第四章 退魔師は終わりを選ぶ (N)Ever_Say_Good_bye. ④
インデックスが、教会の技術と術式を頼らなければならないように。
インデックスの
───人の優しさや思いやりすら計算に組み込んだ、悪魔の
「……けど、そんな事はどうでも良い」
そう、今はそんな事はどうでも良い。
問題なのは、今ここで問題にすべきなのは、ただ一つ。インデックスを苦しめてきた教会の
そう、相手が『魔術』なんていう『異能の力』であるならば、
───上条
上条は時計のない部屋で、今が何時か考える。
儀式を始める時間まで、おそらくもう何分もない。続いて上条はアパートのドアを見た。その向こうにいる魔術師にこの『真実』を告げた所で、彼らは信じるか? 答えはノーだ。上条はただの高校生だ、脳医学の医師免許を持っている訳ではないし、何より魔術師との関係は『敵』と呼んで何の問題もない。上条の言葉を彼らが信じるとは思わない。
上条は、視線を落とす。
ぐったりと手足を投げ出して
『この子の前で、これだけ苦しんでいる女の子の前で、取り上げる事ができるか! そんなに自分の力を信じているなら消してみろよ、
ついさっき、自分自身を散々に打ちのめしたステイルの言葉に、上条は小さく笑った。
小さく笑う事ができるほど、世界は変わっていた。
「
上条は笑いながら、右手を
まるで、右手の封印を解くように。
「────主人公に、なるんだ」
言って、笑って、上条はボロボロの右手をインデックスのおでこの辺りに押し付けた。
神様の
けれど、たった一つ。
目の前で苦しんでいる女の子を助ける事ができるなら、それはとても素晴らしい力だと思いながら。
……。
……、
……?
「──────────、って、あれ?」
起きない。何も起きない。
光も音もなかったが、これで教会がインデックスにかけた『魔術』は消えたのか? いや、それにしてはインデックスは相変わらず苦しそうに
上条は、もう何度かインデックスの体に触れている。
例えば学生寮でステイルをぶん殴った後、傷ついたインデックスを運んだ時にもあちこち触れてるし、インデックスが
上条は首をひねる。自分の考えが間違っていた……とは思えない。そして、上条の右手に打ち消せない『異能の力』は存在しない、はずだ。ならば、
ならば……まだインデックスに触れてない部分がある?
「…………………………………………………………………………………………………あー、」
何かものすごくエロい方向にすっ飛びかけた頭を上条は無理矢理に戻す。
けれど、考え自体はそれしか残っていない。インデックスにかかっているのが『魔術』で、上条の右手に消せない『魔術』は存在しないと言うならば、上条の右手が『魔術』に触れていないと、そういう理屈になる。
けど、それはどこだろう?
上条は熱病に浮かされたようなインデックスの顔を見る。記憶に関する魔術……なんだから頭、もしくは頭に近い場所に魔術はかかっている、んだろうか?
「………………あ」
と、上条はもう一度インデックスの顔を見る。
苦しそうに動く眉毛、硬く閉じられた
上条は右手の親指と人差し指を、その唇の間に滑り込ませて、強引に彼女の口を開いた。
「……、」
ぬるり、と。それ自体が別の生き物のように
ぐっ、と強烈な吐き気にインデックスの体が大きく震えた───ような気がした。
パチン、と静電気が散るような感触を上条は右手の人差し指に感じると同時、
バギン! と。上条の右手が勢い良く後ろへ吹き飛ばされた。
「がっ…………!?」
ぱたぱた、と
まるで
そして、顔の前へ持ってきた右手の、そのさらに向こう。
ぐったりと倒れていたはずのインデックスの両目が静かに開き、その
それは眼球の色ではない。
眼球の中に浮かぶ、血のように真っ赤な魔法陣の輝きだ。
(まずい……ッ!!)
上条が本能的な背筋の震えに、壊れた右手を突きつける前に、
インデックスの両目が恐ろしいぐらい真っ赤に輝き、そして何かが爆発した。
ゴッ!! という
ガチガチと震え、ともすれば崩れ落ちてしまいそうな両足で上条はかろうじて起き上がる。口の中に
「───警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum───
上条は、目の前を見る。
のろのろと。インデックスは、まるで骨も関節もない、袋の中にゼリーが詰まっているかのような不気味な動きでゆっくりと立ち上がる。その両目に宿る真紅の魔法陣が
それは眼であって、目ではない。
そこに人間らしい光はなく、そこに少女らしいぬくもりは存在しない。