I ―スクワッド・ジャム―

第三章「スクワッド・ジャム」 ①

「スクワッド・ジャムってのは、この《ガンゲイル・オンライン》の中で、〝少数チームを組んでバトルロイヤルをやろう〟って大会なのよ」

「バトルロイヤル……? みんなでいつせいに戦うあれ?」


 きよだいミミズをった後、だれもいないこうを散歩しながら、レンとピトフーイは、仲良く会話を続けました。

 もちろん、他のプレイヤーからしゆうげきされたらすぐに反撃できるように、見張りとけいかいおこたりません。だんは人の顔を見て話すレンも、警戒中は前や横を見ながらの会話になります。


「そう。レンちゃん、《バレット・オブ・バレッツ》は知ってる? みんなBoBって呼ぶけど」


 レンはうなずきました。


「名前とがいようだけ、だけど」


 BoBとは、GGO内での最強プレイヤーを決める、バトルロイヤル大会のことです。一対一の予選トーナメントを勝ちいたすごうでの三十人が、広いフィールドで最後の一人になるまで殺し合います。

 ちがいなくGGO内最大のイベントで、回を追うごとに盛り上がりが増しています。これに出場することにゲーム人生をけているプレイヤーは、とても多いとのこと。

 つい最近、その第三回大会が終わったばかり。

 もちろん、参加など当然考えていないレンでしたので、どんなバトルだったのかは知りません。その日は姉家族と食事に出かけていたので、ダイブもしませんでしたし、ちゆうけいえいぞうも見ていません。


「その前回の第三回BoBだけど、まあ、私も参加してたんだ。リアルの用事で参加できない可能性もあったから、誰にも言ってなかったんだけど」

「へー! どうだった?」

「予選落ち。それも二回戦でね」

「あら……。残念」

「まー、げきでやられちゃったから、運もなかったけどね。で、その決勝バトルロイヤルで、ちょっと変わったことがあってね。ぎりぎり最後まで、二人のプレイヤーがタッグを組んで戦ったの」

「そんなこともあるんだ」

「この先ひょっとして録画を見るかもしれないからこれ以上のネタバレは防ぐけど、最後までハラハラドキドキで、見ていてちよう面白かった! しびれたっ!」

「へえ」


 ピトフーイがじゆうのこと以外でここまで何かをきようれつめるとは、レンは意外に思いました。ちゆうけいろく、見てみようかなと思いました。


「で、ここからが本題。──そのBoB中継を見ていたとある日本人が、鼻息あらく思ったんだって。『こんな感じの、チームバトルロイヤルが見てみたい!』って。『複数対複数も燃えるにちがいない!』って」

「ふむふむ」

「その人は、アメリカ合衆国にあるGGO運営団体の《ザスカー》にログイン中に英文メッセージを送りつけた。『はいけいエブリバデ。ぼくはチームバトルロイヤルが見たいので、ともかいさいしてください敬具』」

「まさか、そんな個人の要望が許可されたの?」

「そーなのよ。その人はザスカーに、開催に必要な費用は自分が出します、つまり大会のスポンサーになりますってしんしたんだって。いったいいくはらったか想像もつかないけどね。リアルも割れていて、五十過ぎの病的なガンマニアで、銃が出てくる作品ばかり書いている小説家だって話よ」

「はあ……。とくな人もいるんだなあ……」

「まあ、ガンマニアってだけで十分つうじゃないけど、小説家はなおさらね。合わせ技一本ってところ? 町を歩いていたらたいした方がいいわ」

「ピトさん……、世界中の作家さんに何か激しいうらみでも?」

「ん? 別に? ──その作家さんの熱意が実ったのか、単にペイすると思ったのか、ザスカーも〝じゃあ日本サーバーだけで、個人協賛のミニ大会として開催します〟ってことになったのよ。その大会名がスクワッド・ジャム、略してSJ。その人の命名らしいから、英語としてあっているのかは分からないけど」

