ソード・オブ・スタリオン2 種馬と呼ばれた最強騎士、隣国の王女を寝取れと命じられる
第0話:悪役王女、侍女と語り合う
ごめんなさい、と
街が、燃えていた。
シャルギア王国の王都バーラマ。大陸有数の歴史を誇り、水の都と称される美しい街だ。
その壮麗な白亜の都市が、今は
華やかだった街並みは、すでに灰色の
街を縦横に流れる運河は、炎から逃れるために飛びこんだ人々の死骸で埋め尽くされていた。
その炎の中を行き交うのは、死を具現化したような巨大な影だ。
美しくも
彼女はその凄惨な景色を、半壊した王宮の窓から見下ろしていた。
鋼鉄の塊同士が激突して、
重武装の
王都を襲った
彼らが巨大な剣や
撃ち放たれた
涙の
どれだけ悲惨な光景であろうとも、最後まで目を
なぜなら、これは彼女の罪。彼女こそが、この戦乱を引き起こした元凶なのだから。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼女のすぐ
勝利した漆黒の
戦い続けた機体は激しく消耗し、今なお動いていられるのが不思議なほどだ。
すでに
それでも漆黒の
守るべき仲間や友人を──そして最愛の皇女を失った彼には、戦いを投げ出すという選択肢は残されていないのだ。
数万、あるいは数十万の兵士の命を奪った彼の名は、今や人々の恐怖と
「ごめんなさい……ラス……
自分が
この次は。次こそは決して間違えないから──と。
燃え盛る炎に包まれて、王宮が崩れ落ちていく。
崩壊するバルコニーから地上へと投げ出される直前、彼女が最後に目にしたものは、
◇◇◇◇
ティシナ・ルーメディエン・シャルギアーナ。シャルギア王国の第四王女。
それが彼女の名前と肩書きだ。
「──姫様、お目覚めになられましたか」
放心したようにベッドの天蓋を見つめるティシナに、部屋付の侍女が声をかけてくる。
ティシナよりもやや年上で、眼鏡をかけた黒髪の侍女だった。
四番目の王女であるティシナに与えられた離宮の寝室は、さして広くもなく豪華でもない。
それでも
「おはよう、エマ・レオニー……夢を見ました」
柔らかなベッドの上で上体を起こして、ティシナは侍女に笑いかける。
「だいぶうなされていたようですが」
「気にしないで。たいしたことではありません。昔のことを、少し思い出していただけ。いつものことよ」
「
侍女のエマ・レオニーは、表情を変えずに
それほど長いつき合いではないが、この素っ気ない侍女のことを、ティシナはわりと気に入っていた。悪役王女と呼ばれるティシナの素顔を知りながら、態度を変えないところがいい。彼女と共にいられる時間が、それほど長く残されていないのが残念だ。
「なにか変わったことはありましたか?」
慣れた口調で、ティシナが
見るからに無愛想なエマ・レオニーだが、彼女は意外に耳が早い。この離宮内だけでなく、王城の
「アリオール殿下が、訪問の予定を繰り上げたそうです」
「……アリオール……アルギル皇国の皇太子殿下?」
「はい。到着は来週の予定でしたが、四日後には
「そういうわけにもいきませんね。ラスを追い返したのは少しやり過ぎだったかしら」
皇国の
侍女の瞳に、ほんの少し警戒したような光が宿る。
ティシナは、そんなエマ・レオニーを見上げて
「心配しないで。今さら心変わりをするつもりはありません。こちらの計画はなにも変わらない。私は、今度こそ間違えるわけにはいかないのだから──」
そう言って王女は、離宮の窓の外へと目を向ける。
湖の
この街が、間もなく戦火に包まれるといっても信じる者はいないだろう。そう、今はまだ。
「せいぜい役に立ってくださいね、フィアールカ……」
ティシナが、おそらく無意識にぼそりと
死んだはずの隣国の皇女の名前を口にするティシナを、侍女は無表情のまま見つめていた。