1 アインクラッド
12 ①
「……くん! キリト君ってば!!」
悲鳴にも似たアスナの叫びに、
「いててて……」
見渡すと、そこは先ほどのボス部屋だった。まだ空中を青い光の
目の前に、ぺたりとしゃがみこんだアスナの顔があった。泣き出す寸前のように
「バカッ……!
叫ぶと同時にすごい勢いで首にしがみついてきたので、俺は
「……あんまり締め付けると、俺のHPがなくなるぞ」
どうにか冗談めかしてそう言うと、アスナは真剣に怒った顔をした。直後、口に小さな
アスナは
足音に顔を上げると、クラインが
「生き残った軍の連中の回復は済ませたが、コーバッツとあと二人死んだ……」
「……そうか。ボス攻略で
「こんなのが攻略って言えるかよ。コーバッツの
「そりゃあそうと、オメエ何だよさっきのは!?」
「……言わなきゃダメか?」
「ったりめえだ! 見たことねえぞあんなの!」
気付くと、アスナを除いた、部屋にいる全員が
「……エクストラスキルだよ。《二刀流》」
おお……というどよめきが、軍の生き残りやクラインの仲間のあいだに流れた。
通常、様々な武器スキルは系統だった修行によって段階的に習得することができる。例えば剣なら、基本の片手直剣スキルがある程度まで成長して条件を満たすと、新たな選択可能スキルとして《細剣》や《両手剣》などがリストに出現する。
当然の興味を顔に浮かべ、クラインが
「しゅ、出現条件は」
「
首を横に振った俺に、カタナ使いも、まぁそうだろなあと
出現の条件がはっきり判明していない武器スキル、ランダム条件ではとさえ言われている、それがエクストラスキルと呼ばれるものだ。身近なところでは、クラインの《カタナ》も含まれる。もっともカタナスキルはそれほどレアなものではなく、
そのように、十数種類知られているエクストラスキルの
この二つは、おそらく習得者がそれぞれ一人しかいない《ユニークスキル》とでも言うべきものだ。今まで俺は二刀流の存在をひた隠しにしていたが、今日から俺の名が二人目のユニークスキル使いとして
「ったく、
「スキルの出し方が
ぼやくクラインに、
言葉に
以来、俺は二刀流スキルの修行は常に人の目がない所でのみ行ってきた。ほぼマスターしてからは、たとえソロ攻略中、モンスター相手でもよほどのピンチの時以外使用していない。いざという時のための保身という意味もあったが、それ以上に無用な注目を集めるのが
いっそ俺の
俺は指先で耳のあたりを
「……こんなレアスキル持ってるなんて知られたら、しつこく聞かれたり……いろいろあるだろう、その……」
クラインが深く
「ネットゲーマーは
そこで口をつぐむと、俺にしっかと抱きついたままのアスナを意味ありげに見やり、にやにや笑う。
「……まあ、苦労も修行のうちと思って頑張りたまえ、若者よ」
「勝手なことを……」
クラインは腰をかがめて俺の肩をポンと
「お前たち、本部まで戻れるか?」
クラインの言葉に一人が頷く。まだ十代とおぼしき男だ。
「よし。今日あったことを上にしっかり伝えるんだ。二度とこういう
「はい。……あ、あの……
「礼なら奴に言え」
こちらに向かって親指を振る。軍のプレイヤーたちはよろよろと立ち上がると、座り込んだままの俺とアスナに深々と頭を下げ、部屋から出ていった。回廊に出たところで次々と結晶を使いテレポートしていく。
その青い光が収まると、クラインは、さて、という感じで両手を腰に当てた。
「オレたちはこのまま七十五層の転移門をアクティベートして行くけど、お前はどうする? 今日の立役者だし、お前がやるか?」
「いや、任せるよ。
「そうか。……気をつけて帰れよ」
クラインは
「その……、キリトよ。おめぇがよ、軍の連中を助けに飛び込んでいった時な……」
「……なんだよ?」
「オレぁ……なんつうか、
まったく意味不明だ。首を
だだっ広いボス部屋に、俺とアスナだけが残された。床から噴き上げていた青い炎はいつの間にか静まり、部屋全体に渦巻いていた
まだ俺の肩に頭を乗せたままのアスナに声をかける。
「おい……アスナ……」
「…………怖かった……君が死んじゃったらどうしようかと……思って……」
その声は、今まで聞いたことがないほどかぼそく
「……何言ってんだ、先に突っ込んで行ったのはそっちだろう」
言いながら、俺はそっとアスナの肩に手をかけた。あまりあからさまに触れるとハラスメントフラグが立ってしまうが、今はそんなことを気にしている状況ではないだろう。
ごく軽く引き寄せると、右耳のすぐ近くから、ほとんど音にならない声が
「わたし、しばらくギルド休む」
「や、休んで……どうするんだ?」
「……君としばらくパーティー組むって言ったの……もう忘れた?」
その言葉を聞いた
胸の奥底に、強烈な渇望としか思えない感情が生まれたことに、俺自身が