I ―スクワッド・ジャム―

第五章「大会開始」 ①

 2026年2月1日。日曜日。

 正午ごろから、ガンゲイル・オンラインにおける中心都市、SBCグロッケンの一角がにぎわい始めました。

 太いメインストリートにある、大きな酒場です。

 酒場といっても、レストランでもあるしきつてんでもあるし、ショッピングモールもりんせつしているし、ゲームコーナーやカジノもあるし、おくには室内しやげきじようまであります。

 だんでも日曜日は、この店をお気に入りにしたプレイヤーでそこそこ混むのですが、この日はそれ以上です。

 理由はたった一つ。ここが、〝第一回スクワッド・ジャム〟の大会本部になるから。

 BoBのようなGGOを挙げてのきよだいな大会とはちがいますので、今回は《そうとく》と呼ばれる中心せつではなく、この酒場が使われました。

 参加者は一度ここで集まり、時間になると準備のため、チームごとにせまい《待機エリア》に飛ばされます。

 そこでの10分のカウントダウン中に、装備をストレージから出して、作戦会議をします。そして14時ちょうどに、どんな地形だか分からない戦場へと飛ばされるのです。

 せんとうシーンは、いくつものカメラでちゆうけいされます。

 BoBほどの大会になると、その模様がネット放送局の《MMOストリーム》で中継されるので、インターネットがつながればどこでも見ることができますが、SJはそこまではいきません。

 この酒場で、かべや天井にぶら下がる大きなモニターでみんなでワイワイと楽しみながら見るか、GGO内の中継を見るか、または録画を後日見ることになります。



 ローブ姿のレンが入店したのは、左手首に巻いた小さなデジタルうでけいによると12時45分。ゲームシステムと連動しているこの時計がくるうことなど、あり得ません。

 SJ参加プレイヤーの集合時間が13時40分で、エムとの待ち合わせが13時半だったので、だいぶゆうがあります。

 レンは賑わっている店に入ると、空いている個室を探しました。さっさと引きこもって、これから戦う相手に情報を与えないためです。

 酒場にはあいじゆうを見せびらかしているプレイヤーが何人もいましたが、それは敵に対策法を教えてしまうだけのおろかなこうなので決してしないようにと、エムに言われていました。もちろん、わざと弱いじゆうを見せびらかして、本戦では強力なレア銃を使うという情報戦の可能性も残りますが。

 レンは一つの部屋に入って、カーテンを閉めました。部屋番号を、約束通りエムにメールしました。

 数分と待たず、最初のアイスティーがなくなる前にエムがやって来ました。相変わらず山のようなきよたいですが、もうレンにきようしんはありません。


「やあ。今日はがんろう」

「こちらこそ」



 時間までのんびり待つことにした二人の耳に、店内の盛り上がりが伝わってきました。

 モニター画面では、今回のスポンサーになった小説家という中年男が、アバターではなくリアル姿で取材を受けていました。

 しようひげを生やしたむさ苦しい男が、いやー楽しみですよとか、みなさん存分にゲーム内でち合ってくださいねーとか、なんだかとてもうれしそうです。


「って、言い出しっぺの本人は参加しないのかよ!」


 そう酒場の客にツッコまれていましたが、すぐさま別のだれかが、


「いや、リアルは割れているけどアバターは割れてないわけで、この取材終わったらこっそり参加じゃねえか?」

「なるほど! つうと逆か!」

めずらしいパターンだな……」

「じゃあ、そいつたおしたらボーナスか?」

「この大会しゆさいするのに、いくら出したんだろうな?」


 などという会話も聞こえてきました。

 レンとエムは、目の前にかぶウィンドウで、出場チームリストを見ました。

 全二十三チームです。BoBが、数百人の予選で三十人にしぼることを考えれば、予選ナシでこれはやっぱり規模が小さいと言わざるを得ません。

 とはいえ、一チームが上限の六人まで登録していれば総参加者は百三十八人な訳ですから、BoBと同じ広さのフィールドでのゲームとしては、かなり〝ごちゃごちゃ〟しているのも事実です。


