第一章 プリン一個で終わる世界 5
バタバタバタバタ!! とローターから派手な音を鳴らす無人制御の攻撃ヘリ『六枚羽』が改めて食蜂操祈を狙う。
食蜂があらゆる人間を傅かせる女王なら、美琴には街中に張り巡らせたネットワークとそこに繋がった機械が全部付き従ってくれる。
「人間とAIの戦争で肉の体が勝つとでも思ったか原始人っ!!」
「能力者の街で何を吼えているのかしらぁ御坂さぁん!?」
ざっ!! と靴底でアスファルトを擦る音が連鎖した。
ハズレ率が高かろうが、それでもここは能力者の街・学園都市。数十人まとめて操れば一人か二人は高位能力者が交じっているものだ。念動、空気、発火、重力……。砲弾やミサイルの弾道をねじ曲げ、空中を鋭く飛び回る攻撃ヘリを撃墜するに足る能力者さえ見繕えれば、こんな脅威は怖くない。
つまり金髪お嬢の結論はこうだ。
失敗を恐れず廃課金に挑めばいつかレジェンドくらい出てきてくれる。いいやこの手で必ず出すッ!!
「どこへ逃げるっていうの。学園都市は都会よぉ? つまり私の『武器』は無尽蔵に存在力するんダゾ☆ あなたは蜂と戦うつもりになって蜂の巣に頭から突っ込んだだけ。それで生き残れるとでも思ってぇ!?」
にやにや笑う食蜂操祈。
通りかかった博士っぽいおじいちゃん(銀色の機械犬の散歩中)からいきなり長い金髪を掴まれた。
「なあっ!?」
慌ててリモコンを振るい、洗脳して超攻撃型おじいちゃんを棒立ちにさせる食蜂操祈。良く見たら『暗部』の化け物と陰険ひきこもりのコンビじゃねえか。だがここで終わらない。ガードレールを乗り越え、歩道橋から飛び降りてでも、四方から次々と男も女も大人も子供もこちらに向かって突っ込んでくる。群がる集団にリモコンを突きつけるだけでは間に合わず、周囲の『駒』に口で命令して対応を急がせるしかなくなってきた。
「突っ込んでくる人は全部止めて!! ちょっと、これ、一体どうなってんのよぉ!?」
そしてドラム缶型の警備ロボットはゆった。
『全学区広域指名手配犯・食蜂操祈と九八・八%で一致。その場で止まって
「あっ、し、賞金首扱いですってぇ!?」
「……人間操れるのはアンタだけだと思った?」
美琴はニヤリと笑うと指先から火花を小さく散らせる。
悪鬼がもう一人いた。
「懸賞金六〇〇万円☆ 人間の欲望っておっかないわよねー? そこらの警備ロボットを経由して
「御坂さんってそういうサイテーなトコあるわよね」
静かにキレた食蜂操祈が何故かリモコンではなく携帯電話を軽く操作する。
ブン!! と空気を切る歪んだ音が響いたと思ったら、無人制御の攻撃ヘリ『六枚羽』がいきなり機首を振って美琴に狙いを定めた。
「ちょ……ッ!?」
「重要な指揮官や管制官をあらかじめ洗脳しておけば、この通りダゾ☆ ……くっくっくっ機械力を操れるのは御坂さんだけだと思ったぁ!?」
「アンタのそれ今やってるケンカの話だけじゃなくなってるじゃん、あらかじめって事は何の罪もない人々を常日頃からヤッちゃってんじゃん!!」
ドガドガドガドガッ!! と機銃が唸り、美琴は慌ててビルとビルの隙間みたいな路地に飛び込んで破壊の豪雨から逃れる。
機械と人間。
これで第三位と第五位のアドバンテージはそれぞれが食い潰す格好になった。互いの得意技、シェアの奪い合いで負ければ後は袋叩きコースで確定だ。
バトルフリークの美琴は一人好戦的に笑って、
「なるほど、これで勝負は読めなくなってきたわね食蜂……」
「あっ初春さぁん。イイ所にいたわねぇあなた、ちょっとそのハッカーとしての力を私に貸してちょうだぁい☆」
「こいつ性懲りもなく私の友達に手を出しやがった!! 笑顔で!!!!!!」
……他人の持ち物に魅力を感じるナイスバディな小悪魔でなければ良いのだが。
こちらを狙ってくる『六枚羽』に『
そうなると、
「……機械関係を全部手放すか、残念だけど初春さんにはいったん眠ってもらうか」
これは初春一人に限った話ではない。
食蜂側としては、この学園都市では
逆に言えば、美琴側は何としてもそれだけは阻止しなくてはならない。美琴と食蜂以外の五人がまとめて洗脳され、総出でこっちを集中攻撃してくるようになったら最悪も最悪だ。
黙って食蜂に洗脳を許すくらいなら、
「他の
「御坂さんって追い詰められると血に餓えた孤独な精鋭戦士になるわよね。思考力が内側に向かっているのかしらぁ?」
声は真上から聞こえた。
美琴が『
近距離格闘限定だが、一回でも距離を詰められて掴まれたら美琴でも危ない。
食蜂はお姫様抱っこされたまま勝ち誇っていた。
「狭い雑居ビルの中じゃ磁力で跳んでも一度に稼げる距離は少なくなるわぁ。つまりこっちが捕まえる方が速いんダゾ☆ ベンチプレスで一トン超えちゃうウチの帆風に組みつかれたら何がどうなるかは分かっているわよねぇ?」
「……、」
「さあ帆風さん、あなたの両手で御坂さんなんか千切っては投げ千切っては投げほんとにやっちゃってやりなさ……あだだだだだっ!? ほかっ、ちょ、帆風さん? ストップストップ何で私の背骨をギリギリ折り畳もうとしているの私は裏切り機能なんて高度力なものをあなたに搭載したつもりはないんだけどぉ!!!???」
自分自身お姫様抱っこされた状態で『両手を使って』目の前の美琴をねじ伏せろと命令したら何がどうなるか予測はできなかったのか。言ってみれば、クレーンの鉄球に抱き着いたまま今すぐこれでビルをぶっ壊せと金切り声を上げるような暴挙だ。何があっても与えられた命令に疑問を持たないよう洗脳したのも含めて端から端まで一〇〇%自業自得であった。
(……困ったバカだけど、あいつあれでも常盤台の入試試験は乗り越えているのよね? 試験官や採点者を洗脳した上で全部白紙のまま提出して合格とかじゃなくて)
美琴はさっさと走って雑居ビルの外へ避難する。