第三章 魔道書は静かに微笑む "Forget_me_not."⑦
反論する言葉を頭の中に浮かべようとしたけど、たったの一つも存在しなかった。
ならば、もう認めるしかない。
「……、だよな。結局、分かり合う事なんざできねーんだな」
コイツを、同じ境遇にいて理解できるかもしれなかった人間を、完全に敵と認めるしかない。
『ですね。同じモノを欲する者同士は味方になる、という公式があれば世界は
上条は受話器を握る手に、わずかに力を込める。
そのボロボロの右手を、神様の
「─────それじゃ、潰すぜ。宿敵」
『私とあなたの
「上等だ、
ステイルだって決して上条より格下ではなかった。上条が勝てたのは、スプリンクラーという設備にステイルが負けたせいだ。ようは、戦い方次第で実力を埋める事はできるはずなのだ。
『先に伝えておきますが、次、あの子が倒れれば、もう
「
首を洗って待っています、と笑って通話が切れた。
上条は受話器を静かに置いて、それから夜空の月を見上げるように
「くそっ!」
まるで組み
電話ではあの魔術師に偉そうな事を言ったが、上条は脳外科医でもなければ大脳生理学の教授でもない。科学的に何とかなるかもしれないにしても、一介の高校生では具体的に何をどうすれば突破口になるかなんて見当もつかない。
見当もつかないのに、立ち止まる訳にはいかない。
まるでどこを見ても地平線しか存在しない砂漠の真ん中にポツンと取り残されて、自分の足で街まで戻ってこいと言われたような猛烈な焦りと不安が襲いかかってくる。
その魔術師達がどうして今すぐ襲ってこないのか、その理由は分からない。単に上条に同情しているだけか、それとも
上条は畳の上で丸くなってすやすや眠っているインデックスの顔を見た。
それから、よしっ! と気合を入れて起き上がる。
学園都市には大小一〇〇〇ヶ所以上の『研究機関』があるものの、一学生の上条にはコネもツテもない。それらを頼るには、やはり
たった一日も時間がないのに何ができる、と思うかもしれない。間近に迫ったインデックスの
人間を仮死状態にする薬、なんて言うとロミオとジュリエットじみた非現実的な
眠っている間も夢を見たりして頭を使うじゃないか、という心配はしなくて良い。
よって、上条に必要な事は二つ。
一つは、
一つは、魔術師の目をかいくぐってインデックスをここから連れ出す事、もしくは上条でも二人の魔術師を倒せるような環境を作り上げる事。
上条はまず小萌先生に電話をする事から始めた。
……と、思ったけれど、冷静になってみたら小萌先生の携帯の番号なんて知らないのだった。
「うわ、すっげーバカっぽい……」
半分以上本気で死にたい声を出しながら、自分の周囲をグルリと見回してみた。
何の変哲もない……むしろ狭いと感じられるほどの
この中から、あるかどうかも分からない『携帯電話の番号』を探せなど、ムチャクチャだと思った。まるで広大なゴミの埋立地から、昨日間違って捨てた乾電池を一本、探してこいと言われたような気分だった。
それでも止まっていられない。上条は辺り構わずモノをひっくり返してメモか何かに携帯電話の番号が書いてないかを探してみる。一分一秒が惜しいこの状況で、あるかどうかも分からないモノを探すなんて正気の
タンスの奥まで調べて本棚の本を全部引き抜いた。上条がこれだけ暴れても
自分はこんなに頑張ってるのにこうも完全にコタツ猫モードになってるインデックスを見ると異常にドツき回したくなってくるが、その時、家計簿らしき大学ノートに挟んであった一枚の紙切れがひらりと床に落ちるのを上条の目は見逃さなかった。
携帯電話の通話料金の明細書だった。
飛びつくように上条はその紙切れを拾い上げると、そこには確かに十一
電話番号を見つけるまでに随分、時間がかかったように思えた。
実際、それが何時間も
番号の通りにかけるとコール音三回で、まるで計ったように
まるで口から泡でも飛ばすように、上条は受話器に向かって自分でも理解しにくいような、全く頭の整理ができていない『説明』を叫んでいた。
『───んー? 先生の専攻は
大して詳しい説明もしていないのに、小萌先生はすらすらと答える。
こんな事なら最初っから小萌先生に相談してりゃ良かったと上条は本気で思う。