「なるほど。イカのしおからは全然関係ないと」

「まだ言うか。──SJは参加者、いや、参加チームを募集中でね、28日、つまり来週の水曜日昼が募集しめりで、その次の日曜日、2月1日に開催」

「ずいぶん急だね……。人、集まるのかなあ?」

「今のところ、そくに名乗りを上げたチームはそこそこあるみたいで、参加者不足で開催が危ぶまれるってことはないってさ。最初だから試験的な開催で、よほど大量のチームが集まらない限りは予選はなしってことだから、ソロの猛者もさばかりのBoBには出られなくても、チームで予選なしなら出られるって喜んだ人が結構いるみたいよ。逆に、BoB決勝に出られるようなきようごうは、まあ、みんなパスでしょ。連中、仲が悪そうだからね。背中を任せていつしよに戦うくらいなら、ひるでもしてるでしょ」

「ふーん」

「なんか、興味なさげだね? レンちゃん」

「だって──、BoBもそうだけど、対人せんとう大会なんて、わたしには向いてないもん」

「暗殺者みたいなえげつなーいPKやっておいてよく言う」

「あ、あれは! ──その……、うん」

「うん、あれはよくやった! ──でね、ここからが本題だけど」

「はあ……」

「レンちゃん、SJに出て!」

「はい? わたしが? ピトさんと組んで?」

「いや、すっごくすっごく残念だけど、私はダメなんだ。2月1日は……、中学以来の親友のけつこんしきでね。さすがにそれぶっちぎってゲーム大会に出たなんてバレた日にゃあ……、よしんば死なずに優勝しても──」

「うん、リアルで殺されるね」

「でしょ?」

「つまりその日に、日本中の結婚式参列者の女性をさがせば、リアルのピトさんがいる、と……」

「ひゃあ見つかる! ──それはさておきね、レンちゃんにはとも参加してほしいんだ! その日、ひま? 友達とか自分の結婚式とか、ない?」

「手帳見ないと断言できないけど、多分、なかった、気がする……」

「じゃあ参加! 手続きはやっとくから! チーム登録だから名前があればオッケーだし」

「ちょ、ちょっと待って! どうしてそうなるの?」

「何事も経験だよ!」

「だって、チーム戦なんでしょ? わたし、だれいつしよに戦うの?」

「お、やる気が出てきたね。いいことだ」

「聞いただけ!」

「私の知ってるプレイヤーで、強いのがいるのよ。男だけど、まあ、変なヤツだけど、ぶっちゃけ頭の中はほとんど犯罪者だけど、悪いヤツじゃないから。いいヤツでもないけどね。そいつとコンビ組んでよろしく!」

「え? 二人だけ?」

「うん。二人だけ。他に都合がつかなかったからさー」

「…………。ピトさーん、それでわたしが『わあい! 分かりました!』って言うと思う?」

「何事も経験だよ!」

「いや、その……」

「ねえレンちゃん。私が思うに、レンちゃんはリアルでいろいろ抱えてるでしょ?」

「えっ?」


 おどろいたレンは、ピトフーイに顔を向けていました。

 だんなら、見張りのためにこっちを見ない! と言ってくるピトフーイですが、言いませんでした。

 タトゥーだらけですが、まるで優しい心理カウンセラーのような顔を見せると、


「リアルで、何かこう、うつくつした感情を抱えているでしょ? だから、GGOに、よく言えばうつぷんらしに来た。悪く言えば、げてきた」

「…………」

「〝なんで分かるの?〟って顔してるけど、簡単に分かるよ。──だって、私がそうだもん!」

「…………」

「私は現実でいきどおることやどうしようもないことが多すぎるから、ここで暴れてるの。ここで、思う存分、じゆうちまくって、モンスターや人を殺してるの」

「ピトさん……」

「だからね、どうせ現実にできないことをやるんなら、思い切ってやろうぜ! って言いたいのさ! チームバトルロイヤルのじゆうげきせんなんて、現実で、できる? というか、やりたい?」


 ぶるぶると首を横にったレンに、ピトフーイは、子供をさとすようなやわらかい笑顔を見せました。やっぱり顔中タトゥーだらけですが。

 そして、


「だから、暴れようぜ! 水曜日の朝までになんも返事がなかったら、参加ってことにするね!」

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影