「開始直後に、酒場ががらんとしなければいいがな」


 エムが言いました。レンはそれを想像して、クスッと笑ってしまいました。

 とはいえ、レン達が個室に入ってからも次々にプレイヤーがしかけていたので、その心配は必要なさそうです。第一回スクワッド・ジャム、思いのほか盛り上がっていました。

 出場リストのチーム名ですが、レン達のそれは《LM》となっていました。

 レンとエムという、実にそのまんまです。レンが先なのは、単にアルファベット順なのか、それともリーダーに敬意を表したのか。

 他のチーム名も、《DDL》とか、《ZEMAL》とか、《SYOJI》とか、《CHBYS》とか、《DanG》とか、《SHINC》などといったシンプルで短いのばかりです。

 りやくしようのように見えるのが多いので、登録時に名前を略されたのでしょう。それを思うと、LMとはシンプルでいいなと、レンは思いました。

 重要なのは、チーム人数がどこにもっていないことです。

 これでは、すべてのチームが六人いると思って戦うしかありません。逆を言えば、二人だけのレン達は、これを相手の油断をさそうことに利用できるのです。

 BoBで行われた、だれが優勝するかのスポーツばくは行われていません。その代わり、


『大会の決着が付くまで、何発のじゆうだんが放たれるか予想しよう! 一回500クレジット』


 というBoBにはない予想ゲームはあって、かなり盛り上がっていました。

 ゲーム世界なので、参加キャラクターのはつぽうすうをシステムが正確に数えることができます。決着が付いたときの、全員の消費弾数を当てるというかくです。

 しもひとけたまでどんぴしゃりの場合──、同じ数だけ自分の欲しいたまが当たります。ただし、上限は7.62ミリまでです。

 GGOでは弾薬も自分達で買う(または材料を買って、作る)ので、大量の弾がもらえるとなれば、今後しばらく弾代を気にせず遊べるということに。もちろん、それらをスコードロンの仲間にゆずったり、店で売ったりしてもかまいません。

 ぴったり当てた人がいない場合、数が近い五人まで賞品が出るのですが、十の位、百の位と、当てた位によって賞品のランクが下がります。

 それでもサブマシンガンだったり、しゆりゆうだんをダース単位だったりと、結構いい物がそろっています。にぎわっているのも無理はありません。

 とはいえ、一体何発が発砲されるかなど、簡単には予想がつきません。参加者は応募たんまつで、数千から数万まで、適当な数字を打ち込んでは、ウィンドウに手のひらをし当てて応募していました。

 そんなさわぎをよそに、


「ピトさんは、いまごろドレスかなあ」


 レンが、けつこんしき参列中のピトフーイを思ってそんなことを言うと、


「だろうな。SJに参加できないのを、さぞかし歯ぎしりしてくやしがっているだろう。〝どうしてあの新婦の友人はあんなに悔しそうなのか? まさか?〟などと、周囲に変な誤解を与えなければいいが」


 エムがたんたんとそう言って、レンはき出しました。

 笑ったあと、レンはひざそろえて背筋をばし、


「エムさん、今日はよろしく。わたし、参加するかどうかウダウダなやんでいたけど、もうちょっとGGOを本気で遊んでみようと思います」


 そんなていねいな言葉をおくりました。


「分かった。でも、敬語はこれきりで」

「あ──、了解」


 ゴツい顔と体のエムが、優しげな口調で言います。


おれ、ピトのヤツに言われてるんだ。〝絶対優勝しろ!〟って」

「ああ、ピトさん言いそう」

「できる限りはがんる、とは答えた。ただ、なにせ二人だけだ。そもそも最初から不利だ。レンが戦死して、相手が多数なら、降参するかもしれないとも言った。まあ、それはしょうがないと、ピトは言った」

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影