マシンガンは、大量の銃弾を雨あられと降らすことができる強力な銃器です。基本的にベルトで繫がった弾薬を使うので、100発以上を休みなしにずっと撃ち続けることもできます。
敵の周囲に弾を送り込んで動きを止めて、その間にアサルト・ライフル、あるいはサブマシンガンなどで裏をつけば、戦闘ではかなり有利になるのですが、
「うおおおおお!」「気持ちいいいぜええええええ!」「ひゃはああああ!」「どりゃあ!」「しねー!」
今、好き勝手に撃ちまくっている五人には、連携の〝れ〟の字もありません。
なぜなら彼等は、マシンガンが思いっきり撃てればそれでいいのです。連なる音と振動を感じられれば、それで満足なのです。
戦術を勉強し、相手の裏を取る作戦を立て、連携して動くという面倒くさいことはやりたくないのです。〝撃ちまくることが俺達の戦術だ〟という開き直った意見も持っています。
だから今まで彼等は、本気で対人戦闘をしたことがありません。経験値やクレジットを稼ぐため、モンスター相手に撃ちまくったことしかないのです。狩りの行き帰りに別のチームに見つかることはありましたが、
「実弾系のマシンガンだらけだ。狩りの帰りじゃないな。止めておこう」
相手が勝手に〝アイツらは対人戦闘に強い〟と判断して、襲撃されることすらありませんでした。
彼等は個人でBoBに参加したこともあったのですが、火力によるごり押しで初戦を運良く突破できても、その先がまずダメで、本戦に出場したことなど一度もありません。
そこでこのSJです。
チームでマシンガンを撃ちまくれるこの大会は、まさに自分達の大会だと、喜び勇んでエントリーして、ゲームが開始され、
「最初のスキャンでこんなに近くにいるとはなあ!」
「ああ、ラッキーだぜ!」
「機関銃の神様ありがとうっ!」
ひたすら撃ちまくっているのです。
そんな相手の隠された実力はさておき、
「ひゃあ!」
撃たれるレンにとっては、ピンチなことには変わりありません。
マシンガン5丁が、ひっきりなしに弾丸を送り込んでくるのですから、周囲は酷い状況でした。
わずか1分の間に、レンの近くにある木は穴だらけになっています。自然破壊にもほどがあります。
自分が隠れているこの太い幹も、見えないけれどもう実は半分ほどえぐれているんじゃないか、そのうちこっちにメキメキと倒れてくるんじゃないか、などと想像してしまい、
「うう……」
寒気で背筋を震わせました。
容赦なく続く鉄の雨の中、
「エムさんエムさーん!」
レンは唯一の仲間に助けを求めました。
サテライト・スキャンの時間は終わっているはずですから、こっちを助けに来ても、いや、来るのは無理でもなんとかしてくれてもいいと思うのですが、
「そのままだ。下手に動くな」
エムからの返事は実にクールかつ素っ気ないものです。
「ぐう……」
レンは、この銃弾の土砂降りエリアからとにかく逃げ出したいですが、移動しようにも、周囲はバレット・ラインがキラキラ輝いています。隣の木にたどり着く前に撃たれそうで、
「くそーっ!」
女子らしからぬ悪態をついて、じっと縮こまっていました。
そのときエムはというと──、
レンの後ろ、100メートルほどに接近していました。一つの太い木を掩蔽物にしつつ、慎重に顔を出した視界の先、森の木々の向こうに、レンを狙っている銃のバレット・ラインを見ていました。森の中で赤い線がうようよしているので、とてもよく分かります。
時々、バレット・ラインが躍るように向きを変えて、自分のいる近くまで来るのですが、まだ避けるほどではありません。
そのバレット・ラインを消しながら弾丸が飛んでくるのもお構いなく、敵が来る可能性のある西側を主に注視しつつ、じっと木の陰に潜んでいました。
エムは、左腕内側の腕時計を見ました。14時10分のスキャンから3分過ぎました。
「そろそろのはずだ……」
エムの呟きを通信アイテムが拾って、
「そろそろ、なんですかー?」
指示を期待するレンからの声が飛んできましたが、エムはサラリと言い返しました。
「なんでもない。そのままでいろ」
「交換っ!」
全日本マシンガンラバーズの一人、M240Bを立ったまま撃っていた男が、そう叫びながらしゃがみました。背負っていた細長いバックパックを下ろすと、中から取り出したのは、予備の弾薬ベルトを入れた袋と、予備の銃身です。
マシンガンは連射が可能な銃ですが、だからといって、延々と撃てるわけではありません。
大量の射撃により銃身は加熱し、性能ががくんと落ちます。そのため、ある程度撃つと銃身交換が絶対に必要で、これはGGOでも再現されています。
銃には各パーツによって耐久値が設定されていて、一番如実に影響が出るのが、連射を続けたあとの銃身なのです。これを気にせず撃ちまくると、命中率が実用に耐えないほど落ちたり、最後は銃が動かなくなるのです。
「了解!」「あいよー!」「任せろ」「がってん!」
周りの仲間が答えました。戦術の連携はほとんど取れないくせに、さすがマシンガンをこよなく愛する男達、こういうときだけはしっかりしています。
男は装塡レバーを引いてボルトを下げると、残弾がないかトップカバーを開けて確認。
次に銃左側のボタンを押しながら、銃身についたキャリングハンドルをぐいっと左にひねりました。もうこれだけで、銃身はロックが解除され、するりと前に外れます。
外したのと同じ要領で新しい銃身を装着して、新しい弾薬ベルトを銃に装着すれば、わずか数秒で交換は終わりです。
「よっしゃああ! 撃ちまくったるぜ!」
再び立ち上がって、レンのいるであろう森へと銃口と笑顔を向けた男は──、
1発も撃つことなく、その場から崩れ落ちました。
うつぶせに倒れた男の首の後ろ、脊髄が走っている箇所には、赤く光る被弾の跡。その体の上には【Dead】のマーカーが、ピコンと立ち上がりました。
つまり、死亡です。
「ん? ──ええっ?」
仲間が死んだことに、調子よくミニミを撃ちまくっていた男が目で気付きました。あまりに自分達の銃声が鳴りまくっていたので、敵のそれは全然聞こえませんでした。
「おいっ! みんなっ! 射撃止めっ!」
発砲を止めて、大声で叫びます。ゲームの中だから、その声は仲間に届いて、
「どうした?」「あ?」「どした?」
急に静かになった世界で、彼等は首をキョロキョロと振って、そして戦死した仲間を見つけました。
「ど、どした? 何があった?」
「いや、それが、分からなくて……」
「まさか、自爆か?」
「そ、そこまでバカじゃないだろ!」
「森から撃ってきたんじゃねーか?」
「あんだけの弾幕の中をか?」
そう言ったFN・MAG使いの男の背中で、赤い被弾エフェクトが生まれました。一発即死は免れましたが、ヒットポイントのゲージは容赦なく減っていきます。緑の安全圏を通り越してすぐに黄色に。
「ぬああああ」
背中に発生した鈍い痛みで悶えて、大きく背中を反らせたところへ、次の弾丸が飛んできて後頭部に命中。急所への一撃は即死の威力があるので、三分の一ほどに減っていたヒットポイントなど瞬時に消滅です。
【Dead】のタグが回る死体がもう一つ増えて、ビルに反響する2発の銃声を聞いて──、