぬかと思った!!」
命綱もなしに七階の手すりから飛んだ上条は、
一直線の通路を走りながら上条はあちこちを見回す。インデックスの助言を完全に信じた訳ではない。とにかく一度『
「ちっくしょう! 一体全体何なんだよこりゃあ!!」
だが、目の前の光景を前に上条は思わず絶叫してしまう。
この広い学生寮のどこにルーンが刻んであるか───なんて話ではなかった。むしろ、そんなものはとっくに見つかっている。床の上に、ドアの前に、消火器の腹に。テレホンカードぐらいの大きさの紙切れが、建物中のあらゆる場所に耳なし
「くそっ!!」
もう一度捕まったらもう引き
それは、明らかにコピー機を使って大量生産したものだった。
こんなちゃちい
(なんていうか……オカルトって、ずるい)
泣きそうになる。おそらく建物全体で何万枚と貼り付けてある『ルーンの刻印』。その
考えを断ち切るように、階段の上から『
「くそっ!」
これ以上階段を下りるのは
通路は一直線で、単純な速さだけなら『
「……、ッ!」
「お、おおあっ!!」
上条は右手も使わず、後ろへ逃げ出さず───二階の手すりを勢い良く飛び越えた。
飛び降りて、初めて気づく。下はアスファルトで、何台もの自転車が
「ひっ、わあああああああああああああ!!」
かろうじて自転車と自転車の
「!?」
上条は自転車を
? と、上条は思わず頭上を見上げて首を
ごうごうと音を立てる『
どうやら、ルーンを貼り付けてあるのはこの学生寮だけらしい。建物の外に出てしまえばステイルの炎から
こういう『ルール』を目の当たりにすると、魔術という目に見えない『
はぁ、とため息をつく。
直接的な命の危機から解放されると、途端に上条は体から力が抜けた。思わず地面に座り込む。恐怖、ではない。もっと別の、けだるい疲労感に似た感覚が襲ってくる。このまま外へ逃げ切ってしまえば、もう危険は去るんじゃないのか。そんな考えまで浮かんでくる。
「そうだ、警察……、」
上条は
上条はズボンのポケットを探ったが、携帯電話は今日の朝、自分の足で踏んづけたんだった。
上条は表通りへ視線を向ける。公衆電話を探すために。
ここから逃げるためじゃない。
ここから逃げるためじゃない。
『……、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?』
なのに、その言葉は上条の胸にザグンと突き刺さった。
何も悪い事はしていないのに。何も悪い事はしていないはずなのに。
これと全く同じ状況で、インデックスは上条
「ちくしょう、そうだよな……。地獄の底まで、ついて行きたくなけりゃあ」上条は笑いながら、「……地獄の底から、引きずり上げてやるしかねーよなぁ」
もういい加減、理解してやっても良いと思う。
どんな仕組みで魔術が動いているかなんて知らない。見えない所がどうなってるかなんて分かる必要もない。携帯電話でメールを打つのに設計図はいらないんだから。
「……、何だ。分かっちまえばどうって事ねーじゃねえか」
するべき事が分かっているなら、後は試してみれば良い。
たとえそれが失敗だったとしても、何もしないでいるよりはずっとマシだ。
格好良く決めてみたのは良いが、インデックスを助けるためにはまずあの
「……ってか、あんなに派手にやってよく火災報知器が動かねえな」
何気なく呟いてから、上条当麻の動きがピタリと止まった。
火災報知器?
建物中に設置された火災報知器のベルが、一斉に鳴り響いた。
「!?」
爆撃のような轟音の