I ―スクワッド・ジャム―

第五章「大会開始」 ⑤

 はつぽうおんは、タタタタン、という軽めの音がいくにも重なり合って、乱雑なリズムをきざんでいました。下手へたな人が小太鼓をデタラメに連打しているようです。ちがいなく、どこかのチームとチームがち合っているのです。

 音は、長く、また短く続き、2秒以上れることがありません。相当数のたまがばらまかれているようです。


「5.56ミリクラスのアサルト・ライフルだな。サブマシンガンを撃っているやつもいる」


 エムの冷静なぶんせきが、レンの耳に届きました。


「分かるの? エムさん」

「ああ」


 GGOでは、できる限りじつじゆうから音を録音しているので、その再現度は高いです。

 とはいえ、種類まで当てるなんて、キャラクターのスキルなのかプレイヤーの知識なのか分かりませんが、


「は? はあ……」


 どれだけ耳がいいのかと、レンはエムにあきれました。それから、次に心にかんだ疑問をぶつけます。


「もうせんとうになったんだ? 早すぎない?」

「有利なポジションが欲しくて、むやみに全力ダッシュをして、運悪くかち合ったんだろう。場所は、ここより西の森のどこかだ。そう遠くない」

「なるほど……」


 エムの言うとおり、最初のサテライト・スキャンまではまだ7分以上あるので、本当にぐうぜんかいこうだったのでしょう。

 当のかれにしてみれば、ひどい不運です。自分の望む有利なポジションを手に入れる前に、いきなり派手な乱戦になってしまうとは。SJ開始3分で死亡ゲームオーバーなキャラクターも出ていることでしょう。

 音が派手に続く中、


「この先はゆっくり行く。レン、先に立て。この方角だ。ズレ始めたら指示する」


 エムが、左手をゆっくりと動かして、進むべき方角を指し示しました。


「万が一森の中で敵にそうぐうしたら、まずはその場にしゃがめ。以後は、じようきように応じて指示する」

「りょ、了解……」


 正直、いつ敵と遭遇するか分からない今の状態で、しかも見通しの悪い森でせんじんを切るのはかなりこわいですが、自分よりずっとすぐれているだろうプレイヤーからの命令なら仕方がありません。

 レンはなるべくぐ進むように注意しながら、太い幹をけつつ、なおかつ進む先に目を光らせながら、早歩きの速度で進みました。

 進めど進めど、森の中の景色はまるで変わりません。本当に自分が進んでいるのか、それすら危うくなる場所です。

 ばったりと敵に遭遇しませんように、遭遇しませんように──、

 頭の中で願いながら、右手の人差し指をP90の引き金にかけたいのを、ぐっとまんします。指をかけたまま移動するのは、転んだときの暴発のおそれがあるので、絶対にやってはいけません。

 やがて、遠くから聞こえていたはつぽうおんはスッと消えました。どちらかのチームが勝ったのか、それともそうほう一度げ出したのかは、分かりません。

 敵がいませんようにいませんようにいませんようにいませんようにいるないるな──、

 きようで神経をとがらせながら、レンは森のしやめんを下っていきます。あの幹の向こうにだれかがかくれているかもしれない。通り過ぎようとしたらいきなりわきからたれるかもしれない。

 考え出すとキリがありませんので、そのうち、

〝ああもう! 来るなら来やがれ! ちがえてでも、ピーちゃんのサビにしてやる!〟

 そう思いながらの行進でした。

 しかし、幸運の女神はレンに微笑ほほえんでくれたようです。ゲーム開始9分が過ぎても、敵とのせつしよくはありませんでした。


「よし、止まれ。しゃがめ。けいかい待機」


 サテライト・スキャンをチェックするために、エムから行軍停止の指示が出て、


「ふう……」


 レンはその場に、森の中でしゃがみました。

 あと少しおそければ、レンは命じられなくても行軍を止めるつもりでした。

 というのも、森はもう、レンの目の前10メートルほどで終わっているからです。そこから先は草だけの斜面を下って、はいきよとなった都市部です。

 六車線はあるだろう太い道、おそらくは高速道路が、レンの目の前に横たわっています。こうではなく、周囲の地面とは同じ高さにです。位置的に考えて、川はあの高速道路の下であんきよになっているのでしょう。

 移動のしやすそうなそうです。ところどころで車がひっくり返っていたり、焼けげていたりします。今いる森に比べれば、あつとうてきに視界は開けますが、同時にしやへいぶつ、つまり身をかくす場所は減ります。

 その先は、背の低いれきの山がいくつもあり、さらに先には、十階から三十階ほどのはいビルがいくつもそびえています。

 レンは、しんちように前をうかがいました。今見えるはんに、人間の姿はありません。ちがいなく1キロ以上は南下しているはずなので、南側に配置されたであろう敵もまた、南か西に移動していたことになります。


「ふう……」


 レンは長く息をいて、さてエムはどこにいるのか、り向こうとした耳に、


おれは300メートル後ろにいる」


 エムの声が届きました。


「え? そんな遠く?」


 おどろいて、思わず声をらしたレンに、エムの冷静な声がもどってきます。


「これからスキャンだ。レンの位置は、ばれる。だからきよを開けた」

「…………」

「運悪くすぐ近くに敵がいたら、間違いなく、スキャン直後にレンのところにさつとうするだろう」


 それはレンにも分かりました。でもそうなったら、一人で最大六人を相手にすることになります。勝てる気が、まったくしません。


「そ、それで……? そしたら、どうすれば、いいの?」


 エムが何を考えているのかまったく分からなくて、それを聞くしかないのでレンはたずね、


「そのときは、ねらわなくていいから派手にちまくりながら、木を伝って後退しろ。俺は、左側に回り込みながら、追ってきた者をげきしていく」


 なるほど、つまりは自分をおとりにして、エムはフィールド限界なので敵がいないはずの東側に回り込むのかと、レンはひとまず理解しました。

 理解しましたが──、

 リーダーを囮にするなんてひどい作戦だ!

 やや立腹もしました。

 14時09分30秒になって、レンのひだりうでで、腕時計がきざみなしんどうを始めました。毎回のサテライト・スキャンの30秒前に、アラームを設定してあります。


「レンはスキャンたんまつを見なくていい。周囲をけいかいしろ」

「了解」


 言われなくても、敵が殺到するかもしれないのに、のんきに端末など見ていられません。レンはめいさいポンチョの下で、P90の安全装置がちゃんと外れているか、今一度、指の感覚で確かめました。

 そして次のしゆんかん


「え?」


 動くひとかげもくげきしました。

刊行シリーズ

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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影