I ―スクワッド・ジャム―
第四章「エムという男」 ③
エムはホルスターにHK45を
ベストには、M14・EBR用のマガジンポーチが、ごてごてと付いていました。体が大きいので、ポーチもたくさん付けることができます。合計すると八本以上。かなりの予備
バックパックも大きく
準備を終えたエムが、
「さて、今からレンには、20メートル、50メートル、100メートルと、指示する
「うん。それで?」
「
「はい? それで……、わ、わたしは何をすればいいの? 全力で
自分が射撃練習の的になるのかと
「注意して聞いて、音を覚えて欲しい」
「音?
「そうだ。知ってるかもしれないが、GGOでは、至近距離での銃声は、リアルのそれに比べてかなり
レンは
もしそうでなければ、銃撃しながらの会話など
「しかし、ある程度音量が下がった、つまり耳にダメージが残らないくらいの銃声は、場所や距離による
「なるほど」
「これからレンに、
何それ難しそう、とレンは思いましたが、まあやるしかありません。撃たれるよりはいいですし。さっきが体育のテストなら、今度は音楽ですか。
「分かった……」
「それが終わったら、今度は間に
うわあ、こりゃ大変そうだ。レンは心の中で
* * *
〝入団テスト〟が終わった翌日の土曜日、
すっかり
「うーん……、今日は
GGOをプレイするのは止めておきました。
一人でもモンスター
キャラクターが死んでも、《デスペナルティ》を食らって、つまり
そうなると、仲間が拾ってくれなければ、永遠に失ってしまうことになります。レンには仲間がいないわけですから、どうなるかは自明の理。大切な大会を明日に
結局この日の午後は、何もしないことにしました。
どうせ明日になれば、イヤでも暴れることになるのです。レンは、
「ああ、やっぱり
明日のライブに行けない歌手の
シンガー・ソングライターなので作詞作曲もしているのですが、神崎エルザの歌には、クラシックの名曲をアレンジしているものが多数あります。クラシック好きの香蓮が気に入っている理由の一つです。
聞きながら、
香蓮は、ふと思い立って、
『
肉筆のファンレターを書いてみることにしました。
ファンレターなど書くのは人生初でしたが、不思議と筆が進んで──、
気がついたら、自分が長身でずっとコンプレックスがあることや、それを解消するために、チビのアバターを手に入れたVRゲームにのめり込んでいることも書いていました。
そして、現実世界では
書き終えて、夕食を
さすがにこれは、感情を
「…………」
どうせ読まれないだろうと思って、そのまま出すことにしました。
送り先は、神崎エルザの事務所です。
万が一返事が来るといいなと思って──、
封筒の裏には、自分の氏名住所をきっちりと書きました。
* * *
レンが、可愛いシールで神崎エルザへのファンレターの封をしていたのと同時刻──、
日本のあちこちでは、翌日の大会を
ある場所では、五人の男達がインターネット電話で
『いよいよ、我々が
『おう!
『そうだ! 我ら生まれたときは
『イヤだよお前先に死ねよ。骨は拾ってやらないが、装備は拾ってやる』
『ひでえ!』
『ぶひゃひゃ! 盛り上がってるトコ悪いけど、SJはBoBと同じでドロップはねーから』
『なんだ。ちぇ』
『知らなかったのかよ! お前ホントにひでえな!』
『場を
『いつか背中から
『ま、そんな調子で気楽にやろうぜ! せっかくこんな変な大会開いてくれたんだ。BoB三回連続予選敗退の
『おうっ! チーム戦なら、結構いい所まで行けるかもな!』
『よし!
『おー!』『おー!』『おー!』『やー!』
またある場所では、一人の男が、六人の男に向けて話していました。
「いよいよ明日だが、まあ、今回は実験であるから、よしんば
さらに別の場所では、やはりインターネット電話の同時通話をしている女達がいました。
『いよいよ明日だねえ。ログイン、忘れないでね。特に──』
『分かってる分かってる! 明日は、ボスに電話かけてもらうから!』
『いっつも
『ここまで来たからには、目指すは一つだよ! 優勝だよ! 賞品ゲットだよ! それ以外は、ないよ?』
『もちろん!』
『了解!』
『任せて! 私達なら、できる!』
さらに別の場所では、ベッドの上で
「いよいよ明日だね、頑張ってね、ダーリン!」
「…………」
「
「…………」
「それくらいの
「
「いいから! 大丈夫だって! ほら、まだこんな時間だし、もう一回しよ!」
「明日の仕事に差し
「それくらいでへこたれないよ私は。そっちこそ、もうお
こうして、日本時間の土曜日は過ぎていきました。
時計が
さあ、戦いの始まりです。