ファン学!! 東京大空洞スクールライフRTA 04

▼006『自分達の至る地平』編【14】

◇これまでの話



◇第十一章



 白の地平の夢を、見た気がする。


「ん……」


 起きる。

 ここ数日は、まだ見慣れないマンションアパートの天井が目覚めの風景だ。

 だから白い天井紙の並びが見えている筈。だけど、



 ……ンンン?


 目覚めた視界にあったのは、二つ並ぶ円形の屋根影と、その向こうに広がる夜空だ。

 何だ。

 何処だここ。

 というかこの屋根はWhat? と手を伸ばしたら触れることが出来て、何か内圧あるマテリアルで、


「ひゃん……! な、何ですのいきなり!?」


 巨乳であった。



 第一階層。

 ゴール地点となる断崖フィールドの上。

 夕食の用意をしていた梅子が見たのは、正座する牛子に対し、土下座しているDE子だった。


「ど、どうしたの?」


「い、いえまあ……」


「いや、ホント御免。あまりにも想定外で……」


「膝枕が?」


「え? ――あ! そっか、アレ、そうだったんだ!」


「あ、後から気付かなくていいんですのよ!」


 ”こういう処”が巫女転換やった男子らしい処なのかな……、とDE子について感想するが、ともあれこっちも言っておくべきことが幾つかある。

 まずは自分も腰を落として、


「……今回、いろいろと有り難う。

 正直、ミッションクリア出来ると思って無かった」



 言った先。DE子が一瞬反応出来なかった。


「え? あ――」


 とDE子が牛子を窺う。

 すると牛子は嘆息を一つ落として、


「……私、別に謝罪は求めてませんのよ?」


「アー、うん。

 でもホント、御免。あんな声あげさせるような事をした訳だし」


「ちょっと驚いただけですのよ?

 悪気や故意ではないのに謝られては、今後、私の方からも気を遣いますわ」


「うん。DE子を荷物にするとき、気を遣うよね……」


「そうじゃありませんのよ――?」


 と言ってる間に、DE子が姿勢を直す。

 脚を崩して座り、


「――二人とも御疲れ様。

 あと、こっちこそホント有り難う。

 梅子の言う通り、かなりキツめのミッションだったよね」


「このくらい、よくあることですのよ?」


 梅子は頷く。


「かなーり不条理だからね。ここ」


「この前の商店街の地下とはえらい違いだ」


 軽く笑うあたり、結晶化かどうかという戦闘も、もう過去のものとなっているのだろう。

 切り替え早いのはしっかり寝てたからかなあ、と思うが、自分のそういうスイッチが重いだけかもしれないと、最近はそう感じる。

 そして、


「ちょっと、聞いて良い?」


「――さっきの、白の地平のこと?」


 その通りだ。



 牛子は、DE子が首を傾げるのを見た。

 あの白の地平。

 いきなり眼前に広がった光景についてだが、


「多分、地上に戻ったら、聴取があると思いますの。

 中洞自治体と東京大空洞総長連合、あと、図書委員会からも」


「ンンン。

 アレ、原因は自分なのかなあ。

 だとしたら皆にメーワク掛けるね」


「DE子も、よく解ってないんだ?」


「ぶっちゃけ、入り口くらいしか夢では見てなかったから、今回で一気に進んだ感じ。

 ……というか、最後に聞こえた声とか、何だろ?

 あれがMLM?」


 という問いかけに、いきなりの声が掛かった。

 背後、そちらから来たのは、



「ありゃMLMじゃねえよ。もっと馬鹿な御節介焼きだ」



 DE子は牛子の向こうを見た。

 焚き火台の上に盛る火を前に、ハナコがローチェアに腰を落としている。

 傍らには、熾した炭を利用したコンロに鍋も掛かっており、


「来いよ。先に食ってるぜ」


 言われて親指が示した方向。

 焚き火台の奥にはミツキさん達の姿もある。



 合流する。

 火が照らす範囲。

 そこにはハナコと自分達しかおらず、しかしローチェアは人数分ある。



「先にいただいてまーす」


 何をだろう、と思う。

 興味本意で覗いた鍋の中にあるのは、


「モツ鍋?」


「……ファンタジーかと思ったら、一気に日常感出ましたわね……」


「最近、大空洞範囲でモツ鍋やる処増えたよな。

 牛子ん処の牧場の影響か?」


「うちは乳牛メインだからちょっと違うと思いますけど、歳経た牛は市場に出しますから……、どうでしょうね」


「牛子人気でモツ鍋屋増えてたら猟奇だよね……」


「オイオイオイ、食ってる。食ってる」


 まあまあ、と言いつつ、ともあれ鍋を囲んだ。


「――あ、良いねコレ。梅子が作ったの?」


「ハナコさんの持ち込みだし、スープは市販品だから、私は切って入れただけ」


「外で食えば何でも美味えよな。

 ――あ、飲むものはコーヒーか水な」


 さて、とハナコが言う。


「聞きたいこと、あるか?」


「……白の地平のアレ、何なんです?」



 アー、とハナコが一回だけ星の浮かぶ天上を見上げた。


「ぶっちゃけ、よく解らねえ。

 地脈における、何らかの儀式的なものだってのは解ってんだけど」


「儀式……?」


「ああ。

 主に、何かデカイものが変わる節目。

 それが発生した場所で生じるって言われてる。

 東京五大頂の奥多摩UCATの主力や、武蔵勢。

 あと、うちらの方でも、過去に何度か生じているらしいし、最近では東京大解放の際に起きたって話だ」


「それが……、何故?」


「あーたーしーがー知ーるーかーよー」


「アーマーそうですねー……」


 というか、と手が小さく上がった。

 ミツキさんだ。


「私達、何の世界の改変にも、関わってないですよね?」



 ミツキさんの問いに、ややあってからハナコが頷いた。


「ああ。

 誰がどう見ても、MLMのクソミッションを半泣きでクリアしてただけだぞ。

 内容かなりキツかったけど、ああいうハードミッションは他にもあるし、相対的に見れば中級、上級者にだってある。

 あのミッションが関係したとは思えねえな」


 じゃあ、と手が上がった。


「……DE子がトリガーでしたの?」


「それも違うな。

 コイツがトリガーだったら、あたし達とクリアしたときにそうなってる筈だ。

 今回みたいなミッションをクリアすることまで条件に入れるなら、一生そうならねえ可能性が高い。

 ――聞いたろ? 最後の変な声。

 あれがメッセージだとすれば、それを伝えねえ可能性が高くなる方法をトリガーにはしねえだろ」


 じゃあ、と今度は自分が手を上げた。


「何で自分は、白の地平の夢を見たんです?」



「あーたーしーがー知ーるーかーよー。

 お前、馬鹿の子なの?

 どうなの?

 あたしは世界の創造主かよ?」


「アーマーそうでしたすみません!」



 まあな、とハナコが言った。


「――DE子。

 多分、お前は”呼ばれた”んだよ。

 面倒臭いヤツに」




◇これからの話