I ―スクワッド・ジャム―

第六章「戦闘開始」 ②

 マシンガンは、大量のじゆうだんを雨あられと降らすことができる強力な銃器です。基本的にベルトでつながった弾薬を使うので、100発以上を休みなしにずっと撃ち続けることもできます。

 敵の周囲にたまを送り込んで動きを止めて、その間にアサルト・ライフル、あるいはサブマシンガンなどで裏をつけば、戦闘ではかなり有利になるのですが、


「うおおおおお!」「気持ちいいいぜええええええ!」「ひゃはああああ!」「どりゃあ!」「しねー!」


 今、好き勝手に撃ちまくっている五人には、れんけいの〝れ〟の字もありません。

 なぜなら彼等は、マシンガンが思いっきり撃てればそれでいいのです。つらなる音としんどうを感じられれば、それで満足なのです。

 戦術を勉強し、相手の裏を取る作戦を立て、れんけいして動くというめんどうくさいことはやりたくないのです。〝ちまくることがおれ達の戦術だ〟という開き直った意見も持っています。

 だから今までかれは、本気で対人せんとうをしたことがありません。経験値やクレジットをかせぐため、モンスター相手に撃ちまくったことしかないのです。りの行き帰りに別のチームに見つかることはありましたが、


じつだん系のマシンガンだらけだ。狩りの帰りじゃないな。めておこう」


 相手が勝手に〝アイツらは対人戦闘に強い〟と判断して、しゆうげきされることすらありませんでした。

 彼等は個人でBoBに参加したこともあったのですが、火力によるごりしで初戦を運良くとつできても、その先がまずダメで、本戦に出場したことなど一度もありません。

 そこでこのSJです。

 チームでマシンガンを撃ちまくれるこの大会は、まさに自分達の大会だと、喜び勇んでエントリーして、ゲームが開始され、


「最初のスキャンでこんなに近くにいるとはなあ!」

「ああ、ラッキーだぜ!」

かんじゆうの神様ありがとうっ!」


 ひたすら撃ちまくっているのです。


 そんな相手のかくされた実力はさておき、


「ひゃあ!」


 撃たれるレンにとっては、ピンチなことには変わりありません。

 マシンガン5丁が、ひっきりなしに弾丸を送り込んでくるのですから、周囲はひどじようきようでした。

 わずか1分の間に、レンの近くにある木は穴だらけになっています。自然かいにもほどがあります。

 自分が隠れているこの太い幹も、見えないけれどもう実は半分ほどえぐれているんじゃないか、そのうちこっちにメキメキとたおれてくるんじゃないか、などと想像してしまい、


「うう……」


 寒気で背筋をふるわせました。

 ようしやなく続く鉄の雨の中、


「エムさんエムさーん!」


 レンはゆいいつの仲間に助けを求めました。

 サテライト・スキャンの時間は終わっているはずですから、こっちを助けに来ても、いや、来るのは無理でもなんとかしてくれてもいいと思うのですが、


「そのままだ。下手へたに動くな」


 エムからの返事は実にクールかつ素っ気ないものです。


「ぐう……」


 レンは、このじゆうだんの土砂降りエリアからとにかくげ出したいですが、移動しようにも、周囲はバレット・ラインがキラキラかがやいています。となりの木にたどり着く前にたれそうで、


「くそーっ!」


 女子らしからぬ悪態をついて、じっと縮こまっていました。


 そのときエムはというと──、

 レンの後ろ、100メートルほどに接近していました。一つの太い木をえんぺいぶつにしつつ、しんちように顔を出した視界の先、森の木々の向こうに、レンをねらっている銃のバレット・ラインを見ていました。森の中で赤い線がうようよしているので、とてもよく分かります。

