I ―スクワッド・ジャム―

第一章「香蓮の憂鬱」 ⑥

 待ち伏せに成功しても、相手の数が多い、すぐ目の前に来ない、武装が飛びけて強いなどなど、少しでも無理があれば決して手を出しませんでした。そのまま潜み続けるか、じんわりと後退して、静かにやり過ごしました。

 こうしてレンは、対人戦闘の面白さにハマっていきました。

 子供のころ、兄姉や友達と遊んだ、おにごっこ、かくれんぼ、ケイドロなどを思い出しました。かくれるドキドキ感、見つけるワクワク感。そしてそこに加わった──、相手を〝撃ち殺す〟ゆうえつかん

 なるほど、これがゲームで本気で戦うということか。勝負を楽しむということか。

 理解が深まったレンは、今まで鹿にしていてすみませんと、世界中のゲーマーに心の中で謝りました。

 モンスターりと対人せんとうによってかせいだ経験値で、レンはびんしようせいのうをさらに上げて、ますます素早く動けるように、そして速く走れるようになりました。

 レンはまったく気付いていませんでしたが──、

 敏捷性、またはアジリティ、略してAGIを上げていくこのスタイルは、《AGI万能論》と呼ばれ、このころのGGOでは、〝対人戦闘で最も有効〟とされていました。

 稼いだクレジットで、レンは対人戦闘に向いているじつだんじゆうを手に入れました。

 予算と知識をフルに使って選び出したのは、旧チェコスロバキア製のサブマシンガン、《Vz61 スコーピオン》。

 ストックを折りたたんだ状態で全長27センチと、世界で最も小型で軽量なサブマシンガンの一つです。使うのがけんじゆう用の小型弾薬とはいえ、引き金を引くだけでマガジンの30発を2秒足らずでちきることができます。ていりよくのデメリットと、反動が弱く命中精度が高いというメリットを持つ銃です。

 レンはこれを〝2丁〟買いました。共にストックを外して、やはりピンクにりました。

 レンの戦い方は、サソリのひとしのように、〝いちげきひつさつ〟でした。

 他プレイヤーがひそむ自分のすぐそば、おおよそ10メートル以内に入ったら──、両手にスコーピオンを持って、きたえた敏捷性にものをいわせて相手へと飛び出します。

 そして、銃口の先を相手の頭に、まるで下からき刺すように向けると同時に、フルオートで撃ちまくるのです。相手が一人の場合は右手のスコーピオンで、二人の場合はすぐさま左手のスコーピオンで。

 GGOには、《バレット・ライン》というシステムがあります。日本語では《弾道予測線》。

 これは、げきや待ちせなど、相手を認識していない場合の初弾をのぞき、銃口を向けられたキャラクターに見える赤い線です。飛んでくる銃弾のせきを事前に見て、かい行動のきっかけにできるというもの。

 当然現実にはこんなものはなく、ゲームとしての面白さを増すためにもうけられた、ぼうぎよてきなシステム・アシスト機能です。

 バレット・ラインをよく見て、必要最小限の動きでけるのは、GGOにおける対人戦闘の基本とされています。

 しかしそれも、〝3メートルほどから、銃口を向けられるとほぼ同時にぶっ放される〟ようでは役に立ちません。バレット・ラインが目の前でかがやいた次のせつには、フルオートで顔面をそうしやされるのですから。

 レンが生み出したのは、銃の特性をフルにはつした、まるで東西冷戦時の東側暗殺者のような、実にえげつない〝殺し方〟でした。

 こうして、レンは機会があるたびに着実に戦果を上げました。ある日はモンスターをたおして、ある日は、かわいそうなだれかさんを問答無用で倒して。

 そしてとうとう、


ばくフィールドに、正体不明の、おそろしい待ちせプレイヤー・キラーがいる。いくにんものソロプレイヤーが、相手の容姿を見る間もなく殺されているそうだ』


 そんなうわさが、ローブ姿で町を歩くレンの耳にも届きました。

 誰かをおとりにして発見して、そのPKろうの正体を見極めようという、とうばつたい募集の知らせまで出回りました。このままでは、けんしようきんまでかけられそうです。

 さすがにレンも自重して、きようとも取れる砂漠での待ち伏せはめました。

 以後はつうに緑色のめいさいふくを着て森林フィールドでモンスターりをしたり、せきはいきよの冒険をのんびりと楽しんだり。

 ゲームを始めて3ヶ月以上。

 2025年が最後の月に入ったころ──、

 こつこつ遊んだレンは、ちゆうけんといえるほどの強さを手に入れていました。もっとも、当の本人には、そんな自覚はありませんでしたが。

〝ピトフーイ〟と名乗る女性プレイヤーと会ったのは、そんなときでした。

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影