第二章 奇術師は終焉を与える The_7th-Egde. ⑨
「あのな、元から好きでもねーくせにそんな
「……、」
「て、アレ? ……何で上目遣いで黙ってしまわれるのですか、姫?」
「……、」
超強引にギャグに持ってこうとしてもインデックスはまるで反応してくれない。
おかしい、なんか変だ。何でインデックスは胸の前で両手を組んで、上目遣いの
「とうま」
はい、と
とてつもなく不幸な予感がした。
「だいっきらい」
瞬間、上条は女の子に頭のてっぺんを丸かじりされるというレアな経験値を手に入れた。
4
インデックスは一人でさっさと銭湯へ向かってしまった。
一方、上条は一人でトボトボ銭湯を目指していた。インデックスの後を追い駆けようと思ったのだが、お怒りの白いシスターは上条の姿を見るなり野良猫みたいに走って逃げてしまうのだ。そのくせ、しばらく歩いているとまるで上条を待ってたみたいにインデックスの背中が見えてくる。後はその繰り返し。なんかホントに気まぐれな猫みたいだった。
まぁ
というか、ナマハゲよろしく暗い夜道で(見た目は)か弱い英国式シスターの女の子を追い回している姿を
「英国式シスター、ねえ」
上条は暗い夜道を一人で歩きながら、ぼんやりと口の中で言った。
分かってる。インデックスを日本の『イギリス教会』に連れて行ったら、彼女はそのままロンドンの本部へ飛ぶ。もう上条の出番はないだろう。短い間だったけどありがとう、君の事は忘れないよ、完全記憶能力あるし、というオチがつくに決まってる。
何か胸にチクリと刺さるものがある上条だったが、かと言って何か別案がある訳でもない。インデックスを教会に保護してもらわなければ延々と魔術師に追われ続ける事になるし、インデックスの後を追ってイギリスまで飛ぶというのも非現実的だ。
住んでる世界、立ってる場所、生きてる次元───何もかもが違う人間。
上条は
二つの世界は、陸と海みたいに決して交わり合う事はないという、
たったそれだけの話。
たったそれだけの話が、
「あれ?」
と、不意に空回りする思考が切れた。
何かが、おかしい。
そう言えばインデックスと一緒に歩いていた時から、
上条は首をひねりつつも、そのまま歩き続ける。
そして、片側三車線の大通りに出た時、かすかな違和感は明確な『異常』に
誰もいない。
コンビニの棚に並ぶジュースみたいにずらりと並ぶ大手デパートには誰も出入りしていない。いつも狭いと感じる歩道はやけにだだっ広く感じられ、まるで滑走路みたいな車道には車の一台も走っていない。路上駐車してある車はそのまま乗り捨てられたように無人。
まるでひどい田舎の農道でも見ているようだった。
「ステイルが
ゾン、と。いきなり顔の真ん中に日本刀でも突き刺されたような、女の声。
気づけなかった。
その女は
暗がりで見えなかったとか気がつかなかったとか、そんな次元ではない。確かに一瞬前まで
「この一帯にいる人に『
理屈よりも体が──無意識に右手に全身の血が集まっていく。ギリギリと手首をロープで縛られるような痛みに、上条は直感的にコイツはヤバイと感じ取った。
女はTシャツに片脚だけ大胆に切ったジーンズという、まぁ普通の範囲の服装ではあった。
ただし、腰から
「
そのくせ本人は緊張した様子を見せない。まるで世間話のような気楽さが、かえって怖い。
「……、テメェは」
「
「もう一つ?」
「魔法名、ですよ」
ある程度予想していたとはいえ、上条は思わず一歩後ろへ下がった。
魔法名──ステイルが魔術を使って上条を襲った時に名乗った『殺し名』だ。
「──て事は何か。テメェもステイルと同じ、魔術結社とかいう連中なんだな」
「……?」神裂は一瞬だけ不審そうに
上条は答えない。
魔術結社。一〇万三〇〇〇冊の魔道書を欲して、インデックスを追い回す『組織』。魔術を極め、世界の
「率直に言って」神裂は片目を閉じて、「魔法名を名乗る前に、彼女を保護したいのですが」
ゾッとした。
「……嫌だ、と言ったら?」
それでも、上条は言った。
「仕方がありません」
ドン!! という衝撃が地震のように足元を震わせた。
まるで爆弾でも爆発したようだった。視界の
「イン、デックス……ッ!!」
敵は『組織』だ。そして上条は炎の魔術師の名前を知っている。
上条はほとんど反射的に炎の塊が爆発した方角へ目を向けようとして、
瞬間、神裂
上条と神裂の間には一〇メートルもの距離があった。加えて、神裂の持つ刀は二メートル以上の長さがあり、女の細腕では振り回す事はおろか
───、はずだった。
なのに、次の瞬間。巨大なレーザーでも振り回したように上条の頭上スレスレの空気が引き裂かれた。
「やめてください」一〇メートル先で、声。「私から注意を
すでに神裂は二メートル以上ある刀を
上条は動けなかった。
自分が今ここに立っているのは、神裂がわざと外したから──かろうじてそう思うのが精一杯で、それさえ現実味が