 時々、バレット・ラインがおどるように向きを変えて、自分のいる近くまで来るのですが、まだけるほどではありません。

 そのバレット・ラインを消しながら弾丸が飛んでくるのもお構いなく、敵が来る可能性のある西側を主に注視しつつ、じっと木のかげひそんでいました。

 エムは、ひだりうで内側の腕時計を見ました。14時10分のスキャンから3分過ぎました。


「そろそろのはずだ……」


 エムのつぶやきを通信アイテムが拾って、


「そろそろ、なんですかー?」


 指示を期待するレンからの声が飛んできましたが、エムはサラリと言い返しました。


「なんでもない。そのままでいろ」





こうかんっ!」


 全日本マシンガンラバーズの一人、M240Bを立ったまま撃っていた男が、そうさけびながらしゃがみました。背負っていた細長いバックパックを下ろすと、中から取り出したのは、予備の弾薬ベルトを入れたふくろと、予備の銃身です。

 マシンガンは連射が可能な銃ですが、だからといって、延々と撃てるわけではありません。

 大量のしやげきにより銃身は加熱し、性能ががくんと落ちます。そのため、ある程度撃つと銃身交換が絶対に必要で、これはGGOでも再現されています。

 銃には各パーツによってたいきゆうが設定されていて、一番によじつえいきようが出るのが、連射を続けたあとの銃身なのです。これを気にせず撃ちまくると、命中率が実用にえないほど落ちたり、最後はじゆうが動かなくなるのです。


「了解!」「あいよー!」「任せろ」「がってん!」


 周りの仲間が答えました。戦術のれんけいはほとんど取れないくせに、さすがマシンガンをこよなく愛する男達、こういうときだけはしっかりしています。

 男はそうてんレバーを引いてボルトを下げると、ざんだんがないかトップカバーを開けて確認。

 次に銃左側のボタンをしながら、銃身についたキャリングハンドルをぐいっと左にひねりました。もうこれだけで、銃身はロックがかいじよされ、するりと前に外れます。

 外したのと同じ要領で新しい銃身を装着して、新しい弾薬ベルトを銃に装着すれば、わずか数秒でこうかんは終わりです。


「よっしゃああ! ちまくったるぜ!」


 再び立ち上がって、レンのいるであろう森へと銃口と笑顔を向けた男は──、

 1発も撃つことなく、その場からくずれ落ちました。

 うつぶせにたおれた男の首の後ろ、せきずいが走っているしよには、赤く光るだんあと。その体の上には【Dead】のマーカーが、ピコンと立ち上がりました。

 つまり、死亡です。


「ん? ──ええっ?」


 仲間が死んだことに、調子よくミニミを撃ちまくっていた男が目で気付きました。あまりに自分達の銃声が鳴りまくっていたので、敵のそれは全然聞こえませんでした。


「おいっ! みんなっ! しやげきめっ!」


 はつぽうを止めて、大声でさけびます。ゲームの中だから、その声は仲間に届いて、


「どうした?」「あ?」「どした?」


 急に静かになった世界で、かれは首をキョロキョロとって、そして戦死した仲間を見つけました。


「ど、どした? 何があった?」

「いや、それが、分からなくて……」

「まさか、ばくか?」

「そ、そこまでバカじゃないだろ!」

「森から撃ってきたんじゃねーか?」

「あんだけの弾幕の中をか?」


 そう言ったFN・MAG使いの男の背中で、赤い被弾エフェクトが生まれました。一発そくまぬがれましたが、ヒットポイントのゲージはようしやなく減っていきます。緑の安全けんを通りしてすぐに黄色に。


「ぬああああ」


 背中に発生したにぶい痛みでもだえて、大きく背中をらせたところへ、次の弾丸が飛んできて後頭部に命中。急所へのいちげきそくりよくがあるので、三分の一ほどに減っていたヒットポイントなどしゆんしようめつです。

【Dead】のタグが回る死体がもう一つ増えて、ビルにはんきようする2発のじゆうせいを聞いて──、

刊行シリーズ

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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
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