I ―スクワッド・ジャム―

第四章「エムという男」 ②

 演習場とは、文字通りの場所です。

 いろいろな地形や建物が選べるフィールドで、室内しやげきじようちがって、地形を使って実戦にそくした移動やちようきよ射撃の練習ができますし、お互いのダメージをなしに設定すればせんとう演習だって可能です。そしてその間、モンスターや他のプレイヤーからおそわれて殺される心配がありません。ただし、使用には予約が必要で有料であり、かなり高いです。


「なるほど。──でも、一つ、どうしても気になることが……」

「何か?」

「なんでわたしがリーダー? その、確かめるまでもなく、そんな能力、ないよ?」


 レンが小さい体で必死にうつたえたので、エムはまた、少し笑いました。


だいじよう。考えがあるから、そうしているだけだ。実際の作戦は、俺がるよ」




 金曜日が土曜日に移り変わる直前に、れんは現実世界にもどってきました。

 大きな体で大きくびをして、ゆっくりと現実のかんしよくを確かめてから立ち上がると、部屋の明かりをけました。

 ぼんやりと、洋服ダンスにかっている黒いP90を見ながら、


「入団テストだった……、のかな?」


 香蓮はつぶやきました。


 2時間半ほど、レンはエムに、いろいろなことをやらされました。

 二人は、予約していた演習場に行きました。くるった色の空を持つ、岩とほう車両が目立つこうです。遠くにはかたむいたビルと、クレーターを持つ山。見たところつうのフィールドと変わりませんが、2キロほどで移動距離の制限がかかっていて、〝これ以上は進めません〟というとうめいかべがあるはずです。


「装備を全部身につけてくれ。通信アイテムもわたす」


 エムが、まずはそんな言葉。レンは画面を操作して、ストレージに保管してある装備を実体化させました。いつものピンク色のせんとうふくと、P90です。えるには、一度着ている物が消えるので下着姿になるのですが、ローブを装備したままだとだいじようです。

 そして、レンはいろいろなことをやらされました。


『40メートル先にドラムかんがある。あの中央に向けて、立ったまましやげきして欲しい。セミオートで10発をゆっくり、10発をなるべく速く。残りの30発はフルオートで』

『ここからあのはいトラックまで200メートルある。足下は固い石だ。P90を持ったまま、全力しつそうして欲しい。トラックにタッチしたら、また全力でここにもどってくる』

『今度は走りながら射撃だ。ドラム缶に向けて全力疾走、おれの指示で、走りながらぜんだんフルオートでち込め。マガジンが残り8発以下になったら、そくこうかん

『あそこにあるとがった岩まで、目測で何メートルあると思う? その向こうの穴までは?』


 この辺までは、ああ、自分の戦闘力を見ているんだなあと分かりましたが、

『この先は何もない。目をつぶって歩いて欲しい。なるべくつうに、そして一定にだ。指示ごとに、言われた角度に曲がってくれ』

『ゆっくり歩き、普通歩き、小走り、全力疾走──、この四つを、指示で切り替えてくれ』

『うつぶせでていて欲しい。1分以上たったら不意に合図を送るから、立ち上がって指示した方へ走れ。次の合図でまたうつぶせだ』

『後ろ向きになるべく速く歩け。石があるので、もし転んだらそのまま回転して腹ばいになれ』

『しゃがんで丸まって、なるべく小さくなれ。そして、そのまま坂道を転がってみてくれ』


 などと言われると、それが何の役に立つのか、レンにはよく分かりません。

 VRゲームの世界では、どれだけ動こうが肉体的にはろうしません。〝全速力で走れ〟と脳が命令すれば、まるでコントローラーのボタンを操作したかのように、体はいつまでも走り続けるのです。

 何をやっているのかさっぱり分からないので精神的にはつかれますが、レンは言われたことを、しっかりとこなしました。


「うん、分かった。ありがとう」


 レンがこれで終わりかなと思っていると、エムは自分のストレージの操作画面を出して、自分のじゆうを呼び出しました。

 彼の目の前に現れたのは、大きな異形のライフルでした。

 それは、大きく長く、ゴツゴツとしたふくの多いライフルです。工事現場の機械のような印象を、レンに与えました。がんじようそうなバイポッドとスコープが付いています。

 色は、茶色と緑のめいさいそう。あちこちがげていたり、れて色が落ちていたりと、だいぶ使い込まれた様子がうかがえます。


「それが、エムさんのメインアーム? 初めて見たけど、なんて言うの?」


 強そうだけど重そうだな、自分では装備できないだろうなと思いながらレンが聞くと、


「《えむじゆうよんいーびーあーる》」


 じゆうのチェックを終えたエムは、まずは名前だけ答えました。M14・EBRを足下に置いて、装備品を実体化させる作業をしながら、追加説明をしてくれました。


「EBRはエンハンスド・バトル・ライフルの頭文字だ。その名の通り、M14という古いバトル・ライフルの〝強化版〟だ。口径は7.62ミリ」


 それを聞いて、かつてピトフーイに教わったことをはんすうしながら、


「すると、エムさんのせんとうスタイルは……、セミオートでのちゆうきよしやげき?」


 レンが確認するようにたずねました。

 GGOを始めるまでまったく知らなかった銃知識が、今のレンにはたくさんあります。

 チュートリアルで教わり、ピトフーイからも復習したのは──、

『銃は口径によって、また同じ口径でも銃の種類によって、有効射程が変わる。自分の銃、相手の銃の口径と種類に注意しろ』


 ということです。

 有効射程とは、乱暴に言えば〝当てられて、ダメージを与えられる最大の距離〟です。単にたまが物理的に最も飛ぶだけの〝最大射程〟とは、意味が全然ちがってきます。

 7.62ミリクラスの弾丸はりよくが強く、中距離でのげきには最適です。


「そうだな、おれは、基本的には開けた場所で、相手との距離を保って戦いたい。もちろん、近距離の戦闘になってもEBRを使うが、室内などではこれだ」


 そう言ったエムのみぎももに、強化プラスチック製のホルスターが現れました。

 中には、黒く大きな自動式けんじゆうが入っています。エムはスリングでM14・EBRを背負うと、右手でホルスターから拳銃をきました。

 ストレージから出された銃がそうてんされていることはあり得ないので、エムは左手でスライドを引いてはなし、しよだんを薬室に送り込みました。

 親指の位置にある小さなレバーを上げて安全装置をかけた後、エムはレンに拳銃の側面を見せました。


「ドイツのヘッケラー&コッホ(HK)社製《HK45》だ。45口径自動式。マガジンキャパシティは10発。右側のこのレバーを上げれば安全装置がかかり、水平で射撃だ。いざというときに使うことになるかもしれないので、覚えておいて欲しい」


 エムは、M14・EBRのときよりずっとていねいに説明しましたが、レンは、まあ使うことはないだろうなと思いました。

 それでも、一応操作方法は覚えました。あの小さなレバーを上げたら、安全装置がかかる。

 GGOのプレイヤーは、あまり銃に安全装置をかけません。リアルでそんなことをしたら危なくて仕方がないですが、ここはゲームの世界です。暴発の危険より、とっさにはんげきできるメリットを選んでいます。

 レンもずっとそうしていて、フィールドに出ればすぐにP90にそうてんして、セレクターけん安全装置は〝フルオート〟の位置にあります。

 移動するときは、人差し指をピンとばして引き金からけていて、こうげきするときは、引き金のみようなコントロールで、3~5発ずつち込んでいるのです。

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影