第二章 奇術師は終焉を与える The_7th-Egde. ①
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夜。表通りから消防車と救急車のサイレンが響き渡り───通りすぎた。
学生寮はほぼ無人状態だったらしいが、火災報知器を鳴らしてスプリンクラーを動かしたのがまずかった。消防車と野次馬で無人の学生寮はあっという間に人だらけになったのだ。
部屋にあった
上条
インデックスを救急車に乗せる事はできない。
学園都市は基本的に『外の人間』を嫌う傾向がある。そのために街の周りを壁で覆い、三基の衛星が常に監視の目を光らせるほどの徹底ぶりだ。コンビニに入るトラック一台にしたって、専用のIDがなければ話にならない。
そんな所に、IDを持たない
そして、敵は『組織』だ。
そんな所を襲撃されれば周りの被害が拡大するだけだし───何より、治療を受けている最中、最悪、手術中にインデックスが
「……けど、だからってこのままほっとく訳にもいかねえんだよな」
「だい、じょうぶ。だよ? とにかく、血を……止める事ができれば……」
インデックスの口調は弱々しく、ルーンについて説明していた機械的なモノは何もなかった。
だからこそ、それが一発で間違いだと
そうなると、頼りになるのはもはや一つしかない。
「おい、オイ! 聞こえるか?」上条はインデックスの
上条にとって魔術のイメージなんてRPGに出てくる攻撃魔法と回復魔法ぐらいしかない。
確か、インデックス自身には『魔力』を扱う素質がないから魔術を使う事はできない。だけど、『異能の力』を扱う上条がインデックスから知識を聞き出せば、あるいは────。
激痛よりも失血のせいで浅く呼吸を繰り返すインデックスは、
「……ある、けど」
一瞬喜びかけた上条は、『けど』という言葉が気にかかって、
「君には……無理」インデックスは、小さく息を
上条は
「く、そ! またかよ……またこの右手が悪いのかよ……ッ!!」
ならば、電話を使って
「……?」インデックスはちょっとだけ黙って、「あ、ううん……。そういう意味じゃないよ」
「?」
「君の右手じゃなくて……『超能力者』っていうのが、もうダメなの」熱帯夜の中、真冬の雪山のように体を震わせて、「魔術っていうのは……、
こんな時にナニ説明してんだ、と
「分からない……? 『才能ある人間』と『才能ない人間』は……、回路が違うの……。『才能ある人間』では……『才能ない人間』のために作られた
「なっ……、」
上条は絶句した。確かに上条達『超能力者』は薬や電極を使い、普通の人間とは違う脳の回路を無理矢理に拡張している。体の作りが違うと言われれば、確かに違うのだ。
だけど、信じられなかった。いや、信じたくなかった。
学園都市には二三〇万人もの学生が住んでいる。しかも、その
つまり。この街にいる人間では、彼女を唯一救える『魔術』を使う事はできない。
目の前に人を救う方法があるのに、
「ち、くしょう……、」上条は、獣のように犬歯を
インデックスの震えがひどい。
上条が一番耐えられなかったのは、自分の無能のツケが彼女へ行く所だった。
何が『才能ある』力だと吐き捨てる。こんなに苦しんでいる女の子の一人も助けられないで。
かと言って、何か新しい解決案が浮かんでくる訳でもない。この街に住む二三〇万もの学生には魔術は使えない、というのは一番初めに
「……?」
と、上条は自分で思った事に、自分で違和感を覚えていた。
学生には?
「おい、確か魔術ってのは『才能ない』一般人なら誰でも使えるんだったな?」
「……え? うん」
「さらに『魔術の才能がないとダメ』なんてオチはつかねーだろうな?」
「大丈夫、だけど……。方法と準備さえできれば……。あの程度、中学生だってできると思う」インデックスはちょっと考えて、「……確かに、手順を踏み違えれば脳内回路と神経回線の
上条は、笑った。
思わず頭上を見上げ、夜空の月に向かって
確かに、学園都市に住む二三〇万人もの学生は、みんな何らかの超能力を開発されている。
だが、逆に言えば。超能力を開発する側の───教師はただの人間のはずだ。
「……あの先生、この時間でもう眠ってるなんて言わねーだろうな」
クラスの担任、身長一三五センチ、教師のくせに赤いランドセルが良く似合う一人の先生、
公衆電話で青髪ピアスから小萌先生の住所を聞き出すと(ケータイは今朝、上条が自分で落として壊した。青髪ピアスが何で先生の住所を知ってたかは
「ここか……、」
路地裏から歩いて十五分という所に、それはあった。
なんて言うか、見た目十二歳な小萌先生にしては超意外な事に、それは東京大空襲も乗り切りましたという感じの超ボロい木造二階建てのアパートだった。通路に洗濯機がドカンと置いてある所を見ると、どうも
普段ならこれだけで一〇分間はギャグにできる上条だったが、今は少しも笑いが起きない。
一つずつドアの表札を確かめ、ボロボロに
ぴんぽんぴんぽーん、と二回チャイムを鳴らして上条は思いっきりドアを
ドゴン! と上条の足がドア板に激突して