第一章 プリン一個で終わる世界 3
手駒の動かし方を把握できた。
ではいよいよ第五位も盤の上で戦おう。
「さあいつまで逃げられるかしらぁ御坂さ、っ!!」
食蜂は先行する美琴を追いかけようとして、二歩目でずべしゃーっ!! と派手に転んだ。
彼女は(絶対に認めないが)極度の運動音痴でもあるのだ。
常盤台のクイーンは前のめりに突っ伏したままふごふご叫んだ。
「帆風さん、イロイロおねがぁい!!」
そして洗脳済みの縦ロールは愛しの女王様の胴を肩で担ぐと電気自動車よりも派手に走り始めた。
「ちょ、あのっ、もうちょっと風情力を、これじゃただの山賊お持ち帰りコースになっちゃうんダゾ!?」
慌ててわたわた短いスカートの裾を掌で押さえる顔真っ赤の涙目女王様。自分で洗脳して自分で命令しているのにわがままなお嬢である。
お嬢様学校集中エリア、『学舎の園』。
単純な脚力だけなら全身の筋肉を電気信号でブーストできる帆風の方が上だが、美琴は美琴で磁力を操って街灯の柱や路駐の自動車などに次々と吸いつく格好で派手に跳躍し、ありえない加速をつけている。
とはいえ万能でもない。
美琴の磁力張りつきは洋風なビルの壁に鉄骨や鉄筋が入っているから磁力で張りつく事ができるのだ。街灯の柱や路駐の自動車もそういう事。逆に、例えば2×4の板材や純粋な煉瓦積みの壁だとこういう移動方法は使えない。気楽なように見えても自分の命がかかっている。読みを間違えれば高所からいきなり墜落しかねないので注意が必要だ。
一方。
先を行く御坂美琴はどこかに寄り道したようだった。
電話ボックスくらいの小さな部屋(?)だ。
「叩き潰しなさぁい!!」
ていうか踏み潰した。
透明な水でできた三メートルくらいのでっかい足首だった。その巨大過ぎるおみ足でボックスを上から踏み潰したのだ。水は便利だ、何しろ比重一で計算すればどれほどの重量と殺傷力になるかは簡単に調整できるのだし。
「くそっ、水泳部の湾内さんも食蜂側に呑まれたかッ!!」
寸前で飛び出してきた美琴は舌打ちしつつさらに逃走。
湾内絹保、敵に回すと地味に厄介な相手だと第五位も思う。だから優先的に獲ったのだ。
食蜂の傍らにいる(やはり洗脳済みの)黒髪水泳部員・泡浮真彬が滑らかに説明してくる。
「外部との通信ケーブルがあります。どうやら
「ふうん」
『学舎の園』の中で生活していても頭に入っていない事もあるものだ。女王的には用務員とかガードマンとかが普段何をしているのかあまり興味がないからかもしれないが。
例えば『外』の世界では駅、遊園地、スタジアムなど公共性の高い場所なら私有地であっても交番を設置する事ができる。それと同じく、『学舎の園』内部に
(……ああいうのを設置するためにも、結構力なコネを使っているっぽいけどぉ)
「そうなると外の
『自分で魔の手って言っちゃうのはどうかと思いますけど』
「口囃子さん☆」
帆風の力自慢っぷりと言ったら両手で掴んだ大型バイクをサッカーボールより小さく押し潰せるほどではあるが、反面、彼女は標的に近づいて取っ組み合いにならない限り破壊力を提供できない。
「でもこっちの手駒は帆風さん一人だけじゃないんダゾ。ほらほら御坂さぁん右からも左からもわらわら出てくるわよ高位能力者のお嬢の皆さんがぁ!!」
「っ、ええい暴動パニック映画かッ!!」