I ―スクワッド・ジャム―

第三章「スクワッド・ジャム」 ②

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「スクワッド・ジャム……。どーしよ。チームで対人せんとうかあ……。気が進まないなあ……」


 現実世界にもどってきたれんは、たんそく混じりにつぶやいたあと、まずは、持っていたP90を洋服けに戻しました。

 このエアガンは、先々週のとある日、大手ショッピングサイトで売っているのをぐうぜん見つけたものです。可愛かわいいP90、またはピーちゃんをリアルでも手元に置いておけると分かると、矢もたてもたまらずに注文してしまいました。

 たのんだのはエアガンのP90と、〝あなたにはこんなのもおすすめです〟と画面に出た、小さなP90のキーホルダー。

 翌日に届いたエアガンを見て、香蓮はがくぜんとしました。

 え? こんなに小さかったっけ? と。

 そっか、エアガンだから、本物よりずっと小さく作ってあるのか──。

 そう思ったのは、わずかの間でした。レンと香蓮では体格がちがいすぎて、同じものを持ってもまったくちがって感じるんだと気付いたときには、軽くまいがしました。

 それでもやっぱり気に入って、色は黒のままですが、こうして常に部屋にかざってあるのです。姉とめいが来るときは、当然洋服ダンスのおくかくしますが。

 同時に買ったキーホルダーは、油性ペンでピンクにってしまいました。こちらは、ピーちゃんそっくりになって、とてもいい出来でした。

 いつも学校に持っていくカバンに取り付けようかと思いましたが──、

 じゆうのキーホルダーをぶら下げている女子大生などいないと考え直して、部屋のかべけています。


 GGOは、楽しいです。本当に楽しいです。

 だからこそれんは、月に3000円という、この種のゲームとしてはかなり高い接続料をはらってでも、遊び続けています。いろいろありましたが、今はピトフーイという仲間もできました。

 しかし、楽しいからこそ──、

 現実にもどってきたとき、香蓮はいつも気持ちが重くなるのです。

 VRゲームは楽しい夢の世界ですが、ずっと夢の中にいるわけにはいきません。現実があってこその、〝ユメセカイ〟なのです。それが入れわってしまったら──、悪夢でしょう。

 なんという皮肉なのかと、香蓮は思わずにはいられません。がらいリアルからはなれたくて始めたVRゲームが楽しくて、リアルとのかいを味わうことでつらくなってしまうとは。

 どちらかを選ぶとすれば、当たり前ですがリアルを選ぶしかありません。

 これから学業がいそがしくなったら、就職活動を始めたら、社会人になったら、けつこんしたら、子供ができたら──、とうていVRゲームにげ込むことなど、できなくなるでしょう。

 世の中には、リアルをうっちゃってVRゲームを楽しんでいる人もいるでしょうが、そういうのを『ネトゲはいじん』と呼ぶのです。よい子は決して真似まねをしてはいけません。

 だから、夢世界との別れが辛くならないうちに、または〝別れられない〟という最悪の事態になる前にめてしまう──、つまりVR世界とはすっぱりえんを切るというせんたくが、最近香蓮の頭の中で飛び交っています。長い目で見ればそれが一番いいのは、分かっています。

 SJ参加は、正直まったく乗り気がしませんでした。

 まず、ヴァーチャル・チビはGGOにログインするだけで味わえますし、せんとうも、モンスター相手だけで十分に楽しんでいます。

 一時期ハマった対人戦闘の面白さはていはしませんし、強い相手との勝負となると、少し心がおどるのも事実ですが──、だからといって積極的にやろうとは思いません。

 それに、ピトフーイのしようかいとはいえ、知らない男プレイヤーと組んでの大会参加なんて、まったく気が進みません。コンビとして上手うまく行動できる気がしません。参加する以上は優勝を目指すのでしょうが、自分がいちじるしく足を引っ張りそうです。

 もちろん、彼女の言った〝新しい自分へのちようせんうんぬん〟は、とてもよく分かります。

 なにせ、そのために始めたVRゲームですから。今ここでげてどうすると。

 しかし、SJを断ると同時に、ゲームもすっぱりめるというのも、いい切っけになるのではないか?

