I ―スクワッド・ジャム―

第六章「戦闘開始」 ①

「え?」


 レンが見つけたのは、明らかに人間でした。

 今いる森の外れから、はばの広い高速道路をまたいだ都市部──、その太い通りを、れきの山に身をかくすようにして、男達が一列になって歩いています。遠く小さくてよく見えませんが、手には黒い太い棒。じゆうでないことなど、あり得ないでしょう。

 レンは近くにあった太い木のわきに身を隠すと、右目だけをそこから出しました。


「え、エムさん……。敵発見……」

「スキャンまであと30秒。できる限り説明しろ」

「え? え、えっと、高速道路の向こう! 町の中! たぶん200メートル以上向こう! えっと、えっと──」

「落ち着け。何人見える? 銃は?」

「最低五人! 銃は分からない! けど、小さくはない! 瓦礫のかげにいて、あ、今全員が止まった!」

「スキャンを見るつもりだ。レンに気付くぞ」

「ど、どどど、どうすればいいの? つの? うう、撃っちゃうの?」


 あせりまくった声で、レンは言い返しました。


「まず、落ち着け。P90でそのきよは無理だ。どのみち発見される。今スキャン開始だ。そこで待て」

「ひゃあ」


 レンは小さく悲鳴を上げつつ、左手首の時計を見ました。14時10分、ちがいありません。


「せっかく先に発見したのにいっ!」


 レンは思わず口に出していました。なんという不運。

 スキャンが始まったはずですが、たんまつを操作していないレンには見えません。じりじりするような10秒ほどが過ぎて、


「確認した。都市部と高速道路の境に一チームいる。距離は200メートル強」


 エムの、冷静すぎる声が耳に届きました。


「ほ、他には?」


 レンの質問に、


だいじようだ。ひとまず、すぐにせんとうになりそうな距離にはいない」


 エムが答えました。それはいいニュースだとホッとしたしゆんかんに、自分の今いる森の中に、音もなくはんとうめいの赤い線が延びてきました。

 照準用のレーザー光線に見えますが、これがバレット・ラインです。

〝これからここにたまが飛んできますよ〟という、GGOならではのていねいなお知らせです。その数は百本以上。

 たとえ夜だろうと雨だろうときりの中だろうと、はっきりと見えるようになっています。赤い線が森の中をつらぬいておどる光景は、派手なコンサート会場のようでした。


「ひゃあ! エムさん! ねらわれた!」


 レンが悲鳴を上げながら顔を引っ込めるのと、むちをはじくようなビュン! という音が自分を包むのが同時でした。あちこちで木の幹がはじけ飛ぶ音が、それに加わります。

 ワンテンポおくれて、ドドドドドドドという重低音と、タタタタタタタタタンという軽いリズムが、さっきよりずっと大きくひびきました。

 レンの姿は見えなくても、かくれている位置がスキャンでばれています。当然だんがんはそこへ集まるわけで、自分の周囲30メートルほどは、ゲリラごうのようなじゆうだんの雨あられ。

 地面から土がはじけ飛んで、シダ類の葉がいます。時々、バレット・ラインとはちがった、オレンジの明るい線が横に走ります。弾丸のしようを射手に分かりやすくするために光る、えいこうだんの光です。

 視覚には赤い線と、ポップコーンのようにはじける地面と木の幹。ちようかくには、チュンというだんがんしようおんと、ビシバシと木々を穿うがつ音とはつぽうおんが完全にミックス。



「うひゃあ! エムさーん! ムチャクチャたれてる! こわい! 助けてー!」


 その場から動けずに助けを呼んだレンの左耳に返ってきたのは、


「うん。相手はマシンガン使いだな」


 冷静なぶんせきの声でした。


「はいいいっ?」

「7.62ミリクラスのはんようかんじゆう。これは、連射音からして《FN・MAG》だろうな。2丁以上ある。軽くひびく、連射速度が速い音もするから、5.56ミリも混じっている。同じくFNハースタル社の《ミニミ》か」

「ちょっとお! 助けてくれないの?」

「今だいじようなら、そこにかくれていて大丈夫だ。じっとしていろ」





「やっちまえー!」


 レンから200メートルほどはなれた、都市部のれきの前で、


「ひゃっはー!」


 マシンガンを、さわやかな笑顔で撃ちまくっている男達がいました。

 総勢五人。

 全員、エムほどではありませんが、なかなかゴツい体型のアバターをしています。

 そして、手にしている銃器もまた、ゴツいものばかりでした。


「楽しいぜえええええええ!」


 そうさけんでいる男は、世界で最も有名なマシンガンの一つ、FN・MAGをフルオートで撃ちまくっています。

 瓦礫の山にきやくを置いてえ付けて、ねらうのはもちろん高速道路をはさんだ森の中。

 ドドドドドドドドドドドドドドという重低音が響きわたって、銃口からのしようげきで辺り一面ほこりが巻き上がっています。銃の左側に延びている7.62ミリ弾の弾薬ベルトが、1秒間に10発以上の速さで吸い込まれていき、弾丸が前へ発砲され、からやつきようは銃の下に、ベルトをつなぐ金属製のリンクはばらばらになって右にはいしゆつされていきます。

 銃口は赤く赤くほのおを生み出し、5発おきに1発入っているえいこうだんが、オレンジの線をえがいていきます。

 その数メートルとなりでは、


「どりゃあああああああああああ!」


 やっぱり暑苦しく叫びながら、FN・MAGの米軍採用型の《M240B》──、わずかな外見の差異以外は同じ銃を、こっちは立ったまま、キャリングハンドルを左手で持って、ストックをわきはさんで連射していました。

 残り三人の男も、マシンガンです。

 一人が、やはり7.62ミリの《M60E3》マシンガンを。

 一人が、5.56ミリのけいかんじゆう、ミニミを。

 最後の一人は、そのミニミを参考にして作られたという、イスラエル・ミリタリー・インダストリー社製《ネゲヴ》軽機関銃を、れきの山の上にせてっていました。

 せんとうシーンはちゆうけいされますので、空中でカメラの位置を示す水色の円がかれの周りを動き回り、格好いいアングルを探していました。


 今中継され、酒場の観客を盛り上がらせている彼等こそ、前日の夜に、

『最低15分は生き残ろうぜ!』


 という、何とも情けないちかいを立てた五人の男達です。

 一覧表には《ZEMAL》としてっていました。レンにもエムにも、またはそれ以外のプレイヤーにも気付きようもありませんでしたが、これは《全日本マシンガンラバーズ》のりやくしよう

 彼等こそ、機関銃が好きで好きでたまらない男達です。

 ゲーム内で意気投合して出会った、日本中に散らばるプレイヤー達です。わずか五人のチームでも全日本を名乗るのは、北海道在住と沖縄在住がいるという、ただそれだけの理由。

 彼等には、〝マシンガンが大好き過ぎてヤバイ〟という共通のこうがありました。

 だから、使う銃は絶対にマシンガンです。

 それ以外は使いませんし、使ったら破門です。サイドアームのけんじゆうすら持ちません。光学銃など、〝何それ美味うまいの?〟と思う連中です。

 重い銃をあつかうにはかなりの筋力値が必要なので、重点的にきたえられているのは言うまでもありません。マシンガンは高価な銃なので、手に入れるために地道にかせいだり、人によってはリアルマネーをつぎ込んだりと、熱い情熱が注ぎ込まれています。

 そしていつしよにGGOを楽しんでいたのですが、彼等には一つのとくちようがありました。

〝対人せんとうにやたら弱い〟──、という特徴が。

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影