1 アインクラッド
15 ①
「……どういうことだ」
「ウム。君らの間の事情は承知している。だがこれからは同じギルドの仲間、ここらで過去の争いは水に流してはどうかと思ってな!」
ガッハッハ、と大笑するゴドフリーを
「…………」
全身を
だが、俺の予想を裏切ってクラディールは突然ぺこりと頭を下げた。ボソボソした聞き取りにくい声が、垂れ下がった前髪の下から流れる。
「先日は……ご迷惑をおかけしまして……」
俺は今度こそ腹の底から
「二度と無礼な
陰気な長髪に隠れて表情は見えない。
「あ……ああ……」
俺はどうにか
「よしよし、これで一件落着だな!!」
再びゴドフリーがでかい声で笑った。
しばらくすると残り一人の団員もやってきて、俺たちは迷宮区目指して出発することになった。歩き出そうとした俺を、ゴドフリーの野太い声が引き止める。
「……待て。今日の訓練は限りなく実戦に近い形式で行う。危機対処能力も見たいので、諸君らの結晶アイテムは
「……転移結晶もか?」
俺の問いに、当然と言わんばかりに頷く。俺はかなりの抵抗を感じた。クリスタル、特に転移用のものは、このデスゲームにおける最後の生命線と言ってよい。俺はストックを切らせたことは一度も無かった。拒否しようと思ったが、ここでまた波風を立てるとアスナの立場も悪くなるだろうと考え言葉を
クラディールと、もう一人の団員がおとなしくアイテムを差し出すのを見て、
「ウム、よし。では出発!」
ゴドフリーの号令に従い、四人はグランザム市を出て
五十五層のフィールドは植物の少ない乾いた荒野だ。俺はとっとと訓練を終わらせて帰りたかったので迷宮まで走っていくことを主張したが、ゴドフリーの腕の一振りで退けられてしまった。どうせ筋力パラメータばかり上げて
何度かモンスターに
やがて、
「よし、ここで一時休憩!」
ゴドフリーが野太い声で言い、パーティーは立ち止まった。
「…………」
一気に迷宮を突破してしまいたかったが、異を唱えてもどうせ聞き入れられまいとため息をつき、手近の岩の上に座り込む。時刻はそろそろ正午を回ろうとしていた。
「では、食料を配布する」
ゴドフリーはそう言うと、革の包みを四つオブジェクト化し、一つをこちらに放ってきた。片手で受け取り、さして期待もせず開けると、中身は水の
本当ならアスナの手作りサンドイッチが食えるはずだったのに、と内心で不運を
その時ふと、一人
いったい、何を見ている……?
突然、冷たい
俺はとっさに水の瓶を投げ捨て、口にある液体の感触も
だが、遅かった。不意に全身の力が抜け、俺はその場に崩れ落ちた。視界の右隅に自分のHPバーが表示される。そのバーは、
間違いない。
見れば、ゴドフリーともう一人の団員も同様に地面に倒れ、もがいている。俺は
「クッ……クックックッ……」
「クハッ! ヒャッ! ヒャハハハハ!!」
「ど……どういうことだ……この水を用意したのは……クラディール……お前……」
「ゴドフリー!! 速く解毒結晶を使え!!」
俺の声に、ゴドフリーはようやくのろのろとした動作で腰のパックを探り始めた。
「ヒャ────ッ!!」
クラディールは奇声を上げると岩の上から飛び出し、ゴドフリーの左手をブーツで
万事休すだ。
「クラディール……な、何のつもりだ……? これも何かの……訓練なのか……?」
「バァ────カ!!」
まだ事態を
「ぐはっ!!」
ゴドフリーのHPバーがわずかに減少し、同時にクラディールを示すカーソルが黄色から犯罪者を示すオレンジに変化した。だが、それは事態に何ら
「ゴドフリーさんよぉ、
クラディールの甲高い声が荒野に
「あんたにも色々言ってやりたいことはあるけどなぁ……オードブルで腹いっぱいになっちまっても困るしよぉ……」
言いながら、クラディールは両手剣を抜いた。
「ま、まてクラディール! お前……何を……何を言ってるんだ……? く……訓練じゃないのか……?」
「うるせえ。いいからもう死ねや」
ゴドフリーはようやく事態の深刻さに気付いたらしく、大声で悲鳴を上げ始めた。だが、いかにも遅すぎた。
二度、三度、
さすがに殺すまではしないのか、と
「ぐあああああああ!!」
「ヒャハアアアアア!!」