 いやしかし、もうちょっと続けても、せめて学生のうちは、就職活動が始まるころまでは遊んでもいいのではないか? 親兄姉からも、もうちょっとしゆを持てと言われているので、まさにこれがそうではないか?

 ていこうていで行ったり来たり。もんもんと考えてはつかれるだけの数分間を過ごしたれんは、


「はあ……」


 ため息を一つついて、困ったときの友人だのみ──、

 VRゲームのせんぱいに、ALOを遊んでいる友人のに電話をかけてみることにしました。


『ういっす! コヒー!』


 幸運にも、美優はこの世界にいました。

 香蓮は、ゆいいつこの件を相談できる彼女に、悶々としたむねの内をたんたんして、


「どうしたらいいと思う? VRゲームの先輩として、たんなき意見をよろしく」

『そんなん、楽しいと思えれば続ければいいじゃーん!』


 返答は、バッサリでした。


『どっちかなやんでいるうちは、どっちをせんたくしてもやむよ? 人間ってさ、選ばなかった方を過大評価するようにできているんだってさ。だったら、どっちを選んでもいい訳で、いっそコインを投げて決めてもいいと思う』

「なるほど……。じゃあ、投げて決めた結果が、なんかこう……、イヤだなあと思ったら? コインの神様の判断に、従えない気持ちがあったら?」

『それって、心のおくそこでは、出なかった方を欲してるってことでしょ? そっちを選ぶべきだよ。簡単じゃん』

「あ……。なるほど……」

『勝手な欲望を全開させてもらうと、私は、コヒーとゲームの話ができる今の方がいいなあ。うん、ちようわがままでごめん』


 SJは断るにしても、GGOはもうちょっと続けるか。そう香蓮が思ったとき、

『あれ? でもさ、2月1日って、かんざきエルザのライブ日じゃん。チケット取れたら行こうって話してなかった?』

「えっ!」


 美優の言葉にあわてて手帳を開いた香蓮は、確かにそう書いてあるのを見ました。失念していました。

 まだ一度もチケットが買えていない、かんざきエルザのライブコンサート。いつも会場が広くないので、必ずプラチナチケットになるのです。ドーム球場とはいわないが、せめてもう少し大きなコンサートホールでやってくれよと思わずにはいられません。

 は今、とっくに売り切れのチケットが、インターネットのオークションで、納得できる値段で手に入らないか行動中だったのです。


「本当だ、忘れてた、ごめん……。これ、チケット取れたらもちろん断るね。二人で行こうね。ウチにまりに来てね」

『うん。──でもさ、取れなかったらどうする? ぶっちゃけ、今までの経験から、取れる可能性はフィフティ・フィフティだよ?』

「それが分かるのは、いつだっけ?」

『火曜日の16時』


 なんというタイミングでしょう。

 れんは、そのコイントスに、SJ参加をけてみることにしました。ゲームけいぞくいなかではないのは、この際無視します。


「なら……、そこで教えて! チケット取れたら、ゲーム大会は断るから!」




 1月の東京は、晴れの日ばかりが続きます。

 北海道で生まれ育った香蓮には、寒くない冬よりも、まったく湿しつがない冬の方がざんしんでした。しかし、のどは痛くなるわ、はだれるわ、それらを防ぐために毎日の加湿器の水くみがめんどうだと、正直あまり好きではありません。

 マンションから大学までは、2キロメートル未満。地下鉄なら一駅で、すぐ近くを通っているのですが、よほどの悪天候時以外、香蓮は歩きます。電車内でまどに映る自分を見るくらいなら、歩いた方がずっといいですし、健康にもいいです。

 1月27日。火曜日の16時少し前。

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影