I ―スクワッド・ジャム―

第五章「大会開始」 ②

「うん。いいんじゃない? さっき本気で頑張ろうって言っておいてなんだけど、ゲームはゲームだから。それに、本当の戦争だって、かなわないってことになれば降参してもいいんだし。わたしも一人だけになったら、さっさと降参しちゃうと思うよ」

「それでも、できる限りは、上を目指す。たった二人でどこまでできるか、楽しんでみよう」


 自分に言い聞かすようなエムの言葉に、


「了解!」


 明るくレンが答えたとき、酒場に女性のアナウンスが流れ始めました。


『スクワッド・ジャム、出場選手のみなさま! お待たせしました! 1分後に、待機エリアへの転送を開始します。お仲間は、全員揃っていますかー?』



 13時50分にレンとエムが飛ばされたのは、うすぐらせまい部屋でした。

 目の前には、『待機時間 09:59』のカウントダウンウオッチ。1秒ごとに減っていきます。これが00:00になると、どこか分からないフィールドに飛ばされてせんとう開始です。


「よーし!」


 レンは、気分が高まってきました。

 いても笑っても、もう試合からはげられません。ごろのリアルでのうつぷんを晴らすために、えんりよなく暴れてやろうじゃありませんか。

 そのためには、準備をしなければなりません。

 まず、目の前に、サテライト・スキャンたんまつが配られたことを示す画面が出ました。

 レンが画面に手をれると、目の前に、大きめのスマートフォンのような端末が現れました。

 使い方の表示も出ました。二つあるメインボタンをすと、手の中の画面に、または自分の目の前に大きく地図が出る仕組みです。こっそりと見たい場合は画面で、ゆうがあるときや仲間といつしよに見たいときは目の前に、というせんたくができるようです。地図の縮尺のへんこうはスマートフォンと同じで、指でまんだり開いたりです。

 本番のたいの地図はまだ分かりませんので、今は〝サンプル〟と大きく書かれた地図が出ていました。

 10分に一回のサテライト・スキャン中は、この地図に白く光る光点が表示されます。参加チームのリーダーのいる位置です。にぶい灰色の点は、ぜんめつしたか降参したチームの最終位置。使い方は至ってシンプルでした。これならだいじようそうです。

 たんまつは一度足下に置いて、レンはローブの下でピンク色のせんとうふくえました。頭にはやっぱりピンクのニットキャップ。首筋にはやっぱりピンクのバンダナ。必要ないローブは、ストレージにしまいました。

 次は装備です。手元にあいじゆうのピーちゃん、ピンクにられたP90が現れました。りようももわきには、予備マガジンが三本ずつ入ったポーチが。

 ウィンドウ画面の操作だけで自分の姿がしゆんに変わっていくのは、昔見たほう少女アニメの変身シーンみたいで、レンは好きです。変身後の姿は、やたらぶつそうですが。

 SJのような対人せんとうで光学銃を使ってくる人はほとんどいないとは思いますが、変わり者はどこにでもいます。レンは念のために、大型のブローチのようなアイテム、ぼうぎよフィールド発生装置も装着しました。

 こしのベルトには場所の余裕があるので、つつがたの救急りようキットを入れたポーチを、マガジンポーチの脇に装着しました。

 救急治療キットは回復アイテムで、に打てば、失ったヒットポイントを30パーセント分回復してくれるすぐれものです。しかし、完了まで実に180秒もかかるので、戦闘中はとても使えません。

 足下に置いてあった配給品のサテライト・スキャン端末は、戦闘服の大きなむねポケットにスッポリと収まりました。


「よし」


 これで、レンの準備は終わりです。

 すると、


「これを」


 実体化したM14・EBRを足下に置いたエムが、レンに何かを差し出してきました。


「ん?」


 首をかしげながら受け取ると、それは、さやに入ったコンバットナイフでした。

 緑のプラスチック製の鞘に黒いナイロン製のカバーがついていて、そこに黒いグリップのナイフが収まっていました。全長は30センチほど。わたりだけでも、20センチ弱はあるでしょうか。

 レンが、おっかなびっくり、フラップを外してさやからナイフをいてみると、それはそれはじやあくというかきようあくそうな、光を反射しない、つや消しブラックの刃が現れました。

 包丁は料理で使っていますが、こんな大型のナイフを持つのは初めてです。レンの手の小ささも相まって、まるでなたでも持っているかのようでした。

 包丁と同じ刃物ではあるのですが、じゆうより身近にある〝武器〟なので、レンにはかなりこわく感じられて、


「…………」


 すぐに鞘にもどしてしまいました。フラップも戻してから、レンはエムに顔を向けました。


「エムさん、これ……、どうしろと?」

「筋力値のゆうはあるはずだから、副武装として持っているんだ。さもないと、P90のたまれのときに、どうしようもできなくなる」

「でも、マガジンは七本装備していて、350発だよ?」


 レンは反論しました。

 りようもものポーチに三本ずつ、P90に装着しているのが一本です。これは、一人が身につけることができるだんすうとしてはかなり多い方です。P90の多弾数マガジンのなせる業です。

 そのとくしゆなレイアウトから、他の銃に比べてマガジンこうかんは手間がかかるP90ですが、レンはきたえたびんしようせいと器用さに物をいわせて、空中に飛んでいるときに完了できるほど素早くこなせます。

 ちなみにストレージにもまだ三本あるので、せんとうと戦闘の間の時間なら、新たなマガジンをさらに装備することができます。

 レンはこれまで、P90のたまがなくなって苦労したことはありません。それ故のサイドアーム未装備です。

 しかしエムは、ゆずりませんでした。


「GGOはじゆうげきせんとはいえ、せまい室内ではかなりの接近戦が、ときには白兵戦もあり得る。人数が多いSJならなおさらだ。〝音を立てるなナイフを使え〟という指示を出す可能性もある」


 これは、レンにもていはできません。

 モンスターりのときでも、接近しすぎて足下に銃弾をち込むことはよくありました。そのときナイフがあれば、確かに切ったりしたりというこうげきもできたでしょう。しかも音もなく。


「近接戦闘では、銃よりナイフの方が強いことはよくある。レンのように敏捷性が高いならなおさらだ。こしの後ろに、水平に装備するんだ。使うときは、右手で逆手に抜いて──」


 エムが言いながら、自分の右手を動かしてレクチャーしました。


「相手はレンより大きいはずだから──」


 まあ、小さいことは、絶対にないでしょう。


「正対したのならとつげきして、敵のまたの下をくぐるようにして、左右どちらかの内股を切り付けるんだ。そこにはだいたいどうみやくが走っているから、かなりのダメージを与えられる。ときに、じゆうだん1発より大きな」

「…………」


 なんともリアルすぎてイヤなレクチャーでした。

 GGOは、ダメージ設定として、人間の急所がしっかりと再現されています。

 頭の中心やえんずいたれると、小さなだんがんでも一発そくがあり得ます。そうでなくても出血の多い場所や、負傷すると体が動かせなくなる場所は、ヒットポイントの減りがぐっと大きいのです。

 銃だとそれほどていこうなかったのに、ナイフだとする気持ちが強く働くものだなと、レンは思いました。どれだけGGOをやり込んで人を撃ったとしても、やっぱりリアルでの人殺しは絶対に無理だなと、少し自分に安心しました。

 もっとも、レンが最初にと遊ぼうとしたALOは、ほうこうげき以外はけんで切りくという肉弾戦ゲームですが。

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影