1 アインクラッド
2 ③
「あ、んで、オレそのあと、
「え……うーん」
俺は思わず
このクラインという男とは自然に付き合えているが、その友達とも同様に仲良くなれるという保証はない。むしろそっちと
「そうだなあ……」
歯切れの悪い俺の返事に、クラインはその理由まで悟ったのだろうか、すぐに首を振った。
「いや、もちろん無理にとは言わねえよ。そのうち、紹介する機会もあるだろうしな」
「……ああ。悪いな、ありがとう」
謝ると、クラインはもう一度ぶんぶんと派手にかぶりを振った。
「おいおい、礼言うのはこっちのほうだぜ! おめぇのおかげですっげえ助かったよ、この礼はそのうちちゃんとすっからな、精神的に」
にかっと笑い、もう一度時計を見る。
「……ほんじゃ、おりゃここで一度落ちるわ。マジ、サンキューな、キリト。これからも
ぐいっと突き出されてきた右手を、
「こっちこそ、宜しくな。また
「おう。
そして俺たちは手を
俺にとって、アインクラッド──あるいはソードアート・オンラインという名の世界が、楽しいだけの《ゲーム》であったのは、正しくこの
クラインが一歩しりぞき、右手の人差し指と中指をまっすぐ
俺も数歩下がって、そこにあった
直後。
「あれっ」
クラインの
「なんだこりゃ。……ログアウトボタンがねぇよ」
その一言に、俺は手を止めて、顔を上げた。
「ボタンがないって……そんなわけないだろ、よく見てみろ」
横長の長方形をしたウインドウには、初期状態では左側に
視線を再び数時間の戦闘で得たアイテムの一覧に戻そうとした俺に、クラインがややボリュームを上げた声を浴びせてきた。
「やっぱどこにもねぇよ。おめぇも見てみろって、キリト」
「だから、んなわけないって……」
俺はため息混じりに
右側に開いていた
腕に
そして、ぴたりと全身の動きを止めた。
無かった。
クラインの言葉どおり、ベータテストの時は──いや、今日の午後一時にログインした直後も確かにそこにあったはずのログアウトボタンが、
空白箇所を数秒間まじまじと
「……ねぇだろ?」
「うん、ない」
少々
「ま、今日はゲームの正式サービス初日だかんな。こんなバグも出るだろ。
ノンビリした口調でそう言うクラインに、俺はやや意地悪い
「そんな余裕かましてていいのか? さっき、五時半にピザの配達
「うおっ、そうだった!!」
眼を丸くして飛び上がるその姿に、つい口を
重量過多で赤くなっていたアイテム
「とりあえずお前もGMコールしてみろよ。システム側で落としてくれるかもよ」
「試したけど、反応ねぇんだよ。ああっ、もう五時二十五分じゃん! おいキリトよう、
情けない顔で両手を広げるクラインの言葉に──。
俺は、浮かべていた微笑をふと
「ええと……ログアウトするには……」
この
自分よりかなり高いところにあるクラインの顔を見上げ、俺はゆっくりと首を左右に振った。
「いや……ないよ。自発的ログアウトをするには、メニューを操作する以外の方法はない」
「んなバカな……ぜってぇ何かあるって!」
「戻れ! ログアウト! 脱出!!」
しかし当然何も起こらない。SAOにその手のボイスコマンドは実装されていない。
「クライン、
「でもよ……だって、
くるりと振り向き、
馬鹿げてる。ナンセンスだ。だがそれは確かな事実だ。
「おいおい……
わははは、とやや切迫した
「そうだ、マシンの電源を切りゃいいんだ。それか、頭から《ギア》を引っぺがすか」
見えない帽子を脱ごうとするように額に手を触れさせるクラインに、俺は再びかすかな不安が戻ってくるのを感じながら、静かに言った。
「できないよ、どっちも。俺たちは今、生身の……現実の体を動かせないんだ。《ナーヴギア》が、俺たちの脳から体に向かって出力される命令を、全部ここで……」
指先で後頭部の下、
「……インタラプトして、このアバターを動かす信号に変換してるんだからな」
クラインは押し