第二章 奇術師は終焉を与える The_7th-Egde. ⑤
「「……、」」
レディ二人に
「ですです。ところで上条ちゃん、結局この子は上条ちゃんの何様なんです?」
「妹」
「
「義理なんです」
「……、変態さんです?」
「ジョークです! 分かってるよ義理はマナー違反で実はルール違反ですよあーもう!」
「上条ちゃん」
と、いきなり先生モードの口調で言い直された。
これで黙って目を
「先生、一つだけ聞いても良いですか?」
「ですー?」
「事情を聞きたいのは、この事を警察や学園都市の理事会へ伝えるためですか?」
です、と小萌先生はあっさり首を縦に振った。
何のためらいもなく、人を売り渡すと、自分の生徒に向かって言い捨てた。
「上条ちゃん達が一体どんな問題に巻き込まれてるか分からないですけど」小萌先生はにっこり笑顔で、「それが学園都市の中で起きた以上、解決するのは私達教師の役目です。子供の責任を取るのが大人の義務です、上条ちゃん達が危ない橋を渡っていると知って、黙っているほど先生は子供ではないのです」
何の能力もなく、何の腕力もなく、何の責任もないのに。
ただ真っ
「本当に……、」
……この人には
こんなドラマに出てくるような、映画の中でも見なくなったような『先生』なんて、上条は十数年を生きてきたそれなりに長い人生の中でもたった一人しか見当たらない。
だから、
「先生が赤の他人だったら遠慮なく巻き込んでるけど、先生には『魔術』の借りがあるんで巻き込みたくないんです」
上条も、真っ直ぐと告げた。
もう、無償で
小萌先生はちょっとだけ、黙った。
「むう。何気にかっくいー
「……、? けど先生、いきなり立ち上がったりしてどこへ……?」
「執行猶予です。先生スーパー行ってご飯のお買い物してくるです。上条ちゃんはそれまでに何をどう話すべきか、きっちりかっちり整理しておくんですよ? それと、」
「それと?」
「先生、お買い物に夢中になってると忘れるかもしれません。帰ってきたらズルしないで上条ちゃんから話してくれなくっちゃダメなんですからねー?」
そう言った小萌先生は、笑っていたと思う。
パタン、とアパートのドアが開閉する音が響き、部屋には
(……気を遣わせちまったかな)
何となく。あの何か
それでいて、後からやっぱり相談したとしても『どうして早く言わなかったんですか!? 先生キレイに忘れてました!』とかぷりぷり怒りながら
ふぅ、と上条は
「……、悪りぃな。なりふり構ってられる状況じゃねえって分かってんだけど」
「ううん。あれでいいの」インデックスは小さく首を振って、「これ以上巻き込むのは悪いし……それに、もうこれ以上あの人は魔術を使っちゃダメ」
「?」上条は
「魔道書っていうのは、危ないんだよ。そこに書かれてる異なる常識『
『違う世界』の知識を知った人間の脳は、それだけで破壊されてしまうとインデックスは言う。コンピュータのOSに対応してないプログラムを無理矢理に走らせるようなモノなんだろうか? と上条は頭の中で翻訳した。
「……私は宗教防壁で脳と心を守ってるし、人間を超えようとする魔術師は自ら
「ふ、ふぅん……、」上条は受けた衝撃を何とか表に出さないように、「何だよ、もったいねえ。あのまま先生に錬金術とかやらせようとか思ってたのに。知ってんぞ錬金術、鉛を金に換える事ができんだろ?」
情報ソースは女の子の錬金術師が主人公の
「……、
「…………………………………………………………………………………………、超意味ねえ」
上条の魂の抜けた
「……だよね。たかが鉛を金に変換したって貴族を喜ばせる事しかできないもんね」
「けど、あれ? 冷静に考えてみたら、それって何なの? どういう原理? 鉛を金に換えるって、まさか
「よくわかんないけど、たかが十四世紀の技術だよ?」
「ばっ……て事はアレか? 原子配列変換って事でオッケーなの!? 加速器使わなくても陽子崩壊起こせて
「???」
「待て、そんな不思議そうな顔すんな! えっと、えっと、あー。お前それがどれだけスゴイ事かって言うとな、アトミックなロボとか起動戦士が普通に作れちゃうぐらいなんだぞ!?」
「なにそれ?」
男のロマンは一言で
ぐったりとうな垂れる
「と、とにかく、儀式で使う聖剣や
興奮して一気にまくし立てようとした彼女は、二日酔いみたいにこめかみを押さえた。
上条
一〇万三〇〇〇冊もの魔道書。たった一冊読んだだけで発狂するようなものを、それこそ一字一句正確に頭に詰め込んでいくという作業は、一体彼女にどれだけの苦痛を与えるんだろうか?
なのに、インデックスはたった一言も苦痛を訴えない。
知りたい? と彼女は言った。自分の痛みなど無視して、まるで上条に謝るように。
静かな声は、いつでも明るいインデックスだからこそ、より一層の『決意』を思わせた。
先生のバカ、と上条は思う。
上条にしてみれば、インデックスの抱えている事情なんてどうでも良かった。どんな事情があったとしても、見捨てることなどできるはずがないのだから。とにかく『敵』を倒してインデックスの身の安全さえ守れれば、彼女の古傷をえぐる必要はない、と思っていたのに。
「私の抱えてる
インデックスと名乗る少女は、もう一度言った。
上条は、覚悟を決めるように、答えた。
「なんていうか、それじゃこっちが神父さんみてーだな」
なんていうか、本当に。───
何でだと思う? とインデックスは言った。